義妹が体を差し出してきた

 表面では冷静を装っている俺だが、まだ混乱の最中にいる。ハリケーンの中へ突っ込んだ気分だ。

 女の子が俺のアパートに入ってくるという事実。同棲するという夢のまた夢だと思われていたことが現実に起きてしまったから……どんな顔をしていいのかすら困った。


「……えっと、いったん落ち着くか」

「そ、そうですね」


 菜枝も落ち着かない風だった。

 俺がしっかりしないと……なんだが、女の子の扱い方がイマイチ分からない。普段、女子と話す機会すらないからな。


 とにかくキッチンへ向かった。


 このアパートは『2DK』なので、一人暮らしにしては広すぎるほどだった。

 親父の知り合いが経営しているらしく、そのツテで借りれることになった。おかげで一人で暮らす分には快適すぎた。


 片方の部屋は倉庫代りになっている。これからは菜枝の部屋にしていいかもしれない。いや、そうしよう。同じ部屋で暮らすのはハードルが高すぎる。



「お茶でいいかな」

「はい、大丈夫です」


 冷蔵庫にある二リットルのお茶のペットボトルを取り出し、俺はグラスに緑茶を注いだ。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 喉が渇いていたのか、菜枝は上品に緑茶を味わっていた。なんだろう、ずっと眺めていられる。ひとつひとつの動作が甘くて、まるでチョコレートを無限に食っている気分だ。

 俺も興奮しきった脳ミソを落ち着かせるため、お茶に口をつけた。


「――ふぅ」


 ……って、期待と不安の眼差しで見つめられているし。

 これじゃあ、余計に落ち着かない。

 再びお茶を飲んで冷静になろうとした――その時。



「あの呼び方ですが、兄さんよりご主人様の方がいいですか?」


「ブッ――――――!!」



 突然の提案に、俺は茶を噴きだした。

 そんな主人とメイドみたいな関係になるのか、俺たち。いやいや、ダメだろ。怪しい関係にしか思えない。


「その、質問サイトでその方が良いと言われたので」

「その質問サイトの利用はもう止めなさい。……まあ、普通に兄さんでいいんじゃないか」


「そ、そうですよね。そうします」



 しばらくはそれでいい。

 女の子から名前で呼ばれるものむず痒いというか、慣れない。そもそも、菜枝は義理の妹になるようだし……なら、兄さんとかお兄ちゃん呼びの方が自然ではないだろうか。



「俺の方は……菜枝って呼んでいいのか。それとも天笠さんは……ちょっと違うよな」

「はい。わたしはもう神堂家の者ですから……呼び捨てで構いません」


「分かった。一応、子供の頃は名前で呼んでいたから、いっか」

「気軽に読んでください、兄さん」


「あ、ああ……」



 今は違和感があるが、多分直に慣れるはず。今はとにかく一緒に生活することを考えよう。



「ところで……その、わたしはどこで寝ればいいでしょうか」

「このアパート、部屋が二つあるんだ。片方が空いているから、正面から見て左側を使ってくれ」


「使ってもいいのですか?」

「構わないよ。というか、同じ部屋は俺の身が持たない」

「でも、お世話になる身ですし……わたしは同じ部屋でも」

「なっ……」


 見つめられ、いきなり手を握られた。

 そんな本気の眼差しを向けられると、俺は弱いぞ。理性なんて簡単に吹っ飛ぶ。


「兄さん、わたしにはもう居場所がないんです。今頼れるのは兄さんだけ。……だから、この身を差し出す覚悟です……自由にしていいですから……。居場所をください」


 菜枝は涙目で、顔を真っ赤にして、俺の手を胸へ掴ませた。



「――――ッッ!?!?!?」



 お、俺の手が菜枝の胸にィ!?


 な、な、なんて場所にッ!!


 や、柔らかい……って、違う!!



★★★

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