第65話 セレネ様はピュアである

「な、なんなんですか……これは」


 俺が固まったまま口だけ動かしていうと、セレネ様がまた自信満々に話す。


「何を驚いているんですか?リナさんとエレナさんとはよく一緒に入るんでしょ?」

「そ、それは……」

 

 俺が答えあぐねていると、ルナ様が頭を抱えて何やら呟いている。


「これは狂ってる……間違いなく正気の沙汰ではない……なんで私、一緒に入ったんだろう……」


 まるで自分を責めるかのような口調で言いつつ身震いしながら俺をチラチラみてきた。

 

 幸い、俺はタオルで大事なところを隠してあるので安心している……てか全然安心できない状況なんだけど。


 このやばい光景に鳥肌を立てていたら、リナがこともなげにボソッと漏らす。


「ルナ様は以前、お兄様と浸かったことありますよね?」

「っ!い、いや!私は……」


 否定しようとするルナ様だがエレナ様が懐かしむように口を開く。


「そうだな。この前ライデンの別荘で一緒に入って、その時カナトに裸を見られ温泉施設を全部壊したな」

「そそそそ、その件に関しては、すでに賠償済みです!!」

「い、いや……弁償の話をしているわけではないけどな」


 ルナ様の的外れた返答にエレナ様がドン引きした。

 

「ふふふ、ルナちゃん。カナトさんと一緒に温泉だなんて、私全然聞いてないんだけど?」

「セレネ様……」

「ことの顛末を私に話して頂戴」


 セレネ様がルナ様の肩を抑えて顔を彼女の頬に近づける。


 湯気のせいでちゃんと見えないが、セレネ様の巨のつく乳がルナ様の腕と肩によって押し潰されているシルエットはクッキリ見える。


 もう出た方がいいだろ。


 リナとエレナ様だけならギリギリセーフだが、4人となると話が別だ。


「お、俺は後でまた入りますのでごゆっく……」

「カナトさん、早く体を流してここに入ってくださいね」

「……」

「私も感じてみたいんです。カナトさんがくれるを」

「い、癒しって……」


 リナやエレナ様があの単語を口にしたら何も思わないはずだが、あの人が言うと、誤解をしてしまいそうだ。


「お兄様、早くしてください」

「お、おう。わかった」


 と言って、俺は早速体を流し、オドオドしながらみんなのいる広い風呂にやってきた。


「「……」」


 彼女らは俺の体をじっとみているだけで何も言ってこなかった。


 俺は完全に浸かって前を見る。

 

 さっきまでは離れたところにいたからよく見えなかったが、今は彼女らの顔や体が鮮明に見える。


 リナはちょっと不服そうに頬を膨らませており、腕を組んでいる。おかげさまでただでさえ巨大なマシュマロが強調される。


 ずっと見てきた体ではあるが、最近は俺を戸惑わせる体になりつつある。

 

 エレナ様は金髪の髪を揺らしながら、頬をピンク色に染め上げては俺を切ない表情で見ていた。鍛えられたバランスのいい体は彼女の魅力を引き立ててくれており、特にリナと同じくらいの爆のつく胸は濡れたタオルによって包まれていて弾力のよさをアピールするかのように綺麗な形を保っている。



 ルナ様は全身がピンク色状態で、俺から視線を外して「私の頭はどうかしている」と呟いている。


 銀色の髪は水に濡れて宝石のように輝きを発しており、戸惑う姿はちょっと不謹慎かもしれないが、とても綺麗だ。穢れを知らない純真無垢な乙女のような様子は、普段とのギャップと相まって俺を心を刺激する。


 セレネ様に至ってはそれこそ色気をふりまくりだ。


 彼女は3人とは違って興味津々な面持ちで俺の顔と体を凝視している。濡れたピンク色の髪からは水滴が滴り、少し緩めに巻いたタオルは今にも剥がれてしまいそう。


 特に形のいい巨乳が見え隠れして、視線が引き寄せられてしまいそうで俺は必死にセレネ様の体ではなく顔をみた。


 すると、彼女は微笑んで色っぽく息を吐く。


 やばい。


 超やばい。


 こんなこと、あってもいいのだろうか。


 リナはともかくとして、相手は公爵家の長女が二人に王女が一人。


 対して俺は平民である。


 今起きている状況に頭が追いついてないけど、そんな俺の気持ちなど気にする風もなく、セレネ様がまた口を開いた。


「殿方と一緒に風呂を浴びるのは初めてですけど、とても癒されますね」

「そ、そうですか!?」


 俺が慌てて聞くと、彼女は頬を緩めて語る。


「女の人が最も無防備になるのはお風呂の時です。日課を終えて疲れている上に裸ですから。でも、こんな弱い姿の私が強くて信頼できる相手と一緒にいられるのは、とても安心できます。リナさんはずっとこの安らぎを感じてきたんですね。すごく羨ましいです」


