義妹の意外な才能

 俺と菜枝は、別々の車に押し込まれた。

 なんだこれ……拉致じゃないか!


「天笠、これは犯罪だぞ!」

「違うよ、キャトルミューティレーション」

「電波な言い方してもダメだ! 今すぐ俺と菜枝を助けやがれ」


「あはは、面白いね、神堂くん」

「笑っとる場合か。俺と菜枝をどうする気だ」

「着けば分かるよ」

「どこに?」

「お楽しみさ」


 車は走り続けていく。

 いったい目的地はどこなんだ。どんどん知らない道へ進んでいくし、怖すぎるんだが。このまま売り飛ばされるとかないだろうな。



 しばらくして車が停まった。

 ここは……どこだ?



「……天笠、これは」

「さあ、おいで」


 車を降り、ある建物へ向かった。

 菜枝もこちらに向かってきた。……良かった、無事か。



「兄さん! 怖かったです……」

「俺もビビったよ。黒服に連行されるとか、こんなことあるのか。……けど、それよりも」


 目の前にある娯楽施設に、俺は怪訝な顔をするしかなかった。あの建物の屋根についている『ボウリングのピン』――そうだ、ここはボウリング場だ。



「さあ、やろうか」

「やろうかって、今から!?」

「うん、ボウリング対決。私が勝ったら神堂くんの時間を頂戴」


「――なッ」


 ボウリング対決だと?

 それだけの為にこんな拉致行為を……マジかよ。


「神堂くんが勝てば……そうだね、十万円をあげるよ」

「じゅ、十万円!? いいのか、大金だぞ」

「ここまでしちゃったからね。時間も取らせているわけだし、それくらいの対価があってもいいでしょう」


 だが、敗北すれば俺の時間を奪われるわけか。リスクがまあまあるな。その分、菜枝と過ごせなくなるわけだし。でも、お金は必要だ。

 菜枝との同棲生活を送るためには……勝負をするしかないかも。



「菜枝、俺は勝負を受けようと思う」

「兄さん、でも……」

「大丈夫だ、この対決は俺に有利だ。なんと言ってもアベレージ150以上。負けないと思う」


「わぁ、兄さん凄いです!」

「ま、まあ並よりは上だからな」


 菜枝から羨望の眼差しを向けられ、俺はやる気がアップ。


 ともかく、勝負をすることにした。なぁに敗北しても俺の時間が奪われるだけ。ちょっと辛いけど、それでも自信はあった。


 受付を済ませ、レーンへ向かう。


 ボウリングの玉も準備完了。


「天笠、本当に良いんだな」

「こっちの準備はいつでも」

「自信があるようだな。けどな、俺だって負けるつもりはない。十万円、もらい受けるぞ」


 先行は俺。

 レーンの前に立ち、俺はボールを構えた。


 その昔、親父に連れられまくってやっていたんだぜ。あの時の感覚を思い出しながら、俺は投球した。



「俺に勝負を挑んだこと、後悔させてやる!!」



 ブンッと玉を投げると、見事なストレート。



「う、うそ……まさか」



 天笠がビックリしていた。

 ふっ、まずはストライクってところかな――『ゴロゴロ……バコッ(←ガターへ落ちる音)』――あああああ……あああああああああああああああああああッッ!!!



「……うぅ」

「神堂くん……下手ぁ!!」

「く、くそおおおお……久しぶりで手が滑った」


 選手交代で天笠へ。

 てか、ダサすぎて……菜枝の顔が見られないぞ、これ。


「今度は私の番だね。行くよ」


 キラーンと瞳を輝かせる天笠は、それっぽいフォームを見せた。マジか。アイツ、プロなのか!?

 同行を見守っていると、天笠はボールを――こちらへ投げ飛ばしてきたああああああああああああああ、うああああああああ!?!?!?



『ドスゥッッ!!!』



 俺の目の前に15ポンドの玉が落ちてきて、床にめり込んだ。……まて、女の子が使うには重すぎるだろ!!


「てか、殺す気か!! 天笠!!」

「あは……あははは」


「笑いごとじゃねぇ~! もう、次はしっかりやってくれよ」


「ごめんごめん。初めてでさ~」

「初心者かよ!! 俺よりダメダメじゃねぇか!!」


 結局、天笠もガターで終わった。

 酷い、酷過ぎる……ボウリングにすらなっていない。


 そんな時だった。


 菜枝が立ち上がり、珍しく叫んだ。



「もう、兄さんも姉さんも何をしているんですか!! いいですか、ボウリングはこうやるんです!!」



 俺のターンを使い、菜枝は投球をはじめた。下手くそなフォームだったが、玉は何故か魔球のような高速回転を生み出し――途中で変則カーブ。ピンを見事に全て跳ね飛ばしてしまった。



【ストライク】



 マジか!!!


 その後、菜枝の圧倒的な下手くそフォームで勝利を収めてしまった。俺の出番が……まあいいか、勝ったし。



「ま、負けましたあああああ……」



 天笠は両手両膝をついて敗北を味わっていた。まさか、菜枝が無双するとは。おかげで十万円をゲットした。


 てか、菜枝が代行しても良かったんだろうか。まあ、細かいことはいっか!

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