第67話 少女たち

 セレネたちside


 エレナ、ルナ、セレネを乗せた馬車はカナトとケルツを乗せた馬車を後ろから追っている。


「「……」」


 3人の美少女はセントラル魔法学園の制服を着たまま馬車の揺れを意識しつつも張り切った表情を互いに向けていた。


 ハルケギニア王国を支える3大公爵家の長女が二人に王女が一人。


 3人の美貌は国内だけでなく、国外からも有名である。


 エレナは戦姫として世界をまたにかけて活躍し、その強さと美しさは共に戦った兵士や戦士らによって口伝で伝わり、毎日届く求婚の手紙を捨てるのが彼女の父であるケルツの日課である。


 ルナはセントラル魔法学園の生徒会長ということで自他ともに認める聡明な女性だ。加えて美しい美貌ゆえに、学園内でも上流貴族らに数えきれないほど告白された。しかし、どれも亡くなった兄の足元にも及ばないのでことごとく断ってきた。


 セレネは言うまでもないだろう。ハリーという婚約者がいたにも関わらず、他の王国の王子から乗り換えることを仄めかす手紙を頻繁に受け取っていた。つまり、パートナがいる状態でも欲しくなるという魔性のオーラを漂わせているのだ。

 

 この3人の美女は今一人男に想いを馳せている。


 ハルケギニア王国の未来を担う3人の女性は、カナトの味方になって会議に参加する。


 貴族たちが見ている前で、一人の平民と共に戦う。


 それが何を意味するのかは3人ともよく知っている。


「……カナトさん、大丈夫かしら?」


 初めて口を開いたのはセレネだった。


 彼女は窓越しに木々を見ながら息を吐いた。


「きっと大丈夫です。カナトは強い男ですから」


 握り拳を作り、目力を込めてエレナが答えた。その凛々しい姿を見たセレネは優しく微笑む。

 

 だが、ルナは違うことを考えているらしく、目を若干細めてエレナにツッコミを入れる。


「強いだけじゃ足りません。貴族らを黙らせるだけの言葉と論理が必要です。彼らは狡っからい思考の持ち主だから、カナトさんが太刀打ちできるか心配です。武力なら申し分ないですが、これは言葉による戦いです」


 ルナが悔しそうに言うと、エレナも暗い表情のまま言う。


「ルナ殿の言葉も一理あるな。カナトはずっと平民として生きていた。既得権益を守ろうとする大人の貴族たちと議論することができるか確かに心配ではある」

「そこをなんとかするのが私たちの役割だと思います」

「なるほど……」


 エレナとルナが顎に手をやり、考え考えする。


 そんな二人を見て、セレネはまたにっこりと微笑み、自分の考えを言うために艶のある唇を動かした。


「ふん……もちろんそれも大事だと思うけど、私にもっといいアイディアがあるんだよね〜」

「「え!?」」

 

 セレネの言葉にエレナとルナは目を丸くした。するとセレネが向かい側に座っている二人にちょいちょいと手招く。普通に話したらまずいことでもあるらしい。


 二人は「?」と一瞬小首を傾げて互いを見合わせるが、やがて上半身を動かしてセレネのいる方に顔を寄せた。


 セレネはそんな二人の耳に向かって密かに呟く。


「……」



「「は、はああああああ!?!?!?!?」」


 セレネから言われた二人は急に頬を真っ赤に染め上げ後ずさる。

 

 そんな二人を見てセレネは目尻と口角を吊り上げて、座り直すように太ももを動かせた。




X X X


ミアの家


 リナは重い表情のままミアが住む屋敷にやってきた。


 フィーベル家と比べたらとても小さいが、リナは屋敷の大きさを確認しにきたわけではない。


 目の前の屋敷に住んでいる人に会いにきた。


 降り立って正門の前で待つことしばし。


 すると、邸宅から紫色の髪を靡かせながら走ってくる美少女。


「リナさん!!」

「ミア様!!」

 

 男爵家の四女ではあるミアが平民であるリナの顔を早く見たくて全力で走ってきた。

 

 本来なら貴族としてあるまじき行為ではあるが、ミアにとって貴族としての振る舞いはリナを前にしたら意味を成さなかった。


「数日前にケルツ様から手紙をいただきました。カナトさんはエレナ様とルナ様とセレネ王女殿下と共に今貴族院の議事堂に向かっていますよね」

「はい……」


 リナは不安そうな表情を浮かべてミアから目を逸らした。


 今にも泣きそうなリナを見ているミアの心には謎の気持ちが込み上げてきた。


 なのでミアはリナのところへ行き、強く彼女を抱きしめる。


「ミア様!?」

「大丈夫。うまく行くよ」

「……ミア様……ミア様……」

「様はいらない。もう私とリナちゃんは貴族と平民なんかじゃない。友達よ」


 と言ってミアはリナの頭をまるでお母さんのように優しく撫でてあげる。


 全身でミアの体を感じるリナは涙を流し、自分の体の全てをミアに委ねた。


「ミア……ミア……ミアお姉様!!!!」

「4人とケルツ様を信じましょう。リナちゃん」

「う、うん!」

「近くに教会があるけど行ってみない?」

「ううん。私、ミアお姉様の部屋がいい」

「ふふ、わかった。部屋でいっぱい話そうね。今まで言えなかった話も全部含めて」

 

 ミアはリナの涙を指で拭い微笑みをかける。


 リナはというと、ミアに甘えるように彼女の胸に顔を埋める。

 

 そのリナの姿を見たミアはとても満足そうに笑い、またリナの頭を撫で始める。






追記


次回から本格的に始まります



 

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