12話 装備購入

 俺たちは都市中心部から少し離れた装備屋にきていた。

 駐屯所を出る際にロベルト団長がお金のない俺にいくらか路銀をめぐんでくれたのだ。


 クエストにこれから向かう俺の装備を見てロベルト団長の顎が外れたような顔を思い出す。

 まさか義理の娘のクエストに同伴する男が採取鎌とカバンしか持っていないのは想定外だったのだろう。

 最低限の装備を買いなさいと無理やりそれなりのお金を渡されたという状況だ。


 装備屋の中には様々な種類の武器が飾られている。

 さすが交易都市の装備屋といった感じで、どの装備も性能もお値段もなかなかなものがそろっている。


 「確かにシエルは強いとはいえ、装備持ってなかったしちょうどよかったね。」

 ルカはロベルト団長の絶望顔を思い出したようでクスクス笑っている。

 俺は飾られた武器の中から弓が展示されている場所で品定めをしていた。


 「意外ね、シエルってすごい強いからなんとなく剣みたいな近接武器を買うのかと思ったわ。」

 「近距離での取り回しを考えたら剣がいいんだろうけど、中遠距離も弓なら対応できるからね。」

 それっぽい理屈は述べたものの、一番の理由は敵と接近するリスクを考えてのことだ。

 転生した体は確かに強いステータスを持っているが、不死身の肉体というわけではない。


 それにどのみち俺は弓を選ぶ予定だった。

 引きこもっていた期間が長かったが、唯一中学校まで嗜んでいた弓道だけは自信があったからだ。

 和弓とはもちろん勝手が違うだろうが、今この限られた期間で使いこなせる可能性がある武器と言えば弓しかない。


 しかし……不安なのはどの弓も試しに引いてみたはいいものの、まるで練習用のゴム弓かと思うように軽いものばかりだ。

 これ本当に実践用の弓なのか?

 そんなことを考えていると、1つのある弓が目に留まった。

 見た目は無骨で重量感がある、他の弓とも引けを取らない印象はあるが価格が妙に安いのだ。


 「すみません。この弓の値段、他と比べてかなり安いけど値札を間違えていたりしない?」

 「ん?ああ、この弓は訳ありで買い手がつかないから安くしてるんだよ。ぼうや、それは戻しておいてもらえるかい?」

 装備屋のおじさんが言うには値段は正しいものらしい、確かに大きさから取り回しは悪そうなのでそういった理由などもあるのかもしれない。

 俺は試しにその弓を引きしぼる、うん……なんか見た目のわりにこれも軽いな。


 その様子を見たおじさんは唖然としている。

 「えーと、すみません。試し引きしちゃいけない感じだったかな。」

 「いや、もちろんしてもらっては構わないんだが…。」

 「それじゃこれ買います。」

 街中だし試し打ちもできないのであればあまり悩んでいても仕方がない。

 どれも大きく差がないのであればかなり破格なこの弓を買うのがいいだろう。

 俺はその弓に合わせそれなりの数の矢を購入した、これで当面は戦えるはずだ。


 「いい弓が安く手に入ってよかったね、シエル。」

 「うん、クエストに行く前に少しだけ練習させて。」

 駐屯所と装備屋でかなり時間をくってしまったため、俺たちは急ぎ装備屋を出た。


 「あの子、何者なんだ……サムリングもつけずに弓の名手ですら扱うのが難しいあの弓を軽々と……。」

 呆然とつぶやく装備屋のおじさんの声は、俺たちには届いていなかった。

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