体で払うので……

 続けて100km、110km、120kmと――どんどん上の速度に挑戦していく俺。


「ついに、マックスの160kmまで来てしまった……」

「これはビックリです。兄さんってプロ野球選手を目指せるのでは?」


 菜枝に褒められて照れる。

 プロ野球選手は無理だろうけど、親父に拉致られた過去が役に立ったな。あの時はだるくて仕方なかったが、鍛えられたおかげで今、気分は最高だ。


 体が慣れてきてホームランを連発していれば、いつの間にか周りからの注目も浴びていた。なんだか有名人の気分だ。


「いや、俺はこれで十分だ。ただの俺でいい」


 最後に160kmに挑戦だ。

 スピードも桁違いの速さだからな……いけるかな。腕も疲れてきたし。



「がんばってください! 応援しています!」



 菜枝から激励を貰い、俺はやる気が超アップ。カッコいいところを見せてやりたい。やるしかない……!


 数秒後、マシンからボールが飛んできた。


 160kmに加速した球は、一瞬で俺の横を通り過ぎようとした。


 だが、俺はバットを絶妙なタイミングで強振してヒットさせ、なんとか打ち上げて――お、この軌道はまさか!


 見事な弧を描くボールは、ついにホームランの的に命中。


 専用のBGMが響き渡り、周囲から拍手さえもされてしまった。……って、いつのまに、こんな十人以上も人だかりが! 恥ずかしい……。



「すげぇな、あの少年」「かっこええ~!」「160kmでホームランは凄いな」「どんな肩とか腕してるんだ?」「相当鍛えているんだな」「プロでも通用するかもな」「よく見れば鍛え抜かれた肉体だ」「あんな可愛い彼女もいるとかさ~羨ましい」



 なんか凄いことになっとる。

 菜枝も菜枝で、彼女と言われて照れているし。


 ここはもう退散した方が良さそうだな。


 バッティングセンターから出て、少しだけクレーンゲーム専門店へ寄っていくことに。


「あの、さっきは、ありがとうございました」

「いや、後半は俺ばかり遊んで済まなかった」


「いいんです! 兄さんのカッコいいところが見れるだけで、わたしは満足なんです。それに、彼女って思われて本当に嬉しかったです。わたしたち、カップルと思われたんですよっ」



 どうやら菜枝はご機嫌のようだし、ならいいか。


 無駄に広いクレーンゲーム店内を歩いていく。

 物凄い数の筐体がズラリと並び、驚愕した。なんて数だ。百台以上はありそうだぞ。ぬいぐるみやフィギュア、お菓子類など様々なものがある。どこまで続いているんだ、この空間。迷路かよ。


 さて、どの景品を取るか悩むな。



「少しだけ遊んでいこう」

「今度こそ、わたしもがんばりますね」

「ああ、クレーンゲームなら菜枝も出来るだろうし、応援してるよ」

「はい、大きなぬいぐるみを取ります」



 以前、俺が巨大サメのぬいぐるみを取ったことがあった。今回は菜枝に挑戦してもらい、自らの手で取って貰おう。



「分かった。俺も傍からアドバイスくらいは送るから、がんばってくれ」

「今度は自分の力でやってみます」



 おぉ、菜枝が燃えている。

 大物をゲットできるといいな。


 あっちこっち通路を歩き、良さそうな筐体を探した。……う~ん、あまり大きいモノは難しいというか、投資も嵩む。

 無難に掌サイズのものがいいが……だが、菜枝はそれだけでは満足しないだろう。


 ついて行くと『てぃかわくん』というゆるキャラのぬいぐるみで菜枝は足を止めた。あの白いモコモコが欲しいのだろうか。けど、なんか可愛いな。確か、SNSとかで有名なキャラクターだったよな。


「これにするか?」

「これにしますっ」


 決まりだな。

 1プレイは百円か。


 大きな三点アームのタイプか。これは難しいが、上手く掴めれば一撃もありえる。あとは投資次第なところもあるけど。


 まずは様子見。

 お手並み拝見といこうか――。


 百円を投入し、さっそくレバーを器用に動かして狙いを定める菜枝。あとはボタンを押すだけ。タイミングを狙って掴むボタンも押せばいい。


 だが、一回で取れるほど甘くはなかった。



「……あ、アームが抜けちゃいました」

「まあ、こんなものだよ」



 その後、菜枝はあっと言う間に五百円、千円と消費していった。



「だめかぁ~

「うぅ……難しいです。それに、おこづかいが……」

「マジか」


「兄さん、体で払うので……お金貸してくださいっ」

「ああ、いいよ。――って、体ァ!? それはダメだ!」


「どうしても取りたいんです。わたしの体でよければ……」

「体はいいって。ほら、五百円だ」



 五百円なら六回プレイできる。

 普通に百円を入れるよりも一回お得なのだ。



「ありがとうございます。大好きです、兄さん♡」

「お、おう。さあ、ここからはアドバイスしてやるから」

「お願いします」


 丁寧に頭を下げられた。

 なんとかしてやりたいな!



★★★

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