第4話 ハートのお弁当
学校での楽しみとしてあげられるものに、俺は昼食が入っている。
コンビニで買ってきたパンを食べるだけだが、ヒデ太郎と何気ない雑談をしながらのんびりとしている時間が楽しい。
本来なら立入禁止の屋上のベンチで食べているが、今のところは誰にもバレていないのでセーフ。
そんな人が一切いない屋上で、その日もヒデ太郎と他愛もない雑談をしていたのだが――屋上の扉が開けられ、桜がやって来た。
手にはお弁当を2つ持っており、なぜか近づかず、扉を壁にして俺たちのことをじーっと観察してきている。
俺が扉の方ばかり見ていたせいでなのか、ヒデ太郎も桜がいることに気がついた。
「なぁこの場所のこと言ったのか?」
「いや言ってないし、ここに来る時も誰も尾いてきてなかったはずなんだけど……なんか来たね」
「これは運命の赤い糸で結ばれてるってやつ? 恋人なら遠く離れていてもどこにいるのかわかっちゃう的な?」
「いやGPSを仕込んだり、犬みたいな鋭い嗅覚がないんだからここに来たのはたまたまだと思うよ」
「なるほど。それならお邪魔虫は退散させてもらうよ。……まかせろ。屋上へは誰も行かせないからなっ!」
ヒデ太郎は俺の言葉を別の意味で捉えてしまい、食べ終わった弁当箱を持って扉の方に颯爽と走って行ってしまった。
ヒデ太郎と桜がまるでバトンタッチするかのように、隣りに座ってきた。
「ら、來也。こんなところで会うなんて奇遇だね」
桜は目を逸らし、手に持っているお弁当の1つを俺に渡してきた。
「これ、よかったら食べて」
断る理由がないので受け取った。
「え。ありがとう」
「來也っていつもパンばかり食べてるから心配だったんだよ? ……人にお弁当を作るなんて初めてのことだから、変なところがあったら食べないでいいからね」
「桜がわざわざ俺のために作ってくれたんだから何でも食べるよ」
「あっ、ありがと……」
桜の照れた顔を見て、俺もイケメンがいいそうな言葉を素で言っていたと気づき、照れてしまった。
「ま、まぁせっかく手作りのお弁当を作ってくれたんだし、早速頂いていい?」
「どうぞどうぞ」
「じゃあいただきます」
手を合わせてお弁当の蓋を開けた。
まず最初に目がいったのは米の上にのせられた、海苔の形だった。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハートじゃなくて愛ってかいたほうがよかったかな。えへへ」
よく見るとのりを小さく千切って、ハートの形にしてあるように見える。
ご飯の横のスペースにはきれいな形の卵焼きや、ミニトマト、タコさんウインナーと色とりどりの食べ物がある。
俺のためにここまでしてくれたと考えると、感謝以外の言葉が思いつかない。
「本当にありがとう」
「いいよ感謝なんて。料理は見た目より味っていうでしょ?」
桜の言葉にたしかにそうだと思い、卵焼きを口に運んだ。
卵の濃厚な味を残しながらも、甘く、口の中で噛んでいたはずの卵焼きはいつの間にかなくなっていた。
卵焼きの好みなんて一度も言ったことがないのに、俺のドストレートで好みの卵焼きだ。
「えへへ。美味しそうでよかった」
桜は俺の卵焼きを食べているときの表情を見て、嬉しそうな顔をしながら自分のお弁当を食べ始めた。
「桜っていつから料理してたの?」
「ん〜。もぐもぐ……。数年前にお母さんからいつか必要になる日が来るからってちょっとずつ教えてもらってたよ」
「そうだったんだ」
少し前の関係なら、桜がこんな料理できるなんて知りもしなかった。
こうやって知らない一面を見るとができるとどこか嬉しい。
もしやこういうことを思うということは、俺はもう桜のことをただの女友達として見ることができなくなっているのではないだろうか?
自分でもよくわからない。
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