 セレネ様がリナに羨望の眼差しを向けると、リナが笑顔のまま頷いた。


「……」


 ルナ様はというと、黙り込んで俺をじっと見つめてくる。


 さっきまではすごくテンパっていたが、いきなり静かになったので、セレネ様がそんな彼女を見て口角を釣り上げた。


「ルナちゃんも、安心できるわよね」

「……」

「自分の気持ちに素直になったら?」

「……」


 だんだん調子がおかしくなるルナ様。

 

 目がくるくる回っていて上半身を震わせている。


 そんな彼女にセレネ様は止めをさすように耳打ちする。


「こそこそこそ……」


 なにを吹き込んだのかはわからんが、ルナ様は立ち上がった。

 

「ルナ様?」


 俺をずっと見つめるルナ様。


「カ……ナト……カナ……カ……」

「?」


「カナトお兄しゃま!!」


「ルナ様!?」


 彼女は急に俺の方に飛び込んだ。


 なので、ルナ様の体の感触がタオル一枚を通じて伝わってくる。


 俺は条件反射的にルナ様が傷を負わないように強く抱きしめたため、互いの上半身だけでなく、下半身もこずりあっておかしな刺激が身体中を駆け巡る。


「なんですか!?これは!?」

「カナトお兄しゃま」

「はい!?」

「私が危険な目にあったら守ってくれますか?」

「は、はい。守ってあげますよ」

「はあ……はあ……幸せ……」

「あの……」


 激しく息を吸って吐く彼女。


「ルナ様……私、我慢していたのに……お兄様を独り占めするなんて……いや!!」


 リナが参戦する。


「ちょ、ちょっとリナ!?危ないよ!」


 俺は片手でルナ様を抑えつつ空いている手を使いリナを無事に抱き止める。

 

 すると、


「ルナ殿……抜け駆けは許さないぞ。えいっ!」


 エレナ様まで飛び入り参戦である。


「いや!空いている手ないですよ!やめて!」


 俺の叫び虚しく、彼女はむしろ俺の背中に手を回しながら俺を抱きしめた。


「っ!」


 おかげさまでエレナ様の爆乳が俺の顔を包み込み極上の快楽を与える。


 さらに、


「私も混ぜてください〜」


 しまいにはセレネ様までもが加わった。


 セレネ様はエレナ様と反対方向から俺をせめてきた。

 

 俺の頭はセレネ様とエレナ様のマシュマロによって完全にロックされてしまう。


 もう無理……


 体がもたない……


 4人の体による物理攻撃、フェロモンによる化学攻撃、美貌による精神攻撃を食らった俺は


 倒れてしまった。


「「きゃあああ!!」」


 4人は悲鳴をあげる。


 俺たちは溺れてしまった。


 でも、そんなに水深が深いわけではないので、俺は上半身だけ起こして目を開ける。


 すると、


 目の前には


 セレネ様が四つん這いのポーズをしている。


 俺の方にお尻を突き出しているのだ。


 そして俺の隣には

 

 セレネ様のタオルが飄々と漂っている。


「ん……やっぱりやりすぎだったのかな……ごめんなさいねカナトさ……あ」

「……」



 俺とセレネ様の目があった。


 やがて彼女は


 自分が何も着てないことに気が付く。


「っ!!!!!!」

「せせせセレネ様……」

「私、王女でまた誰にも見せたことないのに……」

「で、でしょうね!」


「見ないで!!!!!」


「ヴア!」


 セレネ様が四つん這いのまま踵で俺を蹴り上げた。


 ピュアな反応。


 今までの大人びている彼女と比べたらギャップがありすぎて俺は一瞬ドキっとした。


 ピンク色まみれの俺の頭の中を必死に掻き消そうとした。


 すると、裸になったリナとエレナ様とルナ様の姿が見える。


 だんだん意識が朦朧としてきて、心地いい。


 勢いよく飛ばされた俺はお湯に浸かったまま気絶してしまった。


 やばい。


 こんな状態で彼女らと貴族院の議事堂に行っても大丈夫だろうか。


 その疑問だけが尾を引く。


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