体育館の危険な時間

 ――雨が降った。


 信じられない程の大雨だ。

 野球の試合は中止となり、結局無効試合に終わった。なんてタイミングだよ。


 みんな散り散りとなり、俺と菜枝、そして天笠さんだけが残った。


 体育館を借り、びしょびしょになった体操着を乾かしていく。


 ふと菜枝と天笠さんの様子を見ると、雨に濡れて下着が透けていた。菜枝は黒の大人っぽい下着だ。天笠さんは……んなッ!


 ピンクだと……。

 刺激的すぎるだろう。


 バレないようにタオルで頭を拭いていると、天笠さんがニヤリと笑った。


「あれれ~、神堂くんってば顔が赤いよ?」

「……っ!」

「もしかして、下着が気になる?」


 わざとらしく近づいてくる天笠さん。透けた下着が目の前に現れ、俺は興奮を抑えきれなくなる。くそ、天笠さんはスタイル抜群だし、胸も大きいから……困ったぞ。

 誘惑される中、菜枝も頬を膨らませて俺の隣に。


「兄さん、姉さんを見てはいけません!」


 てか、菜枝も見えているんだけどな。しかし、このままでは風邪を引いてしまう。俺はタオルを渡した。


「ちゃんと拭け」


 菜枝の頭に被せ、俺は視線を上に向けた。これなら耐えられる……はずだ。


「やれやれ、神堂くんは照屋さんだね。仕方ない、着替えようか菜枝」

「そうですね、姉さん。幸い、制服は無事ですから」


 体操着から制服に着替える二人。

 って、俺がここにいたらマズすぎるだろ。


 立とうとすると、菜枝が止めてきた。なぜ!


「なぜ服を引っ張る。俺がいたら色々危険だろ」

「大丈夫です。わたしは兄さんのこと一番に信頼していますから」


 それは嬉しすぎる言葉だ。兄として誇らしい。けれど、天笠さんがいるからなぁ……。通報でもされたら俺の人生終わりなのだが。

 しかし、これまた予想外な言葉が返ってきた。


「私もだよ。ていうか、別に裸くらい見られても困らないし」


 その割には声が震えている。

 それに視線を下ろすと耳が真っ赤だった。なんだ、緊張しているんじゃないか。俺もだけど。


「じゃあ、俺は体育館の天井でも見上げているよ」


 少し離れ、俺は大の字になって仰向けになった。こうすれば二人の姿を見る心配もほとんどない。

 ジャージが湿っぽくて、ちょっと気持ち悪いけど今は我慢だ。


 まぶたを閉じ、ゆっくりと待つと菜枝と天笠さんの衣擦れ音が聞こえてきた。服を脱いでいるんだ。……こ、これは思ったよりも緊張する。


「お待たせしました、兄さん」

「もうオッケーだよ、神堂くん」


 もう着替え終わったのか。

 目を開けると、そこには下着姿の二人が――って、アレぇ!?



「うわっ!!」



 イメージしていた菜枝と天笠さんの下着姿があった。てか、着替えてなかったのかよ! おいおい、なんて姿を晒しているんだ。白い肌と芸術みたいな下着が美しい……って、そうじゃない! まずいだろう!!



「えへへ……恥ずかしいです」

「菜枝、風邪を引くって! 直ぐに着替えて」

「着替えさせて欲しいんです」

「なぬ!?」

「そのことを姉さんにも伝えたら、自分もやるって」


 それで二人とも下着姿なのかよ。えっちすぎるだろっ。

 もしかして、天笠さんも痴女なのか!?


「驚いたかもしれないけど、当然のご褒美だよ」

「え……?」

「十万円はあげられないけど、付き合ってくれたお礼さ」


 そんなことで下着姿を……ラッキーすぎるだろ俺。いや、正直言えばあの野球は結構楽しんでいた。途中はお金の為ではなく、勝つことだけに集中さえしていた。

 俺はスポーツはあんまり得意ではないし、好きでもないけど久しぶりに熱中できたと思う。


「でもいいのか? 俺が幸せになるだけだぞ」

「そうでもないよ。私も幸せ」


 恥ずかしそうに微笑む天笠さん。実は結構無茶しているように見える。でも、それでもその姿を俺に見せてくれる。なんだか嬉しくて涙が出そうになった。


 少しもったいないが、そろそろ二人に制服を着せよう。


 風邪を引かれても困るからな。


 まずは天笠さんの制服を摘まみ、俺は着せていく――って、思った以上に恥ずかしいぞ、これ!!!


 震えながらも俺はブラウスを、そしてスカートを穿かせた。……菜枝で慣れていて良かった。まれに着させていたことがあったからな。

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