同棲生活が大変です

 ゆったりとした一日を終え、気づけば朝を迎えていた。

 今日も俺のベッドには菜枝の姿。

 もう連日のように一緒だ。


 せっかく菜枝の部屋も作ったが……まあいいか。


 スマホで時間を確認すると、いつもより早起きしていた。



「朝食でも作るか」



 キッチンへ向かう。

 だが、チャイムが鳴った。


 こんな朝っぱらから来客?

 通販を頼んだ覚えはないがな。


 なんだろうと玄関へ向かう。

 覗き穴から相手を確認すると――その人物は五月女だった。



 マジ!?



 急いで扉を開けると、申し訳なさそうな五月女の姿があった。……昨日は、体調が悪くなって帰ったとか言っていた。


 でも、本当にそうなのか気になっていた。



「…………」

「五月女さん、おはよう」

「おはよう……ございます」


「こんな朝早くからどうした」

「謝りに来たんです」


「謝りに?」

「昨日はごめんなさい。菜枝ちゃんを守れなくて……」



 深々と頭を下げる五月女。

 俺はとにかく理由が知りたかった。



「教えてくれ、なにがあった」

「……江島くんから脅されたんです」

「脅された!?」


「……体育の授業とかの前で着替えたりするじゃないですか。その時、盗撮されていたみたいで……あたしの下着の写真を見せられて……バラまくって」



 ――なッ!


 江島の野郎、菜枝だけでなく五月女までそんな風に脅していたのか。なんて下劣。最低だ。ゴミクズ野郎だ!!



「そうだったのか」

「でも、それでもあたしは菜枝ちゃんを守ろうとしました。必死に抵抗したんですが、暴力を受けて……逃げました」



 ずっと左頬を押さえていた五月女は、手を離した。

 すると、そこには殴られたような傷跡が。


「……マジかよ」


 そこまでして菜枝を守ろうとしてくれただけでも感謝だ。


「ごめんなさい」

「いや、いいんだ。そんな暴力を受けるほどだなんて……しかも盗撮まで。仕方なかったんだよな」


「……許してください」

「許すも何もない。まあ、結果的には菜枝も無事だったし……ありがとう」


「……お兄さん」



 五月女は泣いていた。

 そこまで思い詰めていたんだな。

 けど、悪いのは江島だ。


 奴が悪魔だったのだ。



「五月女さん、これからも菜枝を頼む」

「……はい。ずっと友達でいますし、守ります」


「ああ、そうしてくれると菜枝も喜ぶと思う」


「……では、あたしは先に行きます」

「また学校で」



 深々と頭を下げる五月女は、背を向けて去っていく。

 そうか、江島はやりたい放題だったのか。か弱い女の子を脅して……俺の義妹にさえ手を出した。


 この罪は絶対に償ってもらう。



 ◆ ◆ ◆



 起きて来た菜枝は、相変わらず髪がボサボサで顔はポケポケだった。

 朝食を食べ、なんとか仕度を済ませた。


「そういえば、兄さん。さっき誰か来ていました?」

「……。ああ、五月女さんがね」

「え、四季ちゃんが?」


「昨日のことを聞いた」


 俺は菜枝に五月女にあったことを嘘偽りなく伝えた。


「……そうだったんですね。四季ちゃんにそんなことが」

「だから全ては江島が悪いんだ。五月女さんを嫌わないでやってくれ」


「身を呈してまでわたしを守ってくれたんですよね」

「そうだ。だから、菜枝を守りたかったという気持ちは本物さ」

「すごく嬉しいです。わたし、四季ちゃんと友達になれて良かった」


「ああ、いい子だから仲良くね」

「はいっ」



 仕度を済ませ、俺たちは学校へ。

 玄関を出てアパートの前で菜枝は俺の手を握った。



「どうした、菜枝」

「兄さん……この生活をずっと続けていきましょうね」



 菜枝から優しい瞳を向けられ、俺はドキッとした。

 清らかで純粋な瞳。


 そこに俺を映し出しているようだった。



「菜枝……俺は」



 油断していると菜枝から顔を近づけてきた。


 唇に柔らかいものが触れた。


 しっとりしていて――甘い感触。



 あぁ、忘れていた。


 俺の義妹は、えっちで甘えん坊で……同棲生活が大変だけど、でも、幸せだ。



★★★

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