16話 告白(ルカ視点)
日輪歴499年12月30日10時10分
日輪歴500年の記念日まで残り1日。
「……あれ、シエル?」
すっかり寝過ごしたようで部屋の時計を見ると10時を過ぎていた。
一緒に寝ていたはずのシエルが見当たらないため不安になったが、ふとテーブルを見ると
駐屯所、ギルドをまわってきます。
お昼前には戻ります。
と書き置きがされていた。
自分から声をかけておいて寝坊するとは……これだからミリアにがさつだのと言われてしまうのだ。
一応……デートよね、今のうちに着替えなきゃ。
私は年季の入ったチェストから白いワンピースとチャコールグレーのショールを取り出す。
はぁ、こんなことならもっと女の子らしい服装を用意しておけばよかったと今更自己嫌悪に陥るが仕方ない。
着替え終わり鏡で身だしなみをチェックする、やはり地味だ。
ショールももう少し明るい色がよかったなぁ。
「ただいま……って、なんかいつもと印象が違う!」
タイミングよく戻ったシエルは、私を見るなり驚いた様子だった。
そういえばいつも女っけのない服装ばっかりだったな。
「おかえり、似合うかな?」
「すごくかわいいよ!」
彼はいつも私を立てるように褒めてくれる、それが妙にこそばゆい。
時間は昼前だったが、朝食もまだだったため早めの昼食も兼ねて街の中心にある料理屋へ向かうことにした。
お昼前ということもあり、店内は比較的空いていてすぐに席に着くことができた。
ひとしきり注文を頼むと、顔見知りのウェイトレスが「え、ルカに彼氏が!?」などと冷やかしを入れてくる。
私は遠目に否定することもできずうつむいていると、シエルも同じ心境なのかどこか目が泳いでいた。
食事を終え、私たちは洋服屋に移動してシエルの普段着などを買ったり、アクセサリー屋や雑貨屋で買い物を楽しんだ。
普通の女の子は、こうやって好きな人と食事や買い物をして過ごすのだろうか。
その後も二人で街をたくさん歩いて回った、疲れも時間の流れも忘れてしまうかのように。
(私はクエスト以外だと、ギルドの宿舎で過ごすことが多かったからなぁ……。)
年相応の出会いもなく、一人で生きなきゃとどこか強がって生きてきた私は、ここ数日で彼のおかげもあり変われたような気がする。
出会って数日ではあるが、シエルの秘めた力や行動力に私も大いに感化されたのかもしれない。
このまま私の人生は平凡で無機質な日常に押しつぶされる、そう思っていた。
でも彼と一緒に過ごした日々は、そんな私の生活に彩りを与えてくれた。
これからもずっと一緒にいたいと思った。
この気持ちが、人を好きになるということなのかもしれない。
気が付けば街は夕焼けに染まっていた。
私は駐屯している兵士に街を囲む外壁の上へとつながる通路を通させてもらった、団長の義理の娘ということもあり顔パスで通れる。
ここは私だけのお気に入りの場所だった。
「すごい、街が一望できるんだ。いい景色だね、しかもほぼ貸し切りだ。」
「でしょ、たまにここで街を眺めるの。いい気分転換になるのよね。」
シエルは感動しながら都市全体を見渡すように身を乗り出す、私はその様子をほほ笑ましく見つめる。
――さて、
私は今日、シエルに伝えたいことがあってここに来た。
でも正直感情はぐちゃぐちゃだ、考えてきた言葉もあったがほとんどが頭からすっぽ抜けてしまった。
それでも私はなんとか言葉を絞り出した。
「シエル、あのね……君と出会ってまだ数えるほどの日数しか一緒にいないんだけど、私本当に嬉しかったんだ。誰かとこうやって家族みたいに過ごせる時間ができて。」
「……。」
シエルはじっと私の話を聞いてくれている、私は高鳴る心拍を落ち着かせながら続ける。
「出会ってすぐにこんなことを言うときっと誤解されてしまうかもしれないけど、あなたに助けてもらって、あなたに笑顔をもらって、あなたと共に過ごして、この数日間はかけがえのないものだったの。この日常を離したくないの、だから……。」
「あなたのことが好き、これからも私と一緒にいてください。」
初めての告白で、頬は紅潮し手は震えていた。
やっと言えた、でもまだ――これは半分だ。
大粒の涙が私の頬を伝った。
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