学校サボってデートしませんか?

 談笑しながら歩いていれば、もう学校に到着した。


「あっと言う間だったな」

「はい……。もう少しだけ兄さんと話していたかったです」


 溜息を吐き、ションボリする菜枝。

 残念ながらここまでか。

 手を振って別れ、俺は菜枝の姿を最後まで見送った。その後、自分の教室へ歩いて向かう。二年の廊下へ差し掛かった辺りで見知った顔が現れた。



「おはようございます。おにーさん」

「五月女さん。久しぶりだね」



 菜枝と同じクラスの女子・五月女 四季だ。そういえば、チア部の件以来、会っていなかったな。



 って……あれ、彼女は一年のはず。

 なんでこんなところに。



「おにーさん、あたしと学校サボってデートしませんか?」



 突然の提案に俺は、ただただ驚いた。

 五月女さんからデートのお誘い!?

 突然すぎてビックリしたぞ。


「すまない、五月女さん。菜枝を心配させるわけにはいかないから」

「ですよねー。やっぱり、菜枝ちゃんに対する愛は本物のようですね」

「あ、愛って……」

「分かりました。あたしも今日からがんばりますから」


 丁寧に頭を下げる五月女は、小走りで去っていく。


 がんばる?

 なにをがんばるのだろう……?


 よく分からない。

 あとで菜枝に聞いてみるかな。



 俺は教室へ向かい、授業を真面目に受けていく。



 * * *



 昼休みになって、天笠さんが声を掛けてきた。そういえば、今日はじめて会話をする。


「やあ、神堂くん。今ちょっといいかな」

「少しならいいけど、また勝負かい?」

「いや、真面目な話さ」


 天笠さんの表情は、いつもよりは固いように見えた。なんだろう、ちょっと怖いな。なにか変なことを言った覚えはないし……。あ、もしかして勝負に連敗しているのを根に持っていたとか。


 何十万と負けていて、しかも怒られたって言っていたし……そういうことかな。



「返金しろってか? 構わないけどさ」

「……いや、お金じゃないよ」

「え?」


「菜枝のことさ」

「菜枝のこと……?」



 聞き返すと天笠さんは、明らかに苛立っていた。いつもクールなのに、こんな表情をするなんて本当に珍しい。

 菜枝のことって……天笠家で何かあったのか。



「天笠家のクソ親父が動き始めた……」

「親父さん? あの社長がどうかしたのか」


「菜枝を天笠家に戻すってさ」


「な、なんだって……」

「そもそも、クソ親父は反対だったんだ。でも、母さんは賛成だった。菜枝の幸せを願ってね……。私もそうだった。菜枝には自由に生きて欲しいって思ったから」


 だから、神堂家へ送り出したという。

 そうだったのか……。

 じゃあ、親父さんに黙って出てきたのか。だとすれば、今までは天笠さんが守ってくれていたようなものだ。



「でも、なんで突然……」

「クソ親父は、海外出張中だったんだ。今日になって帰ってきて、菜枝のことを知った。それで、戻ってこいって」


 なるほど、偶然にも菜枝の状況を知るタイミングがなかったということか。今まではラッキーだったんだ。

 俺と菜枝が同棲生活していることも、きっと天笠さんが上手く隠してくれていたのかもしれない。


 無論、俺は今の生活を止める気なんてない。


 菜枝と離れ離れになる未来なんて考えられない。



「親父さんには悪いけど、菜枝はもう俺の妹だ。正式な手続きだって踏んでいるんだ。文句はないはず」


「クソ親父の肩を持つわけではないけど、金だけはあるからね。役所の職員を買収するなんて容易いかも……」

「ば、馬鹿な。そんな勝手が許されるはずが……」


「どうかな。クソ親父ならやるかも」



 いくら金持ちの大手企業の社長といえど、そこまでの権力は……いや、あるのか。顔が広いだろうし、ツテやコネもたくさんあるんだろうな。


 なら、こっちは正攻法でいく。


「分かったよ。俺が直接話す」

「……!? そ、それは想定外だったな。神堂くん、そんな度胸あったんだ」

「幸い、天笠の親父さんとは、子供の頃に話したことがある」


 ガキだった頃、一度だけ会ったんだ。

 あの時の印象は、優しい人だなって感じた。菜枝を溺愛していたようにも見えたし、幸せそうに見えた。だからこそ、戻って来て欲しいのかもしれない。


 でも、決めるのは菜枝だ。

 この生活を望んだのも菜枝なのだ。


 俺だって……続けたい。


 だから。


「仕方ないな。じゃあ、その場を設けよう」

「いいのか?」

「いいとも。その代わり、絶対にクソ親父をギャフンと言わせること」


 どうやら、天笠さんと親父さんはあんまり仲良くないらしい。なら、二人の想いを背負い、俺がなんとか説得してやる。



「正直、人と話すのは苦手だ。でも、菜枝のことは別だ。本気で行かせてもらう」

「なんて頼もしい。私も全力でサポートするよ」


 がっちり握手を交わし、共闘関係を結んだ。

 ……あとは、このことを菜枝に伝えるだけだ。



 俺は教室を後にして、階段を目指した。



 すると、ちょうど一年の方から菜枝が現れて笑顔を向けてくれた。



「兄さん、今迎えに行こうかと」

「菜枝、話がある。屋上へ行こう」


「……はい。どうかしましたか?」

「重要な話なんだ」



 菜枝は察したかのように、うつむいた。……気づいているのか。けど、話さなければならない。これからのこと。


 俺が本気だってことを。



★★★

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