2話 激突

 「ルカから離れろ。」


 俺の放った言葉に、周囲の視線が集まったのがわかる。




 「……クソガキが。俺をB級冒険者【剛腕のガドウ】様と知っての物言いか?」


 ガドウはルカを手放すと、こちらへ詰め寄ってくる。




 ざわり、と周りの空気が変わった。


 にやにや口角が上がっていたガドウの表情は一変し、その雰囲気から怒りが読み取れる。


 周りの取り巻きも、これから何が起こるか恐れるような、期待するかのような好奇の目を俺に向けている。




 10歳くらいの子供が、大柄の男相手に向き合う様は無謀にしか見えないだろう。


 だがそんなことは関係ない、ただルカを助けたい、その一心だった。




 それに俺には無謀というだけでなく、ある一つの仮設が浮かび上がっていた。


 俺はポケットにしまっていたステータスカードを目の前にかざす。




 【名前】ガドウ・ベルガー


 【年齢】32歳


 【性別】男


 【レベル】25


 【HP】1898


 【MP】42


 【攻撃力】649


 【防御力】255


 【速度】51


 【スキル】闘気解放クリティカルブロウ


 【称号】密約人




 思った通り、この男はただ口だけではなくそれなりのステータスやスキルがある。


 しかし――


 俺はステータスカードをおろし、再度確認する。




 「おい、何をコソコソしてやがる。今更怖気づいたのか?」


 お互いの距離は目前となり、いつ殴りかかられてもおかしくない状況だ。




 「いいことを思いついたぞ、お前をいたぶって縛り上げ、この女を目の前でかわいがってやる!」


 そう言い放つと、ガドウは殴りかかってきた。




 ガッ!


 重い一撃が俺の頬を打ちつける。




 「やめて!!!」


 悲壮に満ちたルカの悲鳴が響き渡った。


 取り巻きもその様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた、だがそれもすぐ唖然とした表情に変わった。


 それは俺を殴りつけたガドウも同じだった。




 「どうした、それが本気か?」


 繰り出した一撃は直撃したが、俺は平然と言い放つ。


 さらに殴りつけた側であるガドウの右腕が赤黒く変色する。




 「ぐぅ!反射隔壁シェルスパイクだとぉ!?こいつ……無能力じゃないのか!?」


 驚愕の表情を浮かべたガドウだがさすがはB級冒険者と言ったところか、すぐに切り替えて残った左腕をふりかぶる。


 だが痛みに耐える右腕をかばいながらの動きは単調かつ緩慢だ。


 俺は大振りな一撃を難なくかわすと、力を込めて奴の腹に拳を振りぬいた。




 ズドン!


 撃ち込まれた一撃は正中線を正確にとらえ、にぶい音が周囲に響きわたる。




 「ぐがぁ!」


 ガドウは苦悶の声をあげながら10数メートルは吹き飛び、道端に積まれていた木材に突っ込んだ。




 ドガアアアアアアン!




 けたたましい音を立てながら崩れ落ちる木材を一瞥いちべつし、取り巻きの傭兵たちを睨みつけた。




 「二度と俺たちに近寄るな、次は容赦しない。」


 「…なんなんだ、このガキ!くそ!覚えてやがれ!」


 典型的な三下セリフを吐きながら、取り巻きは気絶したガドウを回収し夜の闇へ消えていった。




 「大丈夫?」


 「シエル…すごい強いのね、びっくりしちゃった。」


 手を差し伸べるがルカは腰が抜けているのか、その場にへたり込んだままだった。




 ギルド前で騒ぎを起こしたとなると面倒になると判断し、ルカが落ち着きを取り戻したのを確認すると、俺たちはその場を後にした。

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