恋人っぽく

「……それは本当なのか、天笠さん」

「本当だよ。菜枝は可愛いからね、狙っている男子がもう結構いるんだってさ」


 天笠によると、学年問わず菜枝を狙うヤツがいるとのことだった。昨日の時点でも、結構アプローチがあったのだとか。


 そんなこと、菜枝は言っていなかったけどな。


 もしかして俺に心配を掛けまいと黙っていたのかも。


「そうか、名前とか分かるか?」

「一人は知ってる」

「マジか。そいつは誰なんだ」

「菜枝と同じクラスの人だよ」


「なっ……」


 まさか、同じクラスとは……いや、一番可能性が高い。転校初日から目立っているわけだから、菜枝という存在は嫌でも目立つ。話しかけるヤツがいてもおかしくはない。


「廊下で見たからね、話しているところを」

「そいつ、男か?」

「うん、男の子だったと思う。男子の制服だったし」


「名前を教えてくれ。そいつを成敗する」

「成敗って……暴力はいけないよ。でも、菜枝を守るのなら教えてあげる」

「守るためだ。教えてくれ」


「苗字しか分からないけどね」

「それでいい」


「確か、そうって言ったかな」



 なんだか変わった苗字だな。

 そいつが菜枝を狙っているとはな……なんとかして排除しないと。しかし、どうしたものか。


 悩んでいるうちに休み時間は終了。


 授業がまた始まっていく。


 ええい、仕方ない。

 昼休みになったら直接、菜枝を迎えにいく。



 ――ようやく昼休みなって、俺は教室を飛び出した。そうだとかいうヤツを近寄らせてなるものか。



 一年の廊下まで向かい、俺は菜枝のクラスへ。確か『Aクラス』だったはず。付近まで行くと菜枝が廊下にいた。誰かに寄られている様子だが……まさか!



 あの男子がそう……?



「――あの、そうさん。わたし、行かなければなので……」

「例のお兄さん? 紹介してよ」



 菜枝の前にいる生徒は……どう見ても“女子”だった。スカート穿いてるじゃん! ショートヘアでボーイッシュではあるものの、女の子だ。


 天笠のヤツ、騙したな!!


 でも……良かったぁ。


 安心していると菜枝が俺の存在に気づいて叫んだ。



「に、兄さん!」

「よ、よう。迎えに来た」



 そうに頭を下げ、こちらへ走ってくる菜枝。同時に、そうもやって来た。


 ……やっぱり女の子じゃないか。



「へえ、神堂さんのお兄さんですね」

「や、やあ……君がそうさん?」


「あれ? あたしのこと御存知なんですね」

「ま、まあね。ちょっと噂を耳にしてさ」

「そうなのですか?」



 真っ直ぐな眼差しを向けられ、俺は少しドキッとした。なんだろう、明るくてハキハキした娘だなあ。



「悪いんだけど、菜枝とは約束があるんだ」

「そうでしたか。また機会があったら、あたしも誘ってください」

「分かった。でも、よかったら菜枝の友達になってやってくれ」

「もう友達ですよ~。ではでは」



 ビシッとサムズアップするそうは、教室へ戻っていく。なんだ、良い子じゃないか。



「そういうわけだ、菜枝。そうさんと仲良くしなよ」

「うん、転校して初めての友達だけど……優先は兄さんだから」

「それは嬉しいけどね。でも、友達は大切にしろよ」



 ――って、友達ゼロの俺が言っても説得力皆無だけどな(泣)


 友達はいないけど、可愛い義妹がいるから寂しくなんてない。

 ある男はこう言った。友達を作ると人間強度が下がると。なら俺もその言葉に従おう。うん。



 周囲に警戒しつつ、今日も庭へ出た。


 ベンチに座り、俺はパンを取り出した。今日は『チーズカレーパン』だ。



「わぁ、カレーパンですね。これ美味しいので飽きません」

「菜枝、これはチーズカレーパンだぞ。チーズがトロトロですげぇ美味いんだ」

「絶対美味しいじゃないですか~」

「人気商品だから直ぐ売れ切れてしまうんだが、休み時間に買っておけば確保できるんだ」

「さすが兄さんです! あ、飲み物どうぞ」

「ありがとう、菜枝」



 袋を開封し、チーズカレーパンを食べてみる。一口だけでも濃厚なカレーとチーズの風味が舌に広がった。


 ……うまっ!



「美味しいです! お昼にぴったりですね!」



 珍しくテンションを高くする菜枝も大絶賛。俺も菜枝もあっと言う間に平らげてしまい、物足りなさえ感じていた。



「美味かったなぁ」

「はい、夢中になって食べちゃいました」



 お茶で喉をうるおし、体を伸ばした。

 やっぱり、こうして二人でいる時が一番最高だ。菜枝の笑顔が俺の心を救ってくれる。そばにいてくれるだけで、こんなにも安心できる。


 そうが女の子で良かった。


 ……いや、まだ敵はいるかも。見極めていかないとな。



「なあ、菜枝。男から話しかけられたって?」

「……そ、それは……はい。彼氏いるの? とか色々聞かれました。でも、わたしは『彼氏がいる』って答えました」


「それって……」

「に、兄さんのことですよ。だから、安心してくださいね」


「…………」


 嬉しさのあまり、俺は脳内で暴れ回った。

 表現するならこんな感じだ。



(うおっしゃあああああああああ、良かった良かった良かった!! 男どもざまあみろおおおおおおおおおお!! 菜枝は俺の義妹なんだよぉおおおおッ!! ひゃっほおおおおおおおい!!!!!)



 もちろん、顔は冷静だが。



「だから、恋人っぽくしないとですよね」

「あ、ああ……」



 油断していると、菜枝が俺に寝るよう指示してきた。膝の上に頭を乗せて、と。……こ、これはまさか『ひざまくら』ってヤツか――!?



★★★

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