3話 夕食

 「もうすぐできるから、少し待っててね。」


 「ありがとう。」




 台所で料理するルカを遠目に見ながら、俺は餌を待つ雛鳥のように椅子に座り料理の完成を待つ。


 すっかり日も暮れてしまい行き先のない俺を、ルカは冒険者ギルド宿舎の自室に招き入れてくれた。


 助けてくれた恩もあるからしばらくは滞在してくれてもかまわないとまで言ってもらえた。




 俺がおっさんだったら完全にヤバイ構図だが、11歳のシエル・ベルウッド君としてなら問題はない。




 ただ、本来冒険者登録を済ませていない人間が宿舎に頻繁に出入りするのは不自然だ。


 できるだけ早く冒険者登録をすませ、生活基盤を整える必要はあるが…今はその心配は置いておこう。




 「お待たせ、口に合うかわからないけどどうぞ。」


 「ありがとう!いただきます。」




 この世界に転生してから張りつめていた緊張の糸が解けたのか、忘れていた空腹感が一気にわいてきていた。


 テーブルに運ばれてきたサラダ、スープ、パンを俺は一心不乱にたいらげる。


 その様子をほほ笑ましく眺めていたルカだが、機を見て疑問を投げかけてきた。




 「シエル、あなた何者なの?B級冒険者を軽々と倒してしまったり、この街のこともよく知ってる感じだった。でも私はここに長年住んでいるけどシエルのことは知らなかった。」


 ルカがそう思うのは至極当然、この状況は俺自身も逆に聞きたいくらいだ。




 「実はあまり記憶がなくて…森で倒れていた経緯もよく覚えていないんだ。」


 「記憶喪失というものかしら、もしかしたら王都に行けばあなたに関する情報が見つかるかも。」


 確証のないことは言えないため曖昧な返事をする俺に対し、ルカは親身に応えてくれた。




 今この場で異世界に転移してしまったようだと説明したところで、誰にも信じてはもらえないだろう。




 俺は冒険者ギルド前でガドウと戦う前、自分のステータスを確認した時を思い出す。




 【名前】シエル・ベルウッド


 【年齢】11歳


 【性別】男


 【レベル】100


 【HP】9999


 【MP】2856


 【攻撃力】5982


 【防御力】3125


 【速度】535


 【スキル】女神の加護を授かりし勇者[ 詳細を開く ]


 【称号】転生者




 あの時、俺の予想は確信に変わった。


 今いるこの世界は俺が以前熱狂したオンラインRPG【シャドウ オブリビオン】の世界。


 そしてシエル・ベルウッドは、俺が半生を費やして育て上げた最強プレイヤーキャラだ。


 どうやら俺は自分の生き写しである、シエルの体に転生したということらしい。




 冒険者ギルドでガドウに最初殴られた時、すでにある違和感を覚えていた。


 かなり強く殴り飛ばされ体を打ち付けたはずが、痛みが一切なかったのだ。




 何も検証しないままガドウに向かってしまったのは迂闊だったが、結果としてはルカを助けることができた。


 それだけで今は十分だ、俺自身の力や身の振り方はこれから考えればいい。




 「ルカはどうして俺にそんな優しくしてくれるの?」


 「ん、私ね、10歳の時に両親を亡くしているの。あなたを森で見つけた時、どうしてもほっとけなくて。」


 独りぼっちだった俺を見てシンパシーを感じてくれたのか。




 「でも助けるつもりが逆に助けられちゃったね、ありがと。」


 「いや、俺の方こそ困ってたから!ルカは命の恩人だよ。」




 それからはあまりお互い深くは詮索せず、何気ない会話を交わしながら食事を楽しんだ。


 ルカの手料理はお世辞抜きで美味しく、用意してもらった料理は残さず俺の胃の中におさまった。

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