17話 約束(ルカ視点)

 「ルカありがとう、俺も君とずっと一緒にいたい。」

 「嬉しい……。」

 シエルは私の想いに応えてくれた。


 でも今は喜びだけではなく、私の心の中には複雑な感情が渦巻いていた。

 まだ彼に聞かなくてはならないことがあったからだ。


 「あのさ、明日の夜に何かが起こる可能性は高いんだよね?」

 「そうだね。」

 「シエルは……どうするつもりなの?」

 「俺はこの街に残るよ、脅威が迫っているかもしれないのに逃げるわけにはいかないから。」

 きっとシエルならそう言うだろう、予想通りの返答がきてしまった。


 考えがまとまらず、うまく言葉にできないがなんとか思ったことを口に出す。


 「私ね、この街も、街の人も、お父さんも、ミリアも、今過ごしている日常全てが好きなの。今この街に不穏な動きが迫ってきてるってわかっているけど……みんなを守れるような力は私にはない。」

 「ルカ。」

 「シエルならなんとかしてくれるかもしれない、でももしどうしようもなくなったらと思うと……私怖くて。」

 自分でも何を言ってるかわからなくなる、この街を愛しているのに、この街から逃げるべきではないかと考える自分がいる。

 ようやく家族のように想える人ができたのに、その人を失うかもしれない恐怖に怯えていた。


 この街も、シエルも、私にとっては本当に大切な存在なのに。

 どちらかを天秤にかけられたようでどうすればいいのかわからない。


 「もしシエルの身に何かあったら……私……。」

 不安そうな私を、小さな腕で背伸びしながら彼は私を抱きしめた。


 「ルカ、落ち着いた聞いてほしいんだ。黙っていてごめん、俺にはもう一つの記憶がある。」

 「もう一つの記憶?」

 混乱する私にシエルは落ち着かせるようにゆっくりと話し始める。


 「俺にはもう一つ記憶があって、それはこの世界の遠い未来。世界中の各都市を獣人が支配している時代だ、この都市もゴブリン族に支配され、野営地と化してる。都市が襲われたとされているのが日輪歴500年の節目、明日の夜だ。」

 「俺はその世界で女神フレアの加護を受け戦った冒険者の一人だ。そして多くの冒険者たちのおかげで世界は平穏を取り戻した。でも、そこで冒険者シエル・ベルウッドは死んだんだ。大好きだったはずの世界なのに俺はそこから目をそらして、見ないようにして生きてきた。」

 シエルは思い出すかのように、寂しげにそう語った。

 「でも心の中のどこかで忘れることはできなかったんだ、俺を認めてくれた仲間がいたこの世界を。」


 「これは女神が、そんな俺にもう一度誰かを救えとここに転生させた意思なんだと思う。そして、君の想いがこの場所へ俺を導いてくれた。」

 「シエル……。」

 「約束するよ、この街も、みんなも、君も守る。」

 にわかには信じがたい話だけど、彼は嘘偽りのない瞳で私を見つめた。


 「ルカ、本当にありがとう。俺のことも、この街のことも大切に想ってくれて。大丈夫、俺は負けないから。」

 私は感情が押し寄せ、言葉にできない想いが涙として流れた。


 そんな私を見て、彼は優しく唇を重ねた。

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