恐るべき魔球! 負けるわけにはいかない!

 試合はさらに進み――現在、ギリギリのところでAチーム2点、Bチーム1点を保っている。奇跡の1点は俺のホームラン。しかし、このままでは敗北だ。


 現在、ランナー一塁。

 野球部の塩山くん。


 次はバッター、菜枝。

 相手はなぜか天笠さんだ。


 マジかよ。ここにきて急展開だな。


「菜枝、相手は天笠さん……お姉さんだぞ! 大丈夫か」

「大丈夫です、兄さん。相手が姉さんなら容赦しません」


 なぜかメラメラ燃える菜枝。そういえば、今までの勝負でも菜枝は、姉に対しては強気だったな。もしかして、意外と対抗心あるのかな。

 とはいえ、ここまで姉に対しては完勝している。この野球対決もきっと……? いやけど、菜枝は今のところまともに打てていないぞ。


 大丈夫かなぁ……。


 菜枝はついに打席に立ち、天笠さんと対峙した。


「ついに決着の時が来たようだね、菜枝」

「姉さん……。まさか、わたしと対決するために」

「もちろん。ここで菜枝を叩き潰してあげる」


 ピッチャーである天笠さんは、顔つきを変えた。本気なのか……!

 しかし、このままでは菜枝が勝てる可能性は限りなく低い。だから、俺はきっとこんな場面もあるだろうと想定して、菜枝にアドバイスをしておいた。


 菜枝が唯一勝てる方法は、ただひとつ。


 アレしかないだろ!!


 見守っていると、天笠さんが投げた。相変わらずど真ん中ストレート。菜枝はもちろん、俺が教えた必勝法を実践した。


 そう、それは『送りバント』だ!!


 これしかないだろッ!


 見事な構えで天笠さんの球を弾き返す菜枝。さすがにこれなら、誰だって打てる。しかも、それだけではない。


 菜枝がとんでもないスピードで出走した。



「んなッ!?」



 驚くべき光景に、天笠さんが驚く。ついでに周囲も「おぉ~!」と声を上げていた。そうだ、菜枝は走るのが得意だ。

 しかも、ラッキーなことにキャッチャーが呆然としてボールを拾い忘れている。チャンスだぞ!!


 塩山もすでに二塁、三塁と爆走。


 そして、菜枝が一塁ベースを踏もうとしたところでボールが飛んできた。



「セーフ!!」



 おっしゃああああああッ!!



「やりましたな、神堂くん!」


 プロゲーマー部の佐田くんが俺の肩を叩く。他のみんなも一緒に歓声を上げた。……これなら、逆転できるぞ。


 次のバッターは誰だ!?


「さあ、次は君の番だよ、神堂くん・・・・

「――へ!?」


 野球部の白瀬くんからバットを渡されて困惑しまくる俺。あれえ、順番違くない!?

 菜枝の次は俺ではなかったはずだが。


「特別ルールさ。ほら、もう次で決着がついちゃうし」

「いいのかよ!!」


「我々チームの未来は、君に託す。神堂くん、君ならきっと……いや、必ず勝てる」

「白瀬くん……だけど」

「これは我々チームの総意なんだよ。ほら、見てごらん」


 周囲を見渡すと、全員がうなずいていた。


 そうか、気づかないうちに俺たちは一致団結していたんだな。お互いを支え合い、ギリギリの戦いを続けて、ここまで来た。点数こそ負けているが、まだ逆転のチャンスはある。ここまで来たんだ、負けるわけにはいかない。賞金も掛かっているしな!



「分かった。みんなの為に俺は勝つ」


「おおう!! がんばれ、神堂くん!」「その意気だ!」「勝って妹さんにいいところを見せてやれよ」「賞金で焼肉行くぞ!」「お前ならやれる!」「一度はホームランを打ったんだからな」



 バットを握りしめ、打席へ向かう俺。

 すると、天笠さんが待っていましたと言わんばかりに闘志を燃やした。


「神堂くん、これが最後だよ」

「ああ、天笠さん。これで決着をつける」


 身構えていると、天笠さんがボールを投げた。

 これで決めてやろうとバットを振るが、ボールの軌道が変わった。……へ、変化球だとぉ!?



「ストライク!!」



 な、なにィ!?

 今のフォークか……! マジかよ。天笠さん、ストレートしか投げれないわけではなかったのかよ。騙された!



「フフフ、神堂くん。まさか、私がストレートだけだと思った?」

「……くっ! ずっと最後まで隠していたのか」

「とっておきは最後まで残しておくものさ」



 こうなったら次だ。次こそ打つ!

 俺はバットを強く握りしめて、天笠さんを睨む。



「こいっ、天笠さん!」

「神堂くん、これも取らせてもらうよ!!」



 全力投球してくる天笠さん。今度もフォークか……! なら――って、なんだこのボール……すげえ落ちる。ま、まさか!!


 これはフォークというよりは『スプリットフィンガード・ファストボールSFF』!

 そこまで使い分けられるのかよ!!


 直前でボールが大きく下へ落ち、俺は空振り。



「ストライク!!」



 くそおおおおおォ!!

 なんちゅう魔球を投げやがる。


「神堂くん、私を甘く見たね」

「……天笠さん、まさかここまで出来たとはね。今までは本気ではなかったってことか」

「いや、私はずっと本気だったよ。ただ、この時を待ってはいた。君との対決を……。さあ、これで最後だ。打つか、打たれるか……!」


 そうだな。泣いても笑ってもこれが最後。アウトなら、俺たちの負け。だが、まだ逆転のチャンスがある。この俺の腕に掛かっている。


 負けるわけにはいかないッ!!

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