ずっとずっと一緒

 ソワソワしてゆっくりできない。

 バスルームでは菜枝がシャワーを浴びているはず。こう近いと、アパートとは違う緊張感があるな。


「…………」


 そ、そうだ。

 今のうちに天笠さんと連絡先を登録しておこう。そろそろ記憶から消えるところ。忘れない内に登録――っと。


 電話番号を打ち込み終えた。


 ラインにも自動反映され『天笠 薺』の名前が追加された。


 女の子の連絡先が増えるとはな……。



 ――それにしても、天笠さんのアイコン……なんだこれ。宇宙人かな。やっぱり、電波なのかな。



 登録を終えると、すぐにメッセージが飛んできた。……早ッ!



 薺:登録ありがと

 來:よく気づいたね~

 薺:通知が来たからさ。それに、ずっと待ってた

 來:待ってたって。そんなにか

 薺:うん、ずっと連絡したいって思っていたから



 そうだったのか。

 なんだか嬉しいというか……女子からそう言って貰えるなんて光栄だ。菜枝と会うまでは、女子との接点なんて皆無だったからな。



 來:これからよろしく

 薺:うん、よろしく。それで、今はどこにいるの?

 來:都内のビジネスホテルさ

 薺:へえ、そうなんだ。二人でよろしくやってるんだね

 來:そんなところ


 薺:そっか。一度聞いてみたかったんだけどさ……いいかな?

 來:なんだよ。改まって


 薺:神堂くんって、菜枝のことが好きなの?



「――――――」



 そのメッセージに思わず指が止まった。



 好き……か。

 そういえば、口にして言ったことはなかったかもしれない。少なくとも、十分には伝えていないと思う。


 思えば、俺は菜枝を幸せにすることしか考えていなかった気がする。


 でも、それは当然のことだった。

 義理の妹だから。


 でも、そうじゃない。

 俺は……大切なことを忘れていた。



 來:もちろん、好きだよ

 薺:それは妹として? それとも女の子として?



 俺は答えなかった。

 きっと天笠さんを傷つけてしまうだろうから。それに、まだ菜枝の答えを聞いていない。……聞くまでもないかもしれないけれど。


 きちんとしておきたかった。



 * * *



 ――気づけば俺は眠っていた。


 天笠さんからメッセージが三十件も来ていたけど中身は見なかった。ていうか、送り過ぎだろう……ビックリしたわ。


 起き上がると菜枝も寝ていたことに気づく。

 なんだ、疲れて眠ってしまったのか。


 しかも、下着姿で……風邪を引くぞっと。


 俺は布団をかけてやった。



 こりゃ、しばらく起きそうにないかな。起こすのも悪いし。



「……兄さん」

「ん?」



 なんか俺を呼ぶ声が聞こえた。

 耳を傾けてみると、突然菜枝が目を開けて俺の頭を抑えて――そのまま胸の中へ。…………んぁっ!


