制服のまま……しませんか

 のんびり歩いてアパートに到着した。

 早々、俺は夕食の食材を買い忘れたことに気づいた。なんてこった。



「……ご飯どうしよう。簡単にカップラーメンでいいかな」

「はい、たまにはいいと思います。食費も浮かせられますから。節約、節約です」



 瞳をキラキラ輝かせ、歓迎する菜枝。

 菜枝はカップ麺が大好きだ。

 夜こっそり食べるほどに。だから、たまに体重を気にしているようだけど、不思議と太らないんだよな。ずっと細いままだ。羨ましい体質だ。


 アパートへ上がり、着替えに行こうとすると服を引っ張られた。


「どうした、菜枝」

「兄さん、あの……制服のまま……しませんか」


「ッ!? な、菜枝……本気だったのか」


「もちろんです。……でも、お風呂は入りたいかも」

「いや、そのままで大丈夫だ」


 興奮を抑えきれなくなった俺は、菜枝を壁ドンした。期待と不安の入り混じった表情で俺を見つめ、その時を待っていた。


 俺は…………菜枝が欲しい。


 大切で可愛い義理の妹だ。

 血の繋がりのない兄妹。


 そうだ、俺は普段は妹として見ていた。でも最近は少し変わっていた。俺は、菜枝を一人の女の子として見つつあった。いや、もう見ていた。


 だから…………。


 ドキドキしながらも震える手で菜枝の制服に手を伸ばす。ブレザーを優しく脱がし、ブラウスだけの姿にした。

 大きな膨らみが目の前に。

 知ってはいたけど、菜枝は巨乳だ。

 服越しでもこんなにボリューム満点だなんて。



「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいです……」

「可愛いよ、菜枝。ボタン、外すよ」

「……はい。ちょっと汗臭いかもですが……」

「そんなことはない、良い匂いがする。うん、癒される」



 正直、少し近づくだけで菜枝は良い匂いがした。恐らくあの長い髪から漂うシャンプーの香りだろうな。フローラルで女の子の匂いしかしない。菜枝はいつだって清潔で清らかだ。風呂だって一日に二階も入るし。


 ひとつひとつ確実に、丁寧に、ボタンを外していく。



 そして――『コンコン……!』と、ノックする音がして扉が開いた――って、誰か入ってきた!? やっべ!!



 俺は、慌てて菜枝を隠そうとしたが――遅かった。



「入るぞー、來」


 この低くも渋い声。

 聞き覚えがありまくりだった。

 なんと、玄関そこには髪をオールバックに決め、ブランドモノの高そうなスーツを決め込む中年男がいた。あぁ……。


 おいおい、まさか……。



「な……なんでいるんだよ、親父ッ!!」

「お、お前こそ、菜枝ちゃんを襲ってなにしてんだ!? この馬鹿息子がああああああああああああああああああああ!!」



 青ざめて発狂する親父は、俺と菜枝を強引に引き剥がした。クソ、馬鹿力が!



「ちょ、この馬鹿力……」

「來、お前というヤツは、義理とはいえ妹に何をしているんだ」



 ブチギレる親父は、物凄い剣幕で俺に問い質す。まずいな、こりゃちゃんと説明しないと俺と菜枝の生活が終わるかもしれない。



「ち、違う。ちょっとゴミがついていたから」

「お前は昭和のドラマか! しかも、脱がす必要はないだろう。菜枝ちゃん、襲われていたのか? そう言いなさい」


 親父は今度は菜枝に聞くが、もちろん。



「違います。兄さんはわたしを襲ったわけではないのです。わたしが望んだことです!」

「なんと!? ……相思相愛というわけか。來が好きなのか」


「……はい」



 恥ずかしそうに返事をする菜枝は顔を真っ赤にしてうつむいた。そんな姿を見て親父は察したようで誤解はとけた。



「なんてことだ。仮にも天笠家のお嬢様だぞ。來、分かっているのか」

「でも、もう俺の妹だろ」

「それはそうだが……。まあいい、恋はいつでもサイクロンなのだからな。父さんと母さんも、似たようなものだった」



 マジかよ。親父と母さんもそんな感じだったのか……? 初めて聞いたぞ。



「そうだ、親父。天笠家について教えてくれ。なんで菜枝を押し付けられたんだ?」

「なにを言っている。押し付けられたのではない。菜枝ちゃんは、自ら家を飛び出し、我が神堂家の養子となった」


「え……そうなのか」


「財閥のお嬢様のままでは自由に生きられない。普通の生活を望んだ菜枝ちゃんは、一番信用されている我が家で引き取ることになったのだ。

 神堂家と天笠家には、百年以上の家族ぐるみの関係があるからな」



 そんなの知らなかったぞ。

 それで菜枝は家へ来たわけか。

 親父は今日、そんな菜枝の様子を見に来たってところかな。タイミング悪すぎだけど。



★★★

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