同棲生活、再び

 俺は江島を職員室へ連行。

 ちょうど担任がいて、菜枝と共に事情を話すと信じて貰えた。


「そうか、一年の江島が……あとは先生に任せなさい。ただ、警察の事情聴取はあるかもしれないから、しばらくは廊下で待っているように」


 それから数十分後には警察が到着。

 俺たちは江島の悪事を伝えた。


 ヤツは否定したが、菜枝のスマホから不正なアプリが見つかり――江島は、こっ酷く怒られ、あえなく御用に。現行犯逮捕されて連行された。


 脅迫罪や不正アクセスの罪で問われるだろうということだった。


 こうなったら、江島はおしまいだ。


 俺と菜枝は一時間以上経って……ようやく解放された。



「……はぁ、疲れたな」

「こんなことになるなんて……ごめんなさい、兄さん」

「菜枝が謝る必要はない。悪いのは江島なんだ」


「学校アプリの入れ方を江島くんに聞いたばかりに……」

「席が隣だったんだろ?」

「はい……」

「それなら仕方ないさ。右も左も分からない菜枝になんてことしやがる。鬼畜の所業だぞ」


 いろいろ考えたらムカムカしてきた。

 アイツは、江島は最低な野郎だ。

 菜枝を泣かせただけではない、脅して抱きついたりキスまでしようとした。ふざけてやがる。



「びっくりしました。あんな事されるだなんて」

「俺もだよ。まさかそんなヤツが菜枝を狙うとかさ。でも、逮捕されたし、退学にもなるだろう」


「……そう願いたいです」

「それにしても、なんで五月女は帰っちゃったんだろ。菜枝を守るように頼んでいたのに」

「え……そうだったんですね。四季ちゃん、気づいたら帰っていたので」



 う~ん、気になるけど本当に体調が悪かったのかもしれない。



 そんな話をしながら――アパートに到着。



 疲労感を滲ませながらも、部屋に上がる。

 菜枝は風呂へ行くのかと思ったが、俺に抱きついてきた。


 その目尻には涙。


 手は僅かに震えていた。


 今になって緊張が途切れて……力が抜けたのかも。


「どうした……?」

「怖かった……」

「そうだな。俺も菜枝が取られるんじゃないかと怖かった」


 ぎゅっと抱きしめると、菜枝は俺の胸の中に顔を埋めた。

 多分、泣いてる。


 俺が菜枝の傷ついた心を癒していかないとな。



 ◆ ◆ ◆



 今日は特製のオムライスだ。

 完成した料理を並べていく。


 匂いに釣られてきたのか、菜枝が部屋から出てきた。



「なんか良い匂いしますね」

「ちょうど晩飯が出来たところ。食べよっか」

「オムライスですか! わぁ、可愛いです」



 瞳を輝かせる菜枝。

 ……お、反応が良いな。

 着席し、向かい合う。


 テーブルには、オムライスの他にも唐揚げを添えてある。それと喫茶店特製ブランドの麦茶だ。



「いただきます」

「いただきますっ」



 手を合わせ、スプーンを手に取る。

 俺はしばらく菜枝の様子を見ていた。


 黄色い卵をスプーンで割る菜枝。トロリとした黄身が溢れ、零れ落ちていく。


「どうだ、菜枝。中身はトロトロだろう?」

「……に、兄さん。これ凄いです! ふわふわのとろとろですよ~。こんなプロの料理人みたいなのを作れるだなんて、さすが兄さんですっ」


「親父からの秘伝でね。ここまで至るに苦労したよ」



 オムライスを“ふわとろ”にするには、結構コツがいる。火が強すぎても弱すぎてもダメだからなあ。


 あとスピードが命だ。

 タイミングを見計らってやらないと、大抵は失敗する。


 全てはバランスだ。



「ん~! 美味しいですっ。ケチャップも濃厚で……幸せ」



 ぱくっとオムライスを口に運ぶ菜枝は、今日一番のニコニコスマイル。


 なんて可愛い。


 良かった、この笑顔の為に俺はがんばっている。



「全部、喫茶店のレシピを使っているからね。お店と変わらないクオリティかも」

「兄さんといれば毎日美味しい料理が食べれて幸せです」


「いいぞ。なんでも作ってやる」

「嬉しい。わたしも何か恩返しできるよう、お料理の勉強しますね」


「それは楽しみだな」



 菜枝の料理か、それはそれで楽しみだ。いつか味わってみたい。



 そうして菜枝はすっかり元気に。

 俺も嫌なことは忘れて――日常に戻りつつあった。



★★★

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