同棲生活 - 2
放課後のゲームセンター
学校が終わって、俺は菜枝と共にショッピングモールにあるゲームセンターへ入った。制服姿の菜枝は宝石のようにキラキラと輝いていて可憐だ。
周囲から注目の視線も浴びるほどに。
主に男からだけど。
そんな羨望の眼差しを向けられてもね。てか、こっち見んな。
「菜枝、俺にしっかりくっついてろ。ヘンタイに狙われたら大変だ」
「はい、兄さん。守ってくれて嬉しいです」
天使のように微笑む菜枝。
可愛くて俺は胸がキュンとした。
この俺だけに向けられる笑顔をずっと守りたい。永遠に。
路を歩き続け、ゲームセンターへ。
十八時前だけあり、学生がそこそこ。
中学生の集団やら、恋人同士、家族連れまで多くの客で賑わっていた。
「クレーンゲームってロマンだよな」
「そうですね。取るのって楽しいです。でも、わたし……下手っぴなので」
「今のクレーンゲームは
「兄さんは自信がありそうですね。見守ってもいいですかっ」
「俺の技術力はそこそこだけどね。とにかく、やってみるかね」
クレーンゲームの筐体をグルグル回って、なにか落とせそうな景品がないかと吟味していく。
比較的取りやすいお菓子類も悪くないけど、面白味に欠ける。ここは、ぬいぐるみとかフィギュアとかそっちを狙ってみるかな。
通路を歩いて良さげなものを探した。
よし、あの『巨大サメ』のぬいぐるみにするか。
触り心地が最高に良いらしく、安眠間違いなしだとか。抱き枕に良さそうだな。菜枝も欲しそうに眺めている。
「おぉ~、サメちゃん可愛いです」
「おーけー。いきなり大物だけど、やってみるか」
「がんばってください、兄さん」
激励をもらい、俺のやる気はいつもの三倍上昇した。可愛い義妹の為に、俺は全ツッパする勢いだ。
しかし、生活もあるのでホドホドにしておかねばな。
俺はまず、百円を投入した。
ゲームスタートだ。
ボタンの【←】を押して、まずは横移動。それから【↑】のボタンを押して縦移動をしていく。狙いを定めて――巨大サメの頭上にアームを落とす。
大きなアームが口を開いてサメの頭に。
首元を掴むようにして上昇していく。
ググっとサメが持ち上がった。
おぉ、思ったよりアーム設定が強いな。これなら獲得できる可能性高いぞ。
「いける……かも」
「わ、なんか持ち上がっていませんか?」
「うん。これはいけるかも」
まさかの一撃!?
でも、たまにあるんだよな。こういう奇跡が。今まさに、そんなスペシャルラッキーが起ころうとしていた。
更にアームが持ち上がって、完全に掴んだ。
アームそのまま景品取り出し口に通じる穴へ向かった。
……掴んだままゴールへ向え。
向かってくれッ。
この瞬間がたまらなく興奮する。脳汁、ドバドバだ。
いけ、いってくれ!!
心の中で強く念じる俺。
菜枝も同じく応援してくれる。
むしろ、俺の手握ってくれていた。
そして、ついに巨大サメは景品取り出し口に――落ちた。
落下と同時に祝福の鐘が鳴り響いた。どうやら、獲得するとそういう演出があるらしい。派手だな。
「わ、わ、わぁ……! 一発で取れちゃいましたね、兄さん」
「あ、ああ……俺もビックリしたよ。運が良かったんだな。はい、サメ」
「え、わたしにくれるんですか?」
「当然だ。菜枝の為にがんばった」
「嬉しい! とても嬉しいです」
これ以上ない、とびっきりの笑顔を見せてくれて、俺は心臓が核爆発を起こすかと思った。
菜枝が可愛くて胸が辛い。
どうして我が義妹はこんなにも可愛いんだ。
やばい、やばい、やばい。
今この場で菜枝を抱きしめたい衝動に駆られている。でも、周囲の目がある。陰キャレベル9999の俺には無理だ。
くそう……俺に勇気があれば。
しかし、そんな勇気がなくとも、菜枝の方から飛びついてきてくれた。
「な、菜枝……」
「兄さん、大好きですっ」
「……こ、こんなところで恥ずかしいだろ。人がジロジロ見てるし」
「関係ありません。わたしは兄さんしか視界に入っていませんから」
そうか。そうすれば良かったんだ。
そんな単純なことに俺は気づかなかった。そうだ、俺だって菜枝だけを見ればいいんだ。
周囲なんてどうでもいいじゃないか。
俺は菜枝をぎゅっと抱きしめた。
菜枝も落ち着いた表情で俺を受け入れてくれた。
しかも、柔らかい感触が……これはまさか。
「菜枝、胸が当たってるよ……」
「それはサメちゃんの皮膚ですよ、兄さん」
なんか柔らかいものが当たっていると思ったが、それはサメのぬいぐるみだった。……くそう、勘違いか。
「残念、サメだったか」
「気を落とさないでください。場所を移動したら、お礼をしてあげますから」
「お礼?」
「はい。えっちなお礼です」
耳元で囁かれて、俺は不覚にも興奮してしまった。菜枝の癒しボイスは鼓膜と脳がとろける……。
★★★
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