病む病む注意報

 密着されるだけで、死ぬほど幸せになれた。

 菜枝の体は折れちゃいそうなほど細いけど、胸は大きい。少し接触するだけで弾力がありすぎて形が変わったような気がした。


「兄さん、その……胸が気になりますか」

「そりゃな。――あ、そろそろ時間だぞ」


 抱き合ってまったりしていれば、もう昼休みが終わりかけていた。幸福はあっと言う間に過ぎるな。


「……離れたくないです」

「わがまま言うなって。そりゃ、俺も離れたくはない……けど、授業がある」

「うぅ、残念ですが……また放課後ですね」

「そうだな。また連絡するよ」

「分かりました。途中まで歩いて行きましょ」


 階段まで歩き、そこで別れた。

 俺は二階へ、菜枝は一階の教室へ向かった。



 ――午後の授業が始まり、時間が流れていく。



 なぜ現実リアルは倍速スキップできないんだ。授業なんて苦痛しかない……。早く菜枝に会いたい。



 あれから、なんとか乗り切った。

 頭から煙がプスプスと出ている。

 小テストがあったりで普段使わない脳を使ったからだ。そういえば、テストの日も近いのか。だるいなあ。


 席を立とうとすると、天笠が駆け寄ってきた。



「神堂くん、帰るの?」

「ま、まあね。でも、妹と約束だから」

「そっか。少しだけ時間いいかな」

「いいけど。ていうか、天笠さん……なんで俺に構うの? 俺より面白いヤツなんていくらでもいるだろう」


「そうでもないよ。神堂くんほど面白い人類はいないと思う」

「ちょっと待て。それでは俺が別の人種に聞こえるぞ。俺は宇宙人でもなければ、超能力者でもない。まして、未来人でもない」


「神堂くん、やっぱり面白いじゃん」



 天笠が柔軟に微笑む。

 透き通るような、そんな笑みだった。

 ヤバ……天笠ってこんなに可愛いのか。俺は思わず見惚れそうになった。だが、ギリギリのところで気持ちを抑え込んだ。



「悪い……もう行く」

「また話そうよ。神堂くんと話すのは退屈しないし」

「俺なんかで良ければいいけどさ」

「よろしく」


 握手を求められ、俺は一瞬脳が停止した。

 これは友達になってくれるってことなのだろうか。どんな意味が込められているのか――分からないが、俺は握手を交わした。



 逃げるように俺は教室を飛び出した。



 菜枝からラインがあり、もう校門前にいるようだった。向かうと、菜枝が立っていた。


「あ、兄さん」

「お待たせ、菜枝……って、左腕をどうしたんだ」

「こ、これは……大丈夫です」


 左腕を隠す菜枝。

 まてまて、包帯を巻いていたぞ。

 まさかケガしたのか。


「なにがあった。誰かにやられたのか」

「そうではないんです。……その、なんと説明していいやら」

「見せて」


 俺は強引に菜枝の左腕を引っ張り、包帯を外していく。すると、腕にはちょっと傷があった。


「……」

「なにがあった」

「自分の爪が食い込んで……」

「本当のことを言うんだ」

「本当です。でも、詳しく話すと……幻滅するかも」

「そんなことはない。妹に幻滅とかしない」


 諦めたのか、菜枝は事情を話してくれた。


「……実は、さっき兄さんの教室へ行ったんです。その時、女子と話されていたので……辛くて……悔しくて」


 ま、まさか……天笠との会話シーンを見られていたのか。いや、そもそも天笠と菜枝の関係性も気になった。


「なあ……菜枝。天笠 薺って知ってるよな」

「……やっぱり、姉さんと話していたんですね」

「ね、姉さん!? 姉がいたのかよ。知らなかったぞ」

「姉さんはずっと海外いたので。だから会う機会がなかったんです」



 そういう事情があったのか。道理で顔を知らないわけだ。



「まさかクラスメイトだったとは……」

「兄さん! よりにもよって姉さんと……なんであんな楽し気に」

「ご、誤解だ。俺はなんとも思ってないよ。大切なのは菜枝だ」

「……本当ですか?」

「ああ、本当だよ。だから落ち着いて。てか、自傷行為なんてするな。約束してくれ」

「……だって、兄さんを取られると思って……寂しかったから。ごめんなさい」


 反省を色を示す菜枝。

 どうやら分かってくれたようだ。


「俺も悪かった。そうとは知らず」

「いえ。でも、あんまり仲良くはならないで下さい」

「同じクラスだからな……それによく話しかけてくるし、難しいかもしれないな」


「そうですか。では、左腕を――」

「って、もう自傷はダメ!! 禁止!」


 なんだか病む病むになる菜枝は、また爪を食いこませようとしていた。ちょっと怖いって。だけど、そうか……天笠は要注意人物だな。



「分かりました。わたしも兄さんを信じたいです。だから、帰ったら気持ちいことをしましょうか……」


「っ!! ば、ば、馬鹿! 女の子がそんなこと言うな。ヘンタイも禁止だ」

「わたしはいつでも性に本気です。兄さんがしてくれないなら、わたしから兄さんを襲います。あの憎き姉さんに取られる前に!」


「襲うな! ……普通逆だろう。いや……襲わないけど」



 ――あぁ、そうだった。


 思い出したよ。

 菜枝はえっちな妹だったのだ。


 正直、ここまで依存してくれることに俺は喜びさえ感じていた。だが、懸念もあった。このままではドヘンタイになってしまうのではないかと。


 今後の教育方針を考えねば。


 もっと、えっちな妹に育てあげるか――それとも普通の妹に再教育し直すか。……そんなの決まってるよな。



★★★

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