第68話 嘲りと仕返し

 貴族院の議事堂に着いた俺たちはケルツ様と共に中へ入った。

 

 ハルケギニア王国は貴族院の力が大きいという。


 まるでローマにおける元老院のような存在で、国王が間違った判断をしないように貴族院に所属している上流貴族たちが集まって会議をするということになっている。

 

 パーシー家の全滅とジェネシスの存在。


 果たして上流貴族らは何を思っているのだろう。

 

 と、俺が考えながら中を進んでいると、周りにいる貴族たちが俺たちを見てきた。


「ほらみろ!セントラル魔法学園の平民だ」

「なんであいつがここにいるんだ?」

「しかもケルツ様とエレナ様とルナ様にセレネ王女陛下もいらっしゃるぞ……」

「なんだよ……クッソ」


 貴族らは俺を警戒するように一瞬睨んでは前を向いて歩く。


X X X


議事党の会議室


「それでは早速始めます。今回の議題は『平民と奴隷の処遇について』です。意見がある方は手をあげて言ってください」


 驚いた。


 ルナ様の父であるジャック・デ・レノックス様が議長として会議を進めていた。


 彼は司法機関でも相当高いポストに就いてると聞いたが貴族院でもうまくやっていたんだな。


 俺と3美女は傍聴席で、ケルツ様は議員席でジャック様の姿を見つめる。

 

 すると、誰かが手をあげてきた。


「マレー侯爵家の当主、エリック殿」


 ジャック様は手をあげた人の名前を呼ぶ。


 マレー侯爵家か。


 この前、俺に戦闘で負けたギースの父だ。


 俺が彼に視線を向けると、彼は握り拳を作り、俺を睥睨したのち口を開く。


「平民と奴隷に処遇という言葉は似合いません!奴らに特権を認めたらつけあがってハルケギニア王国に混乱をもたらします!なので、平民の納める税金の税率を二倍以上あげて、奴隷に至ってはもっと厳しくする必要があります!!」


 マレーは俺をまた睨んでは微かに口角を吊り上げた。


「そうだ!」

「エリック様のいう通りだ!!」

「平民と奴隷に優しくしたらつけあがるんだよ!!」


 議員用の座席に座っている貴族たちがギースの父の言葉に賛同した。


 俺は唇を噛み締めて彼らを睨むと、彼らもまた俺を睨み返してきた。

 

 そこへ、


「ちょっといいかね」


 ケルツ様が手をあげた。


「ケルツ公爵、もちろんです。どうぞ」


 ジャック様が笑顔をケルツ様に向ける。


「いつまでそんなふうにドブネズミのように隠れて誹謗中傷を飛ばすのかね。そこまで傍聴席に座っているカナト君を認めるのが嫌かね?情けない」


「「「っ!!」」」


 会議室にどよめきが走る。

 

 だが、ケルツ様は意に介さず続ける。


「他の国では魔法が使えると貴族になることもできる。しかし、ハルケギニア王国はどうだ?昔はこの王国も魔法さえ使えると誰でも貴族になれた。しかし、貴族たちは自分らの既得権益を守るばかりで、能力あるものがのしあがってくることを嫌がり徹底的に有能な平民らをを排除してきた」

 

 ケルツ様の言葉を聞いてギースの父であるエリックが怒りを抑えながら言う。


「ケルツ様!!!お言葉ですが、俺たちは既得権益なんて守ってないですよ!あくまでハルケギニア王国のために努力してきたつもりです!」


「王国のたえだと?ぷっ!あははははは!!!!!!」


 エリックが言い終える前に、ケルツ様が爆笑した。


 ケルツ様の笑いにジャック様を除く皆が顔を歪ませる。


「後ろめたいことがなければ、魔法が使える平民や奴隷の他国への移民を認めるべきではないかね?俺は知っているぞ。移民法が成立する前には魔法が使える平民や貴族が他の国に逃げて爵位を得て出世していったことを。つまり、ハルケギニア王国でも爵位を与えるべき人はまだたくさんいるということだ。あなたたちと同じ貴族になるべき人がな」


「……」


「評価されるべき人を今まで徹底的に排除したからジェネシスという団体ができたわけだ。だからこれまでの反省を活かして、魔法が使えるものには身分関係なく爵位を与えることと王女陛下を救って尚且つアンデッドとなったハリーを退治したカナト君にはあなたより上のという爵位を与える意見を提案する。彼の強さは別格だ。王国一、いや、世界一と言っても言い過ぎではなかろう」


「「っ!!!」」


 ケルツ様の言葉にまた会議室はどよめきが走る。


 しかし、


「あははは!!!」

「あの平民に公爵の爵位を与えるんだと!?」

「平民風情に公爵!?」

「おかしい!!」

「うへへへ!!下級貴族にもなれない平民に公爵?」


 彼らは最高貴族であるケルツ様の意見に対しても怯む様子を見せず嘲笑う。


「……」


 腹が立った。


 別に俺が無視されるのは今に始まった話じゃない。


 むしろこういう仕打ちには慣れている。


 けれど、


 俺のために頑張ってくれる人が侮辱される場面を見ていると、怒りが込み上げてきた。


 俺は握り拳を作り、醜い表情で笑っている貴族に向かって言葉を発するために口を開こうとした


 が、


「あらあら、みなさん、嘲笑うことはよくありませんよ。小皺が増えますから」


 俺の隣にいるセレネ様が冷静な口調で言った。


 すると、貴族らは笑いを堪えて俺たちのいるところへ視線を向けてくる。


 セレネ様はいつもの色っぽい感じで続ける。


「あなたたちが無視するカナトさんがどれほどの男なのか、やっぱり直接見せた方が早いですね。うふ」


 と言って、セレネ様は




 俺の唇にキスをした。



「っ!」


 


「「なあああにいいいいいい!?!?!?!?」」


 今まで笑っていた貴族らが衝撃を受けたらしく、叫んでいるが、セレネ様はやめる気配がない。


 いや、マジで何やってんすか!?


 数秒後、セレネ様が俺から離れると、


 続け様に


「カナト……こんな形でやることになるとは……」


「ちょ、ちょっと!エレナ様!?っ!」


 エレナ様の唇と俺の唇が完全に重なった。

 

 そして数秒後、エレナ様は名残惜しそうに離れる。


 最後は


「ま、まさか……ルナ様も!?」

「……後で説明しますから」

「ちょ、ちょっと!っ!」


 



 俺は公爵家の長女二人と王女様一人と接吻をした。


 ちなみに、公爵家の長女二人のパパさんはここにいる。


 俺たちをめっちゃガン見しているけど、これどうなっちゃうの?




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