13話 秘められた力

 「こんなもんかな。」

 俺はホロウの森につくと早速弓の試し打ちにと、周囲に落ちていた適当な大きさの的になるような物を配置した。

 この世界にきたばかりで弓を練習もなしに実戦で使うことは無理だろう、クエスト開始前に少し慣れる必要はある。

 ましてやそれが購入したばかりの弓ともなればなおさらだ。


 今回は採取クエストだがいつ魔物や獣人が出現しても珍しくない。

 いざ実戦となった時に感覚がわかりませんでは取返しがつかないことになる。


 俺は的の周辺に人影がいないことを確認すると、弦に矢を番え思い切り引き絞る。

 …やはり軽い、本当にこんな強度の弓で離れたところまで矢が飛ぶのだろうか。

 そう考えていた俺の予想を、矢を引き放った瞬間に覆すこととなった。


 放たれた矢はものすごいうねりをあげ、目にも止まらぬ速度で目標へ着弾しそれを粉砕した。

 的代わりに置いておいた朽ちた流木は粉々に消し飛び、引き放った矢は矢筈のあたりまで埋没するほど地面に深く突き刺さっていた。


 俺は存在をすっかり忘れていたステータスカードを取り出し、弓の前にかざした。

 予想通り装備品も調べられるようで、カード上には装備品のステータスが表示される。


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 武器名称:剛弓カラドリス

 攻撃力:1860

 攻撃間隔:4.5秒

 付加プロパティ:クリティカル率+5.5%


 装備必要ステータス:プレイヤー攻撃力 3000以上、弓術スキルS以上

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 ステータスカードの情報から弓はかなり強力な部類のものであることがわかった。

 弓の強度をかなり軽く感じたのは俺の攻撃力が必要ステータスを大きく上回っていたからか……。

 扱うのに必要な弓術スキルは、俺の所持スキルの中の【弓術の心得:極】が発動していたため条件を満たしていたようだ。


 和弓の大きさに慣れていたこともあるが、よくよく見ればこの弓はかなり長大だ。

 いわゆるロングボウという部類に値するものなのだろう、本来であれば扱うのは弓をただ引き絞るだけでもかなりの練度が必要なはずだ。


 「すごいよシエル!あんな遠くの狙ったものを一発で射貫いちゃうなんて!」

 「まあね、動いてない的に当てるだけならそんなに難しくないよ。」

 褒められたことがあまりないため、ルカの言葉が少し照れ臭い。


 俺は用意してあった残りの的も、感覚を確かめながら全て射貫いた。

 飛距離は申し分なく、狙いも思った通りの場所へと飛んで行った。

 これだけわかれば十分だ。


 「待たせちゃってごめん、それじゃ採取クエストを始めちゃおう。集めるのは薬草と綿花だけど、もし亜麻を見つけたらこれも集めておいてもらえるかな?」

 「わかったわ、ささっと終わらせちゃいましょう!」


 俺は深く埋没した矢を全て回収するとクエストを開始した。

 時刻は昼にさしかかろうとしていた、本来であればどこかでゆっくりとランチを食べていきたかったがあまり悠長なこともしていられない。

 

 俺はルカと一緒に薬草と綿花、ついでに亜麻を採取する。

 前者はクエストの依頼物、後者は罠を作成するために必要な物だ。

 街で購入してもある程度の数は確保できると思うが、手持ちのお金も有限だ。

 クエストと併行して収集できるのであればそれでよしと考えた。



 1時間ほど経っただろうか。

 ギルドで借りたカバンには大量の薬草と綿花、亜麻が詰め込まれた。

 そろそろ街へ引き返そうと思っていたところ、少し離れた場所で採取していたルカが足を止め俺を手招きで呼ぶ。

 ルカの指さす方向を確認すると、そこにはかなりの巨躯を持つトロールがのしのしと歩き回っている。


 「あのトロール、確かB級名付きネームド賞金首だったはず。B級冒険者がパーティーを組んで討伐するような強敵よ、バレないうちに戻った方がいいかも。」

 ステータスカードをオークの方へ向けるとステータスが表示される。


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 モンスター名:グレータートロール・グダ

 レベル:43

 賞金首ランク;B級

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 「わかった、無暗に戦闘するのは危ないかもね。」

 ルカを危険な目に合わせるわけにもいかない。

 俺たちはバレないように静かにその場を離れようとした、が


 ベキィ!


 ルカが誤って踏み抜いた枯れ木の乾いた音が、周囲に響く。

 「あ……ご、ごめ――」

 「グオオオオオオオ!」

 俺たちを視認するとグレータートロールは雄たけびをあげながら迫ってきた。

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