兄さんに抱かれて……嬉しすぎて死んじゃいそうです
……恐ろしい映画を見てしまった。
エンドロール後、俺は映画を見て激しく後悔した。なんだこれは。
とにかく、エグい。エグすぎる。
殺人ピエロがやりたい放題。人々を惨殺しまくっていた。……多少、お色気シーンもあったけど、それも一瞬。美人の外国人女性は股から真っ二つにされていたし、とんでもない殺され方をしていた。
「…………」
さすがの菜枝も顔を真っ青にして、中盤以降は俺にしがみついて震えていた。
「すまん。こんなバイオレンスだとは思わなかった」
「こ……これは刺激が強すぎますよぅ……」
うるうると瞳を潤ませる菜枝。あまりに怖かったのか涙腺崩壊の寸前だった。いや、もう泣いてるな。滝のように涙を流していた。
「血がドバドバしていたな」
「……一応、えっちなシーンはありましたけど、ピエロに殺されちゃいましたね」
「ああ、あれでは興奮も何もなかった」
特殊な性癖を持っている人には、大興奮だろうが俺にはそんな趣味はない。ただただ、恐ろしかった……。さすが最凶ホラー映画だ。
映画鑑賞は以上にして、俺は部屋の電気を消した。明日も早い。もう寝よう。
横になると、菜枝も布団に入ってきた。
その手は震えていて落ち着きがなかった。……ああ、ホラー映画の影響かな。俺もちょっとビビってる。
アパートの扉から突然、殺人ピエロが登場するんじゃないかとヒヤヒヤしている。恐怖を感じた時、なぜか周囲が過剰に気になっちゃうんだよな。
「……兄さん」
「菜枝、おいで」
すっかり映画がトラウマになっている菜枝を抱いて落ち着かせた。……怖い思いをさせてしまったな。
「本当にすまなかった。次は素直にエロ動画にしておく」
「そ、そうですよ。あんな怖いとは思いませんでした。今夜は、兄さんに抱かれないと寝れません」
「分かった。今日は菜枝を抱き枕にする」
ぎゅっと抱いて密着した。
菜枝の体は全身が柔らかい。
肌もスベスベ。
体温も高いから、天然のコタツみたいで直ぐに寝れちゃうんだよな。
「兄さん、眠いですか」
「……うん」
「いいですよ。わたしを感じながら、眠ってください」
「あったかい。天国だ」
「わたしも兄さんに抱かれて……嬉しすぎて死んじゃいそうです」
耳元で囁く菜枝の最強癒し
これでもう十分安眠できる。永眠すらもできるレベルだ。こんなに安らかに眠れるのなら……本望だ。
「…………悪い、寝る」
「…………兄さん――」
菜枝は何かを言っていた。
でも、その言葉は俺の耳には届かなかった。もう……夢の中へ。
* * *
最近、早く目が覚めてしまう。
起き上がろうとすると、菜枝に抱きつかれていたことを思い出した。俺のすぐ傍では、小動物のように眠っている菜枝の姿があった。……なんて可愛い。
登校までまだ時間もあるし、このまま寝顔を観察していよう。
――十五分後。
十分なパワーを貰った。
俺はゆっくりと菜枝を剥がし、そのまま脱出。
まずは朝シャワーでサッパリする。その次に歯を磨いたり、髪を整えたり身嗜みを完璧にしていく……菜枝に嫌われない為に。
あとはゆっくりと朝食を作る。
トースターを使って食パンを焼く――あとはピザ風味に盛り付けという簡単な調理。
そうしていれば、パンの匂いに釣られて菜枝が起きてくる。
「おはようございます、兄さん。……良い匂い。今日はピザトーストですか。珍しいですね」
「たまには高カロリーなものも悪くないさ。カフェオレも用意したぞ」
「わぁ、なんだか贅沢です」
椅子に腰かける菜枝は、寝間着が脱げていた。そのせいか谷間が見えてしまっていたが――本人は気づいていなかった。
……このままも悪くない。
もう少し観察を続けようとしたが、菜枝が首を傾げていた。
「……な、なんでもないよ」
「兄さん、顔が赤いですよ?」
「いや、たいしたことはない。ほら、熱いうちに食べて」
「そうですね。いただきますっ」
俺もピザトーストをいただく。
菜枝の谷間を堪能しながら――。
朝食を終えて俺は玄関前で菜枝を待った。しばらくすると制服に着替えた菜枝が長い髪を揺らして現れた。今日もバッチリ決まっている。
と、思ったけれど大切な物を忘れている。
「菜枝、桜のヘアピンを忘れてる」
「……あ。そうでした」
取りに戻る菜枝。
数秒後には、ばっちり髪留めをつけていた。うん、やっぱり似合う。
あのヘアピンは、俺が子供の頃に昔にプレゼントしたものだ。つまり、俺と菜枝を繋ぐ唯一の思い出の品。あれをずっと大切に付けていてくれているとは思わなかったけど。
「さあ、行こうか」
軽い足取りで学校へ向かう。
今日は金曜日。終わってしまえば、明日からは土日休み。久しぶりに菜枝と遊べるわけだ。
なにをしようか。
どんなことをしようか。
今なら副収入の大金もある。
もっともっと菜枝を幸せにしてやりたい。
だから――。
★★★
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