同棲生活 - 3

はじめての本格甘々デート

 天笠さんのことは、また後ほど考えることにした。


 キーマカレーを食べ終え、食器を流し台へ。菜枝も手伝ってくれた。



「ありがとう、助かるよ」

「いえいえ、これくらいは……。ところで兄さん、明日なのですが」

「ああ、土曜日だからね。どこかへ遊びに――そうだ。今日のクレーンゲーム専門店で入手した“デズニーチケット”を使おうか」


「それを聞こうと思っていたんです……!」



 なるほどね。さっきから菜枝の様子が変だと思っていた。妙にソワソワしていると思ったら、俺が話題を振るのをずっと待っていたのか。


 ここは男らしく、菜枝をデートに誘ってみるかな。



「菜枝、俺と一緒にデズニーへ行かないか」

「はい、喜んで!」



 ひとつ返事の菜枝は、嬉しそうに俺に抱きついてきた。こんな風に正面から大胆にされると、さすがにドキドキする。


 でも、よっぽど嬉しかったんだろう。

 正直、俺も嬉しい。


 菜枝と本格デートするのは、これが初めてだからだ。楽しみしかない。



「ただ、ここからは結構距離があるからな」

「そうですね。早寝早起きしないとです」

「菜枝が一番心配だ」

「……あぅ」


 そう、菜枝は早起きが苦手だ。

 朝がとにかく弱いからだ。

 アラームを五つはセットしておく必要がありそうだな。


 食器を洗い終え、あとは各々の用事を済ませていく。



 * * *



 ――また物価上昇のニュースか。

 あれもこれも値上げでウンザリだ。


 学生の身分で、しかも同棲生活をしている俺にとっては大打撃の大事件だ。少しでも稼ぎを増やさないと、この先が心配になってきた。


 今のバイトはそれほど収入が良いわけではないし、かと言って他にいい仕事があるかと言えば――ない。


 そろそろ職場にも顔を出さないとな。

 在宅ワークが可能な仕事だから、あんまり会社と関わることがないのだが、たまに社長に挨拶をしないと、あの人……ねるからな。


 となると、現状維持か。

 それか時給の交渉でもしてみるかね。


 なんにせよ、明日は菜枝とのデートだ。

 今はそれが最優先事項だ。


 ……噂をすれば何とやら、スマホにラインが入っていた。



 菜枝:今日はもう寝ますね

 來:珍しいな。俺の部屋に来ないのか?

 菜枝:その、今はお肌の手入れ中でして……フェイスクリームを塗って保湿している最中なんです


 あぁ、そういえば菜枝の部屋には化粧水とかクリーム系がたくさんある。毎日、お肌のケアをしているみたいだし……だから、あんなにスベスベのツヤツヤなんだろう。



 來:そっか。気が向いたら来てくれ

 菜枝:分かりました。寝落ちしちゃったらごめんなさい

 來:了解



 俺はスマホを置いて横になった。

 まぶたが重くなってきた。


 最近、疲れやすいし……眠い。


 明日も早いし――寝ようっと。




 ……夢を見た。




『――兄さん、どうして……どうして姉さんを選んだの!!!』




 グサッ……っと、俺は腹部を包丁で刺され、押し倒されて何度も何度も刺されまくった。血塗れになって、絶命したところで目が覚めた。




「うあああああああああああああああああ……!!!」




 …………夢、か。



 なんて悪夢を見てしまったんだ。

 菜枝があんな狂うわけないのに。


 なんてこった。

 全身が汗まみれだ……。



 時刻は朝六時前。

 出発までには少し時間がある。

 朝シャワーでも入ろう。



 こびりついた悪夢を振り払いながら、俺はシャワーを浴びた。……くそっ、記憶に鮮明に残りやがって。本当に酷い夢だった。


 菜枝があんなことするわけないのに。



 それよりも、もう時間が近い。

 予想通り、菜枝は起きてこなかった。

 やっぱり朝は、よわよわか。


 俺は菜枝の部屋をノック。反応はなし。


 そのままガラッと扉を開けると下着姿のままで眠る菜枝の姿があった。



 ……っ!



 そうだった。菜枝は自分の部屋では下着姿で眠るって言っていたっけ。失念していた。まったく、無防備すぎるっていうか……。少しは警戒して欲しいものだが。



 時間も惜しいので俺は菜枝の体を揺すった。



「菜枝、起きろ。デートの時間だぞ」

「…………兄さん、触っちゃ……ダメです」


「!?」



 俺は肩にしか触れてないぞ……って、寝言か。ビックリした。こうなったら強制的に起こす。


 スマホのアラームを耳元で鳴らした。



「…………うにゅぅ」

「やっと起きたか、菜枝。おはよう」

「あれぇ、兄さん。おはようございます? えへへ……」

「寝惚けすぎだぞ。今日はデズニーへ行くんだろ」


「――はっ! そうでした」



 ガバッと起き上がる菜枝は、ようやく目を覚ました。やっとか……!



 * * *



 俺は菜枝の準備完了を待った。

 リビングでお茶を啜りながら待機していると、ようやく菜枝が現れた。おぉ、花柄のワンピース姿じゃないか。なんだか、いつもと違って大人っぽい。まさにお嬢様。


 なんて清くて尊いのだろう。エレガントだ。


「その服、初めて見る。可愛いな」

「褒めてもらえて嬉しいです。兄さんの為にずっと温存していたお気に入りのお洋服なんですよ。この時の為にとっておいて良かった」


 まさか、デート用の服だったのか!

 なんて嬉しいサプライズ。

 感動して涙腺崩壊しそうだ。


 こんな可愛い妹の姿を見れただけでも、俺はもう一日幸せだ。デートがなくたって最高の気分に浸れる。


 けれど、デズニーへ行く!

 人生初の夢の国へ。



「菜枝、今日は遊びまくろう」

「はいっ。いっぱい楽しいことしましょうね」



 手を繋いでくる菜枝は、俺を引っ張ってくれた。これからデートするんだよな……。 ずっと御伽噺おとぎばなしのような気がしていたけど、今になって実感が沸いてきた。


 緊張しながらも家を出て――出発した。


 こんなにもワクワクするなんて思わなかった。いったい、どうなってしまうんだ俺は。 想像もつかない。


 けれど、俺は肝心なことを忘れていた。



 外の世界に出ても、菜枝は変わらないということに。



「……え、菜枝」

「兄さん、お出掛けの前に“ちゅー”してください。ハグもいっぱいして欲しいです。それとそれと、頭もいっぱい撫でてください。胸も触りますか……?」



 忘れていた。

 菜枝は普通の女の子とは違う。


 いついかなる時も、えっちなのだ。



★★★

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