人を幸せにする味

 俺はわずか0.3秒で誤魔化す方法を考えた。

 そうだ、これしかない!!


 だが、親父が鬼の形相で俺と菜枝を引き剥がす。


「おい、來。まさか、菜枝ちゃんを襲おうとしていたんじゃないだろうな!?」

「ち、違うって! 菜枝の目にゴミが……」

「お前は昭和のドラマか!! そんなわけなかろう!! 今、キスをしようとしていたな!!」


「親父の見間違えだ。なあ、菜枝」


 菜枝に助けを求めると、うんうんとうなずいてくれた。ふぅ、これで誤解はとけただろ。


「……むぅ、しかしだな」

「なんでそんな疑り深いんだよ」

「いいか、來。お前と菜枝ちゃんは義理とはいえ兄妹なのだ。間違いが起きたら……その時は娘がいいなァ!!」


「ふざけんな、クソ親父!!」



 親父の背中を突き飛ばしてアパートから追い出した。

 まったく、ふざけやがって!

 おかげで気分が台無しだ。

 まあいい、なんとか許して貰えた(?)ようだし。ヨシとする。



「飯にしよう、菜枝」

「そうですね。では、兄さんはお風呂へ行ってください。今日はわたしがお料理を担当しますので」

「ああ、そうするよ」


 晩御飯は菜枝に任せ、俺は風呂へ。



 * * *



 一日の汗を流し、俺はダイニングへ。

 料理をしている菜枝の後姿があった。まだ学校の制服姿。小さくて可愛い。後ろから抱きしめたくなる衝動に駆られるが、こうして愛でるのも一興。


 ぼうっと眺めていると、俺の気配に気づく菜枝。


「あら、兄さん。お風呂から上がっていたのですね」

「お、おう。すまんな、驚かすつもりはなかったんだけど」

「いえ、大丈夫です。それより、ご飯できましたよ~」

「おぉ、からあげか。美味そうだな」


 菜枝の特製からあげだ。女子にしては味付けが濃く、ブラックペッパーもふんだんに振りかけてあるウマ辛からあげ。これは俺の大好物でもある。


「どうぞ、兄さん」


 椅子を引いてくれる菜枝。

 こういうさりげない気遣いが嬉しい。


「ありがとう」


 腰掛け、さっそく箸を手にする。白米と豚汁、それに野菜と特製からあげと非常にバランスの良い食事だ。和風レストランのメニューにあっても違和感がないレベルだ。これほどの料理が出来るとはなぁ。

 俺の知らないところで相当な努力をしているらしい。


「どうですか?」

「うん、このからあげは完璧な味付けだよ。人を幸せにする味だ」

「そ、そんなに褒められると照れちゃいますっ」


 顔を真っ赤にして照れる菜枝は、とてつもなく可愛かった。な、なんだこの天使は……! こっちまで照れちゃうじゃないかっ。


 思わず俺は叫びそうになった。

 けれど、感情を押し殺して心の中で叫ぶことにした。



(あああああああああああああああああああああ!!)※歓喜の叫び



 よし、これでいつもの俺に戻れる。



「うん、本当にこのからあげ美味い」

「気に入っていただけて嬉しいです。あ、良かったらわたしの分をどうぞ」


 あ~んしてくれる菜枝。

 俺は遠慮なく、からあげをいただいた。う~ん、最高っ!

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