 布団よりも柔らかすぎる中へ俺は落ちた。


 こ、これは……。

 てか、菜枝のヤツ起きていたのかよ。



「待っていました、兄さん」

「え……」

「兄さんが眠っていたので、わたしも少し寝ようと思ったのですが眠れなくて……。だから起きるのを待っていたんです」


「そうだったか。悪いな」


「だから、その……今から、しませんか」


「!?」



 そ、そうだった。

 例の約束か。

 時間も良い頃合いだ。


 けれど、その前に俺は菜枝に伝えねばならない。

 ベッドから降りて俺はそのまま腰を下ろして菜枝と目線を合わせた。


「……兄さん?」

「菜枝、伝えたいことがあるんだ」


「…………もしかして、わたしにご不満が?」


 不安気に俺を見つめる菜枝。


「そうじゃない。ずっと言ってこなかったことがあった。それ今、口に出して言うよ」

「……はい」


 菜枝の手を握り、俺はゆっくりと丁寧に告白した。



「……菜枝、俺はお前が好きだ。今もこれからも……変わらず一緒にいて欲しい」



 気持ちを伝えると、菜枝は涙を零した。

 嬉しそうに微笑んで「はい」と短く返事を返してくれた。


 ……そうだ、こんな時こそアレを出そう。


 その昔、親父に無理やり手渡された“指輪”を。いざという時に使えと言われて、ずっと財布の中に入れていたのだが――こんな形で役に立つ日が来ようとは。


 俺は指輪を菜枝の掌の上に置いた。



「……指輪」

「あ、ああ……婚約指輪っていうかな。俺はこういうのよく分からないけど」

「嬉しいですっ。兄さん、わたしも兄さんを愛しています。好きです……大好きです。ずっとずっと一緒ですよ」



 激しく抱きついてくる菜枝。

 ここまで感情を爆発させるのは初めてかもしれない。俺もだけど……。


 しばらく抱き合ってお互いの気持ちを伝えあった。


 静かな時間が流れ――気づけば俺はベッドに菜枝を押し倒して、キスをずっとしていた。甘く、とろけるような時間を過ごしていく。



「…………菜枝」

「ん……。兄さん、もっとキスしてください」



 ねだるようにお願いされ、俺はもう数えきれないほど菜枝の唇を奪った。


 たまに頭に触れ、時には腕や腰にもボディタッチを繰り返していく。柔らかい。なにもかもが柔らかい。


 でも、今までとは遥かに違う。


 多分、菜枝ともっと好きになったから……こんなに死にそうになるくらいドキドキしているんだ。


 もっと、もっと菜枝が欲しい。



「菜枝、そろそろ……」

「兄さん、今日は準備してありますよね……?」

「ああ、前は忘れていたけど、今日はバッチリだ」


「……良かった。これで兄さんとひとつになれるんですよね」


「もちろんだ。ここなら邪魔は絶対に入らない。菜枝、脱がすぞ」

「……お願いします」


 俺はひとつひとつ丁寧に菜枝の服を脱がしていく。露わになる白い肌。まぶしすぎて直視できない。でも、けれど、俺は菜枝を見たい。生まれたままの姿の菜枝を。


 菜枝は恥ずかしそうに腕や手で体を隠した。



「全部見せてくれ」

「…………(コクコク)」



 赤面してうなずく菜枝の腕を俺は解いていく。抵抗はない。俺に全てを委ねてくれている。




 菜枝はなんて綺麗なんだ。

 傷はおろか染みひとつない。清らかで透き通るような肌だけが存在し、ただただ神々しかった。美肌というレベルを超越している。


 あまりにも精巧で、バランスがよく、圧倒的なまでの芸術だった。


 一言で言って『女神』だった。



 そんな女神を俺は今、自身の色に染め上げようとしていた。……なんだか、悪い気分が襲ってくる。罪悪感――かな。



「……」

「兄さん、いいんですよ。わたしは兄さんモノ。兄さんもわたしのモノ。愛し合っているからこそ、全てが許されるんです」


「……ありがとう、菜枝。いっぱい愛してやるからな」

「たくさん愛されちゃいます」



 俺はこの日、この晩――菜枝のはじめてを貰った。



 * * *



 ――――日曜、朝。


 新幹線の窓辺で俺は外の景色をボーっと眺めていた。

 昨晩はハリキリすぎて朝まで没頭していた。菜枝があんなに乱れまくって、求めまくってくるから……がんばりすぎてしまった。


 おかげで寝不足だ。


 アクビをしながら隣の席で眠っている天使を眺めた。


 菜枝は幸せそうに眠っている。

 ……ったく、俺をのことを散々絞っておいてさ。



 ま……おかげで俺も大人の階段を登れたけど。一生童貞だと思っていたんだがな。まさか、義理の妹ができて、毎日同棲生活を送って、こんな風に旅行して――愛し合う日が来てしまうだなんて……。


