二人きりのホテル

 カレーを食べ終え、そのままプラン通りに猫カフェへ。料金も良心的でゆっくりにするには最高の場所だった。


 部屋にはいろんな種類の猫が寝ていたり、遊んでいたりした。見渡すだけでアメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、ノルウェージャンフォレストキャットなどがいた。


 こんな身近に触れ合えるんだな。

              

 菜枝はさっそく目の合ったアメリカンショートヘアを――あれ!?



「逃げられちゃいました……」



 まあ、猫は気まぐれだからな。

 そんなこともあるだろうと見守っていた……のだが。


 スコティッシュフォールドも――プイッと。

 ノルウェージャンフォレストキャットも――プイッと。


 雑種らしき猫からも完全に無視されてしまっていた。



 ……嘘でしょ。



 動物に好かれるタイプと嫌われるタイプがいるが、まさか菜枝は……。



「菜枝、今まで動物に触れられたこと、ある?」

「…………うぅ」



 すげぇ涙目!!

 まさか……まさかだったか。

 そんなはずはないと思ったが、菜枝は後者だったようだ。


 逆に俺は猫の方から寄ってきて、とんでもない状況になっていた。二匹、三匹、四匹と増えていく。俺の膝にはもう三匹もいる。肩や背中にも乗って来られてしまった。



「……」

「兄さんは羨ましいです! なんでそんなに猫ちゃんに寄られているんですかっ」

「昔から動物には好かれやすい体質だったからな」



 それだけが唯一自慢できる特技でもあった。

 おかげで俺の周囲は猫祭りになっていて、他のお客さん(主に女性)から羨ましがられていた。なんだろう、そんなに見られると恥ずかしいっていうか……。



「もしかして、兄さん。マタタビとかつけてます!?」

「そんなもんを常備しとらん」

「ですよねー…。あ、そうだ。おやつをあげてみるとか」



 オプションでエサを買えるようだ。

 俺は、菜枝におこづかいをあげて試させた。



 が!!!



 結果は同じだった。


 恐ろしいほど見向きもされず、相手にもされていなかった。……そんな馬鹿な。



「……菜枝、大丈夫か!?」

「うああああああああん……! なんで兄さんばかり~~~!!」



 ついに泣け叫ぶ菜枝。

 今日は、デズニーといい散々だからなあ……。


 こうなったら、なんとか菜枝に猫を……。



「落ち着け、菜枝。こうなったら、俺ごと撫でてくれ!」

「……! その手がありましたかっ」



 手を伸ばしてくる菜枝は、俺の頭を撫でた。周囲からの目線が痛いが、これしかないだろッ。



「お~癒されるぅ~」

「兄さんを撫でている間に猫ちゃんも……」


「ちょ、菜枝!?」



 菜枝は欲張って猫にも触れようとしたが――残念ながら蜘蛛の子を散らすように逃げてしまわれた。



「………………あぅ」



 あ~あ、せっかく接近はできたのに。



 * * *



 猫カフェを去り、今度はメイドカフェへ。

 時間も十五時ちょいと丁度いい。

 おやつタイムだな。



「いらっしゃいませ、ご主人様……!」



 メイド服を着た美人のお姉さんに出迎えられ、俺は新鮮な気分を味わった。すげぇ、リアルメイドは初めて見た。


 ちゃんと可愛いカチューシャもしているし、フリフリのメイド服も質感本物だな。決して安い服ではない。


 きちんと手首のカフスもあるし、なによりもニーハイで本格的だ。


 席へ案内され、椅子に座ると異常に緊張した。なんだこの空気感。非日常だ……。



「に、兄さん……なんだか変な気分です」

「俺もだよ。別の世界に来たような感じ」



 メニューは、たくさんあってフードとドリンク……。定番はやっぱりオムライスらしい。絵とか字を描いてくれるようだ。

 パフェなんかこだわりの逸品らしいし、う~ん、どれも気になるな。



「どうしましょうか」

「うーん、パフェかね。ちょっとオムライスは食べられないかな、お腹の状況的に」

「そうですね、夜はまた別のお店で食べましょう」


 そんなわけでパフェを注文した。


「待っている間もメイドさんを眺めていられるし、最高だな」

「に、兄さんはメイドさんが好きなのですか?」

「可愛いからね。菜枝にも似合うと思う」

「分かりました。家に戻ったら兄さんの為にコスプレしますねっ」


「いいのか?」

「はい。兄さんだけの専属メイドになります」



 真剣な眼差しを向けられ、俺は菜枝の本気度にビックリした。これは期待だな。菜枝がメイドさんとか絶対に可愛い。


 数十分後にはパフェが届いた。



「わぁ、カラフルなアイスです」

「パンダパフェとはな。食べるのがもったいない」

「はい、とても可愛いです」



 さっそくパフェを食べていく。う~ん、甘くて美味しい。



 * * *



 カフェを堪能し、残りの時間は秋葉原探索をした。あっちこっち見ごたえがあったな。人も多くて活気もあるし、楽しかった。


「今日は一泊して、明日には帰ろう」

「分かりました。ところで、どこで泊まるのですか?」

「それがまだ決めていないんだよね。ネカフェも考えたけど、菜枝のことを考えると無難にビジネスホテルでいいかな~」


 ネカフェだと狭いし、菜枝は可愛いから誰かに狙われたりしたりするかもだ。セキュリティ面も考えるとビジネスホテルかな。


 スマホでスタンダードなビジネルホテルを見つけた。ダブルルームしかないけど、格安だった。ここにしよう。


 電車で池袋まで移動した。


 そこにあるビジネスホテルへ向かった。


 駅から十分歩いたところに、そのホテルはあった。



「サクラホテルというんですね」

「今日はここでゆっくりしていこう」



 さっそくチェックイン。

 鍵を受け取り、部屋へ向かった。


 部屋前に到着し、開錠して中へ入ると清潔感のある空間があった。悪くない。



「ベッドが広いですね。これなら一緒に寝れますっ」

「本当はシングルで別々にしたかったけどね」

「え、別にわたしは兄さんと一緒でも構いませんけれど」

「……っ! そ、それは嬉しいけどさ、その、万が一の間違いがあるかもしれないじゃないか」


「その間違いが起きて欲しいです」



 そんな視線を送られ、俺は心臓が破裂するかと思った。……菜枝、俺を誘惑しすぎだ。でも嬉しい。東京スカイツリーでは未遂に終わってしまって切なかったから……今夜こそ、菜枝を……。



「それは今夜のお楽しみにしておこう。とりあえず、しばらくはゆっくりしよっか」

「そうですね。わたしは、さっそくシャワーを浴びたいです」


「分かった。俺はゆっくりしているよ」

「兄さんもご一緒しますか?」

「!? ……い、いや、あとでいいよ。菜枝、どうせまた入るだろ?」


「もちろんです。では、その時に」



 相変わらず風呂好きだな。だから、いつも良い匂いがするんだけど。……しかし、いつもと違う環境だから、妙に緊張するな。


 ――って、菜枝のヤツここで脱いでるし!



「菜枝! なにしてる!?」

「なにって、下着を脱がないと入れないので」

「そ、そうか」


 格安ビジホだから、脱衣所がないんだよな。



「俺はあっち向いてるから……」

「お、お願いします。……でも、良かったら見てもいいですけど……」


「いや、夜の楽しみにしておく」

「……分かりました。でも」


 半裸のまま近づいてくる菜枝は、俺の頬にキスをしてくれた。


「……菜枝」

「今日のお礼です。夜はもっと期待しておいてくださいね」



 今夜は……眠れそうにないな



★★★

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