義妹のスカートを忘れた

 ……ふぅ、緊張で死ぬかと思った。

 未だに手は震え、心臓は張り裂けそうなほど。

 天笠さんは想像以上にスタイル抜群なんだよなぁ……。なんでこんな細くて綺麗な肌しているんだよ。魅力すぎるって!

 これで彼氏がいないのだから不思議だ。


「兄さん、次はわたしです」

「わ、分かってるさ、菜枝」


 何度か着せたことがあるとはいえ、緊張感は変わらない。なんと言っても、菜枝は特別だからだ。


 見飽きることないスリムボディ。

 無駄が一切なく、太すぎず細すぎず絶妙な体型を保っている。

 いつ見ても神秘しかない。


 俺は菜枝に服を着させていく。


「……兄さん、指がくすぐったいです……」

「お、おう……気をつけるよ」


 ゆっくりと丁寧に、確実に菜枝に着させていった。……うん、慣れたものだ。もうすぐで着替えが終わる寸前で外から声がした。


『体育館に忘れ物しちゃった』

『ていうか、大雨だるくな~い』


 げっ!!

 他の生徒が体育館に入ってくる。これはまずいぞ。


「菜枝、急いで舞台裏へ!」

「そ、そうですね、兄さん」


 なぜか天笠さんも一緒に舞台裏へ走っていく。ギリギリで隠れることに成功。……ふぅ、さすがに女子を着替えさせているシーンとか見れたら確実に誤解されるからな。

 安堵していると、菜枝がソワソワしていた。


「どうした、菜枝」

「あ、あの……兄さん。わたし、スカートがないのですが……」


「へ……ああッ!?」


 表に置いてきちゃったぞ!!

 冷や汗をかいていると、天笠さんもギョッとしていた。


「し、神堂くん、菜枝のスカートを持ってこなかったの!?」

「慌てていたから……」

「えぇ……。菜枝、ブラウスだけの状態で……ちょっとえっちな感じになっているんだけど!」


 そう言われると……うん、すごくえっちです……。って、そうじゃない! これはあまりに可哀想だ。


 どうにしかしてスカートを取ってこないとな。



「仕方ない、普通に出るか」

「ダメだよ、神堂くん」


 天笠さんが俺の袖を引っ張ってくる。


「どうして? 俺が出るしかないだろ」

「冷静に考えてみなよ。いくら妹のスカートとはいえ、ひとりで取りに行ったらヘンタイさんだよ」


「……む。それもそうだな」


 よく考えなくともヘンタイ扱いされる確率100%だ。

 しかも先生とかに報告されたら、もっと厄介なことになりかねん。……まあ、さすがに菜枝が助けてくれるとは思うけど、リスクは負いたくない。


 となれば……。



「私が行くしかないね」

「天笠さんがいて良かったよ」

「貸しにしておくよ」


 手をヒラヒラさせながら、天笠さんは向かっていった。

 待っている間、俺は視線を泳がせた。菜枝を見ていると……興奮してしまうから。


「……兄さん、寒いです」


 小声で囁く菜枝は、俺にぴったりくっついてきた。


「お、おう……今のうちに俺で温まっておけ」

「はい。兄さんは体温が高くてポカポカしますっ」


 気持ち良さそうに俺に抱きつく菜枝。

 可愛すぎて抱きしめたくなる。

 けれどその衝動は抑えた。

 天笠さんが帰ってくる頃だろうし。

 でも、遅いな。


「天笠さん、時間掛かってるな」

「確かにちょっと遅いですね。じゃあ、今のうちに……キスしちゃいましょ」

「そうだな――って、菜枝」


 まぶたを閉じ、キスを待つ菜枝の姿があった。

 体育館の方では女子の会話が聞こえてくるが、それよりも俺の心臓の鼓動の方がうるさいほどだった。


 こ、こんな場所で……ブラウスだけの菜枝とキス……。こんな経験は今しかできない。俺は……俺は……!

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