怒りの鉄拳制裁
「ば、馬鹿。さすがに授業中だ。ま……また家でな」
「そ、そうですよね。ごめんなさい、
「いや、でも気持ちは嬉しかった」
菜枝は納得してくれたようで静まってくれた。それから、授業が終わるまでまったり閑談をした。
話していれば――体育の授業が終わった。
「じゃあ、また昼に」
「はい、兄さん。また……」
手を振って別れた。
その後、昼も昨日と一昨日のようにベンチでカレーパンを食って過ごした。……いつもと変わらない。変わらなくていい。
◆ ◆ ◆
――放課後――
菜枝からの連絡はなかったので、俺は一年の教室へ向かった。
近くまで向かうと、知らない女子から話しかけられた。
「あの~、神堂さんのお兄さん、ですよね」
「あ、ああ……そうだけど」
「五月女さんが体調を崩して先へ帰りました」
「え、マジか。あの元気の塊みたいな五月女さんが?」
「……はい。授業が終わる前に」
「そうか。菜枝は知らないかい?」
「菜枝さんですか。えっと……その、男子が呼び出して、今はどこかにいると思います」
「どこか!? どこだよ」
「わ、分かりません……」
嘘だろ、五月女は菜枝を守ってくれるんじゃなかったのかよ。……クソッ、どうなっているんだ。
俺は一応、菜枝のクラスを確認した。
だが、菜枝の姿はなかった。
どこへ連れていかれたんだ。
知らない奴にはついていくなと釘を刺したのに……なんで。
急いで各教室を見て回っていく。
一年にはいないのか……。
二年か、それとも美術室とか、あの辺りか?
とうとう三階まで上がってきて、隅にある使われていない教室の前まで来た。……む、なにか話し声が聞こえるような。
「ここにいるのか?」
まずは様子を伺う。
窓から覗くと――そこには菜枝と……あれは、体育の授業の時、俺の顔面にボールを当ててきた男じゃないか。
ま、まさか……アイツわざと俺の顔に。
俺は耳を傾けた。
すると会話が聞こえてきた。
「……神堂さん、僕と付き合ってくれよ」
「ご、ごめんなさい、江島くん。わたしには好きな人がいるから……」
「そんなの関係ないよ。それに、神堂さん……本当は天笠家の人でしょ。あの天笠
「ど、どうしてそれを!」
俺もビックリした。
あの江島ってヤツ、なんで俺たちのことに詳しいんだ。
「どうして? そんなの簡単さ。僕はね、常に君を見ていた。スマホだよ」
「スマホ?」
「ほら、転校してきた時にさ。学校専用のアプリの入れ方が分からないって言ってたろ。あの時、君のスマホにこっそりステルスアプリをインストールしておいた。
盗聴・盗撮が可能な闇アプリさ。例えば、ラインの通話とかメッセージとかの音声データやスクショを自動で僕に送信してくれるんだぜ」
「え……うそ」
「だから、君が普通の女の子と比べて淫乱だってことも知ってる。ほら、ヤりたいんだろ。僕が相手してやるよ」
「や、やだ……気持ち悪い!」
……あの男、そんなアプリを無断で入れて、しかも菜枝を脅す気か。
「気持ち悪いとは失礼だね。いいのかい、君のエロい写真をバラまくよ?」
「……え」
「あの兄さんに君のえっちな画像を送りつけてやってもいいんだぞ」
「そ、そんな……酷い! こんなの犯罪でしょ!」
「通報すれば写真や音声データが流出するぞ。ネットにな」
「…………」
顔を青くする菜枝は、震えて言い返せなくなっていた。……助けよう。こんなのは酷過ぎる。菜枝の言う通り、犯罪だ。
だが、江島は俺が動くよりも前に……菜枝に抱きついた。強引にキスしようとして…………野郎、殺す。
扉を乱暴に開ける俺。
絶対に許さん。
「おい、やめろ!!!」
「……っ! な、なんでここに」
「その手を離せ、変態野郎。菜枝に触れていいのは俺だけだ」
「あぁ!? 偽物の兄だろうが。恋人でもないクセに――」
「うるせええええええええええええええ!!!!」
俺は怒りのまま拳を振るった。
犯罪野郎には鉄拳制裁だ。
思いっきりグーで殴りつけ、江島はゴミカスのように吹き飛んだ。
「ごはあああああああああああッッ……」
転がって壁に体を撃ちつける江島。
俺はその隙に菜枝を救出した。
「大丈夫か、菜枝」
「に、兄さん……うあぁぁぁ……怖かったです」
「もう安心しろ。あの野郎は警察に突き出すからな」
★★★
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