わたしの身も心も兄さんのモノ

「お願いです」


 そんな真剣にお願いされてはな。

 いったい、天笠家で何があったのやら。向こうの家は確か、親がどこかの財閥だとかだったかな。厳しい家だとは聞いていた。


 なにかあって家を出たんだろうな。


 詳しい事情はまだ分からないけど、菜枝を放ってもおけない。


「分かった。菜枝の居場所は作る。……だから、その手を」

「手? ……ぁ」


 勢いだったのか、菜枝は手を離した。そして、両手で顔を覆っていた。恐ろしく煙を上げているな。

 そんな俺も手に感触がまだ残っていた。


 ……しばらく忘れられそうにない。


 とにもかくにも、菜枝の部屋を作る。これが今の最優先事項である。


「な、菜枝。俺は部屋の整理をしてくるから」

「わたしも手伝います」

「いや、いいんだ。ゆっくりしていて」

「そんなの悪いです。これから住まわせてもらうのに」


 菜枝は自分も手伝いたいと強い意思を示した。そこまで言うのなら……いいか。


「分かった。でも、無茶はしないでくれよ。いきなり怪我とかされたら、俺も困る」

「はい、気を付けます」


 左部屋のスライドドアを開けた。

 まずはダンボールを片付けないと。


「中に不要物だとか保管中なんだ。捨てる物もあるから、そんなには残らないかな」

「ダンボールはどうしましょうか」

「ひとまずダイニングへ置いておく」

「では、運びますね」

「ああ、小さいのを頼む」


 菜枝は腰を下ろし、小さなダンボールを手にする。それを運ぼうとすると手がすっぽ抜けて、彼女の体が俺の方へ倒れてきた。



「きゃっ……!」

「な、菜枝!」



 自然と体を支えることになった。

 というか、背後から抱きしめるような形になった。……こ、こんな密着! てか、菜枝の体がきゃしゃ過ぎてビックリした。


 女の子ってこんな小さくて細いのか。折れちゃいそうだ。



「あ、ありがとうございます。危うく転倒するところでした」

「やっぱり運ぶのは俺がしようかな」

「す、すみません……不器用で」

「そういえば菜枝は、昔からポンコツだったな。何もない所で転倒したり……今もそういうところ、直ってないんだ」


「……うぅ、恥ずかしいです」


 火を噴きそうなほど赤面する菜枝。……ところで、いつまで抱きしめていればいいのだろうか。俺は心臓がバクバクで死にそうなんだが。

 もうなんか、こうしているだけで犯罪的だった。

 通報されないか心配だ……。



「頼むから、お巡りさんに突き出すのは止めてくれよ」

「兄さんにそんなことしません。……その、もっと抱きしめてもいいですよ。昔はよくしてくれましたよね」


「昔は……子供だったからな。今はこんなに綺麗に育って……」

「胸も大きいですよ」


「……ッ! あえて触れなかったのに」

「Gカップなのでご満足いただけるかと」


「まじかよ……」



 菜枝の胸は、確かに服越しでも膨らみが分かるほど。メロンのようだった。

 胸のサイズを知り、俺は鼻を押さえた。

 このままでは床が血に染まる。って、満足ってなんだ!? 満足って!



「……兄さん、わたしを貰って欲しいです」

「菜枝……」

「もう天笠家の事とか考えたくない。……わたしの身も心も兄さんのモノなのに。だから、今のうちに既成事実を作ってしまいましょう」


「それってつまり?」

「えっちなことを……それ以上は恥ずかしくて言えません」


「あー…なるほど。菜枝は気持ちいことがしたいのか。えっちな娘に育っちゃったのか」

「…………はい。わたし、ずっと兄さんのことばかり考えてきました。結婚だってしたいって伝えたのに理解して貰えなかったんです。だから、義理の妹になろうかと考えました」


「そ、そうだったのか。俺のことなんてもう忘れているものかと」

「忘れないです。あの時の言葉は、わたしの人生を変えました。だから……」


 制服のボタンを外していく菜枝。

 そこまで俺を思ってくれていた事実に震えた。嬉しかった。泣きそうになった。菜枝は、俺のことを忘れていなかったんだ。



★★★

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