えっちで危険な義妹

 休み時間に『天笠 薺』が話しかけてくることはなかった。

 昼休みなって天笠は俺の席の前へ座った。


神堂しんどうくん。――神堂しんどう らいくんよね」

「よく覚えていたね。俺、ずっと幽霊のように存在感無かったでしょ」

「まあね。でも、私は知っていたから」

「それはビックリだな。……さて、悪いけど俺は菜枝と会う約束だから」

「そう。また時間があったら話しましょう」


 天笠は潔く離れていく。

 今は様子見ってことなのか?

 よく分からないな。


 俺は席を立ち、教室を出た。


 すると、教室の前が騒然となっていた。……ん?


「ねえねえ、あの長い髪の女子……可愛すぎじゃね?」「一年かな。初々しいな」「誰かの彼女?」「背、小っちゃいねえ」「誰かの妹じゃね」「あんな可愛い女子と知り合いとか、幸せ者だな」


 菜枝ってこんな目立つのか。知らなかった……。ぼうっと突っ立っていると、菜枝が俺の存在に気付いた。こちらに駆け足で来るなり、向日葵ひまわりみたいに笑った。


「兄さん、早く行きましょう」

「お、おう」



 その場にいた人たちが俺の方へ一斉に振り向く。……げっ! すげぇ見られてるし!



「え、アイツの妹!?」「ありえねー、絶対ありねえー!」「犯罪じゃね?!」「ぜんぜん似てないぞ……本当に兄妹?」「でも、あの女子も“神堂”っていうらしいぜ。後輩の友達に聞いたよ」「マジかー! 信じられねえなあ」



 好き放題言いやがって。

 菜枝は、義理だが妹には間違いないのだ。


 ええい、この場にいると息が詰まる。

 俺は菜枝の手を引っ張り――外へ向かった。


 学校を出ると裏庭には、ベンチがあった。そこで昼食を取ることにした。



「はい、菜枝。座って」

「わぁ、兄さん。わざわざハンカチを敷いていただけるなんて嬉しいです」



 デートではないのだが、こういう細かい気配りが絆を深める近道ではないかと俺は思った。コツコツと確実に親交を深めていこう。


 俺は菜枝ともっと仲良くなりたいのだ。


 菜枝はスカート押さえて座った。

 早々、俺の方へ身を寄せてきた。ちかっ……。ほぼ密着しているぞ。


 ふわふわとした感触が俺を包む。


「菜枝、ちょっと近くないか」

「寂しかったので……その分です」

「…………っ!」


 恥ずかしそうに言われ、俺まで恥ずかしくなった。そうだな、俺もなんだか寂しかった。教室では退屈しかなかった。

 でも今は違う。幸せしかない。


 妹が出来て、俺は人生が変わった。だから――。


「……と、ところでお昼はどうしましょうか」

「それなんだけど、俺はいつもパンなんだよ。ほら、これは菜枝の分」


 カレーパンを菜枝に渡した。


「実は俺、パンを召喚する能力を持っているんだ」

「兄さんって魔法使いなのですか!?」


 ――あ、信じちゃった。

 もちろん嘘というか冗談である。


 このカレーパンは、休み時間に予め購入しておいたものだ。うちの学校にはパンの自販機もあるからな。


「ごめん、普通に買った」

「そ、そうだったのですね。びっくりしました」


 包を開封し、カレーパンを戴いた。

 表面はカリカリで中は濃厚なカレーが詰まっている。常温でも美味すぎる。


 パンを食べ終え、まったりしていると菜枝が立ち上がった。


「どうした」

「ちょっと飲み物買ってきますね」

「あー、すまん。忘れてた」

「いいんです。パンのお礼に買ってきますね」


 ここから食堂は近い。そんな時間は掛からないだろうから俺はベンチで待つことにした。しばらくすると、菜枝が帰ってきた。


 缶を両手に持ち、俺の前に立つ。


「おかえり、菜枝」

「……あの、兄さん」

「ん?」


 どうしたのだろうと首を傾げていると、菜枝は大胆に俺の上に乗ってきた。


「し、失礼します」

「ちょ! な、菜枝……こんなところでっ」


 向かい合い、抱き合う形となった。菜枝は女の子座りで俺のひざの上にまたがっていた……! はたから見たら、とんでもない光景だぞ。


「……兄さん、えっちな女の子は……嫌いですか」

「そんなことはない。最高だ」

「良かった……」


 安心したのか、菜枝は俺に抱きついてきた。胸がぎゅうぎゅうと当たり――しかも、俺の耳を甘噛みしてきた。


「…………ッッ!!!」

「兄さんってば反応が可愛いです」


「菜枝のせいだろう。こ、これは見つかったらまずいぞ」

「大丈夫です。今ここに他の生徒はいませんから……なので、昼休憩が終わるまでこうしていましょう」


「わ、分かった。でも、ひとつ教えてくれ。なんでそんな淫乱えっちになってしまったんだ」

「そ……それは兄さんのせいです」

「俺の?」

「子供の頃、えっちな本を見せてくれたではないですか」


 ……あれか。親父のエロ本を無断で持ち出したんだった。当時、俺は本に書かれていることがまるで理解できなかった。裸の女性が載っていたけど、俺にとってはそれだけの話だった。


 ただの興味本位で覗いただけだが、菜枝は違ったらしい。


「それで、こんなにヘンタイに?」

「ですから、責任取ってください」

「それなら仕方ないな――って、うわッ!」


 菜枝の細い指が俺の腹筋を撫でた。それは危険だって!

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