好き。好き、好き、好き、大好きです
教室へ戻ると、天笠さんがニヤッと笑っていた。なんだ、あの笑み。
「なんか変なものでも食べたかい?」
「そうじゃないさ。でもね、今日は素晴らしい日だよ」
「そうなのかい。でも、天笠さんは三十万円を失ったんじゃ……」
「お金よりももっと価値がある思い出を貰った。私はお節介焼きだからね」
「へえ、知らなかったな」
いったい、なにを言いたいのか俺にはサッパリだったけど。
席に着くと授業が始まった。
数学の小テストか……だるいな。
* * *
テストの連続に飽き飽きだ。
なんでこんな脳を使わなきゃならなんのだ。早く、菜枝で癒されたい。
なんだかんだ授業は進み――放課後。
俺は即、席を立った。
「まった、神堂くん!」
「な、なんだい……天笠さん。俺、急いでいるんだけど」
「分かってるよ、菜枝でしょ」
「まあね。悪いけど話ならまた今度に……」
「礼の三十万円さ。はい、アマゾ~ンギフト券」
机の上にドサッとアマゾ~ンギフト券の束が置かれた。
「うわ! 凄い数。ていうか、明日って話じゃ?」
「いやね、専属の執事が持ってきてくれてさ」
「せ、専属!?」
「そそ。だから、受け取って」
俺はギフト券を受け取った。
それにしても、専属の執事って……さすが天笠家だな。お金持ちは執事とかメイドがあたりまえのように付属するんだなぁ。
「ありがとう、天笠さん。ありがたく」
「うん。また勝負しようね」
「…………」
またって、次回もあるのか。
俺としてはありがたすぎる。生活費になるし、菜枝を幸せにしてやれるのだから。でも、天笠さんにメリットはあるのか?
なぜ、ここまで勝負にこだわるんだ。
……そうだ、聞いてみよう。
俺は向き直って、自分の椅子に座った。
「どうしたの?」
「天笠さん、聞かせてくれ」
「……なにをだい?」
「なんで俺と勝負したがるんだ。理由を教えてくれ」
「楽しいからさ」
本当に楽しそうに笑う天笠さん。
その笑顔に裏があるなんて到底思えなかった。俺を騙そうとか、そういう邪悪はなかった。ただ、純粋に友達のような感覚なんだ。
俺は……なにを疑っていたんだ。
なんか馬鹿らしくなってきた。
そうだ、俺だって天笠さんと遊ぶのは楽しい。
お金がどうとかじゃない。
「分かった。今後も誘ってくれよ。……あと賞金はホドホドにね。あんまり高額だと怒られちゃうからさ」
「うん、大丈夫。お金使い過ぎちゃって怒られたところ。次回からは少額になるよ」
「そっか。じゃ、俺はそろそろ」
「菜枝によろしく」
「ああ、また明日」
俺は席を立ち、教室を後にした。
廊下を歩いていると、少し離れた場所に菜枝がいた。俺の顔を見るなり、少し不安そうになっていた。……どうしたんだ。
「菜枝、待っていてくれたんだ」
「兄さん……姉さんと何を話していたんです? あんな親し気に」
「あ……」
見られていたのか。
それでこの落ち込んだ表情か。
そんな不安な顔をして欲しくない。
「わたしは、姉さんのこと嫌いではないです。でも、同じ女ですから……気になっちゃうんです」
「安心しろ、菜枝」
「え……」
「俺はいつも菜枝のことばかり考えている。ずっと会いたかった」
抱き寄せると、菜枝は嬉しそうに身を委ねてくれた。周りの視線が突き刺さるが、どうでもいい。俺はこの瞬間を待ちわびていたんだ。誰にも邪魔させない。
「すっごく嬉しいです、兄さん。わたし、幸せです」
「帰ろう。帰っていつものようにゆっくりしよう」
「はい。美味しいお料理を作りますね」
「楽しみだ」
手を繋ぎ、廊下を歩く。
注目を浴びるがもう関係ない。
見せつけてやればいい。
俺と菜枝の絆を。
学校を出て少し歩くと、菜枝が飛びついてきた。
「兄さん……頭を下げてください」
「ん?」
言われた通りにすると、菜枝は俺の唇を奪ってきた。優しく、けれど時には激しく俺を求める。
あまりに夢中になってお互いを求め合う。
「……兄さん、好き。好き、好き、好き、大好きです」
「な、菜枝。こんなところで大胆すぎる」
「ごめんなさい。でも、ずっと我慢していたんです。……もっと兄さんが欲しい。身も心も全部……」
菜枝は、恍惚とした表情で息が乱れていた。こんなところで淫乱なんだから。
「菜枝、続きは家で」
「……そ、その……はい」
顔を真っ赤にする菜枝の手を引き、俺はアパートを目指した。
★★★
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