ドキドキゲーム、勝ったら三十万円!
天笠を翻訳すると『勝負しろ』ってことだな。
まあいいか、こっちは貧乏で金に困っている。金があればなんでも出来るし、菜枝に美味しいものを食べさせてあげられるのだ。
「分かったよ。ちなみに賞金はあるの?」
「もちろんさ。今回はアマゾ~ンギフト券を三十万円分さ」
「さ、三十万円!?」
思わず叫ぶと、クラスメイトが何ごとかと俺に注目した。……やっべ、叫び過ぎた。
しかも、ちょうど入ってきた担任に聞かれてしまった。
「なんだ、想像しい。神堂、これからホームルームだぞ」
「す、すみません……」
クラスメイトから笑われ、いらぬ恥を掻いた。けど、いい。アマゾ~ンギフト券三十万円分だぞ!!
この前のボウリング勝負より高額。貧乏人にとっては十分すぎる額だ。
天笠との勝負が待ち遠しいな。
ワクワクしながらも授業を受けていく。
割と真面目に受けて――昼休みになった。
「神堂くん、時間良いかな」
「待ってくれ。菜枝に連絡をしておきたい」
「おけおけ。とりあえず場所を移動しよっか」
「場所を?」
「将棋部の教室へ行こう。あそこは自由だからね」
なぜ将棋部……まあいいか。
俺は菜枝に連絡を取って、将棋部に集合するようにメッセージを送った。すると、直ぐに反応があって『オッケ~』とスタンプが送られてきた。
決まりだな。
* * *
二階にある将棋部。
はじめてこの部屋に入るな。
扉を開けると、そこには誰もいなかった。
「なんだ、不在か」
「そりゃそうだよ。部活動は放課後からだから」
「そういうものか」
「まあね。それより、準備しようか」
「おう」
座布団に座るよう促され、俺は靴を脱いで畳へ。そして腰掛けた。
しばらくすると菜枝も現れた。
「お待たせ、兄さん。……って、姉さんも!」
「どうも、菜枝」
「……そういうことだったんですね」
少し不安気に俺を見る菜枝。
最初に言っておけば良かったな。しかし、それよりも勝負だ。
「菜枝、聞いて驚け。天笠さんは、今回の勝負で三十万円のアマゾ~ンギフト券を賞品として出してくれるそうだ」
「ええッ!?」
さすがの菜枝も驚いていた。
両手で口元なんて抑えちゃって、驚き方も可愛いな。
「じゃあ、勝負内容を言うね」
「教えてくれ、天笠」
ニヤリと不敵に笑う天笠は、なぜか菜枝に耳打ちした。
俺には内緒のルールってことか……?
「これで準備は完了。あとは神堂くん次第ね」
「俺次第……分かった」
どうやら、俺はこのまま構えていればいいらしい。
「では、先行後攻を決める。私と菜枝でジャンケンするね」
まずは二人でジャンケンか。
見守っていると、天笠が勝った。どうやら先行らしい。後攻が菜枝となった。さて、ここから一体なにが始まるんだ?
「俺はどうすれば?」
「そのままでいい。じゃあ、私からなんだけど……」
突然、俺の方へ寄ってくる天笠は――抱きついてきた。……予想外の行動に、俺は頭が真っ白になった。
ど、どういうゲームなんだ!?
驚いていると、頬に温もりを感じた。
天笠が俺の頬にキスしたんだ。
「ッ!?」
よりによって菜枝の目の前で……。
やっば、ドキドキして死にそう。
あー…菜枝が涙目になっているじゃないか。けど、堪えているようにも見えた。なにそれ、そういうゲームなの?
「さて、次は菜枝の番だね」
「……ま、負けません!」
表情を変える菜枝は、奮起していた。
だが、俺はあまりに謎すぎて首を傾げた。
「待ってくれ! これは何を争っているんだよ、天笠さん」
「ルールは簡単。私と菜枝の勝負で、神堂くんをドキドキさせた方が勝ち」
なんだそりゃー!!
そういうゲームかよ。
俺が公平に判定しろってことか。なんか勝っても負けても俺にメリットしかないような気がするが……。ていうか、天笠からキスされちゃったよ、俺。頬とはいえ、嬉しすぎた。
「そういうことですから、兄さん。わたしも頑張ります」
「お、おう」
菜枝はどういう風に俺をドキドキさせてくれるんだろう。楽しみだ。
身構えていると、菜枝も俺に抱きついてきた。
天笠の目の前なせいか
だが、菜枝は決心したのか俺の唇を奪ってきた。
しっとりした温もりを感じる。
明確な好意を感じて俺は、とてもドキドキした。
少しして菜枝は離れた。
顔を真っ赤にして、視線を外す。
俺もしばらくは菜枝の顔を見れそうにない。
「じゃあ、判定ね。神堂くん、どっちにドキドキした?」
これはもう決まっている。
「悪い、天笠さん。俺は菜枝にドキドキした」
「あ~、やっぱり唇じゃないとダメだったかぁ。悔しいなぁ」
あまり悔しくなさそうに軽いノリで敗北を認める天笠。本当は唇を狙えたんじゃないかと勘繰ってしまう。
頬だけでも十分にドキドキしたけどね。
「そういうわけで菜枝の勝ちだ」
「…………」
菜枝は菜枝で照れて恥ずかしがっていた。勝利したのに……というか、俺も目を合わせ辛い。
勝負は着いた。
俺はアマゾ~ンギフト券三十万円分をゲット!
これで菜枝を幸せにしてやれるぞっ。
★★★
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