 人生とはよく分からないものだな。



 ……さて、俺もしばらくは眠ろう。



 * * *



『――駅、……駅』



 おっと、もう到着か。

 目をパチリと開け、周囲を確認すると俺の地元だった。

 あれから電車に乗り換え、ついに戻ってきたんだ。



「あ~~~、疲れたぁ……肩も腰もガチガチだ」

「ん~~~、兄さん……お疲れ様です。わたしもずっと眠っていて……ごめんなさい」


「いや、俺も眠っていたし。さあ、電車を降りよう」

「はい~」



 手を繋いで電車を降りていく。

 もちろん恋人繋ぎでガッチリだ。


 駅を出て、そのまま俺たちの家であるアパートへ向かう。


 時間帯はお昼過ぎ。

 いつもの風景が流れ、いつもの空気が流れた。――あぁ、戻ってきた。ようやく俺たちの家に。


 階段を上がっていく。

 二階にある部屋。


 扉を開ければ、そこは俺と菜枝の住む部屋。


 なんだかずっと家を空けていたような気分だ。たった一泊だったのにな。懐かしい感情さえ湧き出た。


 少なくとも、昨日より俺は成長して大人になった。



「ただいま」

「ただいま、そして、おかえりです。兄さん」


「我が家だ」

「我が家です」



 見つめ合い、微笑み合う。

 なんだか、くすぐったい。

 感情がこすれ合うような……そんな感じ。


 まだまだ手探りだけど、俺は菜枝を幸せにし続ける。それが絶対だ。


 この同棲生活だけは終わらせない。

 ずっとずっと永遠に――。



 * * *



 俺は高校卒業後、菜枝をデズニーへ招待。

 改めてプロポーズした。


 高校卒業後、俺は直ぐに菜枝と結婚した。籍を入れて、妹ではなくなったけど――これで正式に夫婦というわけだ。


 高校時代、いろいろ事件やらもあったけど、なんとか難関を切り抜けた。親父や薺、その他の五月女さんや先生の力を借りて、天笠の親父さんとの対決も勝利した。


 そして――ようやく薺も自由を得て、今や世界中を飛び回っているようだ。


 ああ、失恋事件もあったな。

 あれは悪いことをした。

 俺はもう菜枝と付き合っていたからな。




「いろんなことがありましたね、兄さん……あ、そうでした。あなた」

「そうだな。この高校とももう別れ。あっと言う間だったな」

「これからは大学生ですね」

「なんとかニートにならずに済んだよ。菜枝が勉強を教えてくれたおかげだ」

「できれば兄さんと同じ大学が良かったですから」



 まさか、二人揃って東京大学へ入ることになるとはな。勉強しまくった甲斐があった。これからも色んなことがあるだろう。


 でも、大丈夫。


 俺と菜枝の力を合わせていけば、どんな困難も乗り切れるはずだ。



 世話になった高校の前で、俺は菜枝を抱き寄せ――キスをした。



 ずっとずっと一緒だ。




 【完】




 これにて完結です!

 なんとか十万文字達成できました。

 皆様の応援のおかげです!!(涙)


 ここ数日でガクっとPVが落ちてヤバかったですが、なんとか十万文字までいけて良かったです。毎度ながら反省点も多かったですが、次回に活かしたいです。

 気が向いたら番外編を追加いたします。


 また新作もやりますので、追っていただけたら嬉しいです。


 とりあえず、無人島をたまに更新しますので、よかったら覗いてください。



隣の席の令嬢がつよつよすぎる

https://kakuyomu.jp/works/16817330652593218219


クラスメイトの美少女と無人島に流された件

https://kakuyomu.jp/works/16817330648641803939


ヤンデレVTuberは眠らない

https://kakuyomu.jp/works/16817330652244081590


先輩から恋人のふりをして欲しいと頼まれた件 ~明らかにふりではないけど毎日が最高に楽しい~

https://kakuyomu.jp/works/16817139558104909326

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