幸せで最高の膝枕

 頭を菜枝のひざの上へ。

 柔らかい感触が後頭部を包む。見上げるような格好となってしまうが、視界にはかなり大きい谷が。


 これは菜枝の胸か……。

 この視点で見ると、こんなに大きいのか。


「……に、兄さん?」

「あ、いや……菜枝の膝が気持ち良くてな」

「良かったです。兄さんの頭を撫でてもいいですか?」


「構わないけど、なんだか恥ずかしいな」

「人目はありませんから大丈夫です」


 優しく頭を撫でられ、俺はドキドキした。

 学校でこんな風に恋人デートみたいなことをする日が来ようとは。


「なんだか悪いな」

「いえ、兄さんを癒したいので。わたしにはこれくらいしか……出来ないから」

「そんなことはない。菜枝がいてくれるだけで俺は人生が楽しいよ」

「もう、兄さんってば……サービスしちゃいますよっ」


 頭上に柔らかくて大きなものが降ってきた。それはバルンバルンと形を変える弾力のあるものだった。


 な、菜枝の胸じゃないかッ!


 俺の頭は世界一幸せだ。



 少しして――昼休みが終わった。本当にあっと言う間だな。



「さあ、もう戻ろう」

「もう終わりなのですか……兄さんともっと居たいのに」



 悲しそうにする菜枝。俺だって悲しい。離れたくない。だが、授業も大切だ。卒業できなくなったら大変だしな。


 途中まで送って別れようとした――しかし。


 菜枝は急に抱きついてきた。



「……! ど、どうした」

「わたし、兄さん以外の男の人から話しかけられるの……怖くて。不安で……だから」

「そっか。転校してきたばかりで不安だっただよな。気づけなくてごめん」


 俺は菜枝を抱きしめた。

 華奢で、驚くほど小さい。


 せめて不安を取り除けるよう、俺は気持ちをこめて菜枝をぎゅっとした。


「……ありがとうございます、兄さん。少し気持ちが楽になりました」

「それは良かった。また放課後に迎えにいく」

「はいっ、絶対ですからね。姉さんに気を付けてくださいね」


 手を振って別れ、俺は教室へ。


 姉さん――つまり、天笠のことだ。


 今のところ話しかけて来ては雑談する程度だから、警戒するほどではない気がする。確かに天笠は美人で話も面白いけど、恋に落ちるほどではない。


 俺は大丈夫だ。

 それよりも菜枝の方が心配だ。


 男達に狙われているようだし……俺がいない間、あの五月女に守って貰わないとな。



 再び授業を受け続けていく。

 午後は少し時間の経過が遅い。多少は真面目にやっていれば――放課後。やっと帰れる。


 俺は忍者のように教室を飛び出ようとしたが、天笠に阻まれた。



「ちょっと待った」

「……天笠さん。また俺に何か用?」


「キャトルミューティレーションさ」


「……まだ続いていたの、それ。連れ去りとか犯罪だよ」

「じゃあ、捕食者プレデターでいいや。君を戦士と認めて――ああ、これだと殺し合いか」


「なんでそーなる。映画ネタはいいから、俺は菜枝を迎えに行く。ていうか、五月女さんって女の子じゃないか。騙したな」


「ちょっとだけ、からかいたくなっちゃったから」

「そういうことにしておくよ。じゃ、俺はもう行く」



 天笠の横を通り過ぎた時だった。

 彼女はなにか小さな声でつぶやいていたような。


 なんだ?

 なんと言った?


 ……まあ、いいか。



 俺は廊下に出て、菜枝を迎えに。



 一年に向かう前の階段で菜枝をばったり会った。



「兄さん、迎えに行こうと」

「俺もだよ。心配で心配で」

「丁度良かったのですね。帰りましょう」


 手を差し伸べられた。

 俺はその小さな手を握り返し、手を繋いだ。



「菜枝の手は小さいな……」

「……兄さんの手は大きくてたくましいです」

「そ、そうかな」


 制服姿の菜枝と手を繋ぎ、下校。周囲から注目されまくりだが、気にしない。彼女と思われても構わない。変な噂が立つのも上等だ。


 それで菜枝を守れるのなら、俺は――。


「そうだ、兄さん。わたし、部活に誘われたんです」

「へえ? どの部?」

「……チアリーディング部です」


「マジ? あの応援のヤツだよな」

「そうです。可愛いチアユニフォームが着れるし、そのダンスが好きなので」


 そういえば、チアリーティングって激しく動くスポーツだよな。運動が苦手な菜枝に務まるかどうか……だけど挑戦することに意義がある。



「分かった。見て行くか?」

「ちょっとだけ、いいですか」

「いいよ。菜枝のチアユニフォームも見てみたい」



 絶対に似合うし、可愛いだろうなあ。



★★★

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