第64話 結成
「何をやっていたのですか?」
「……」
床で正座させられた俺はルナ様の問いに答えることもできずに頭を俯かせる。
寝巻きを着たセレネ様は俺の枕を抱えたままベッドに座って知らないフリをした。
いや、全部見られたから今更すぎるでしょ。
そして、リナとエレナ様はというと、俺を殺す勢いで睨んでいる。
「セレネ王女殿下は王女様です。別にカナトさんが平民だからとかそういう問題ではなくて……もしさっきのようなことを他の貴族に見られたら大事になったしまいかねません」
ルナ様は王女であるセレネ様に対しても決して媚びることなくいつもの冷静な態度を貫き通している。
しかし、セレネ様は微動だにせず、むしろルナ様を挑発するように口を開く。
「ルナちゃん、ずっとそんな態度ばかりとっちゃうとカナトさんに嫌われちゃうよ」
「っ!!」
セレネ様から言われたルナ様は急に目を丸くして、悲しい表情で俺を見てきた。
セレネ様はそんな彼女の隙を見逃すわけがなく、気がつけば、ルナ様のすぐ近くに迫っており、色っぽく呟く。
「いっそのこと、貴族達に見せても全然いいと思うんだけどね」
「そそそ、そんなの許されません!」
「へえ?なんで?」
「……」
「嫉妬してるかしら?」
「……」
「別に隠さなくたっていいのに。カナトさんはとても頼りになる男だから」
言ってセレネ様は妖艶な表情で俺を横目で見ては、いきなり正座している俺の近くにやってきた。
「みんなが見ている前で私がカナトさんとあんなことやそんなことをすれば、認識が変わるんでしょうね。」
「「あんなことやそんなこと!?」」
ルナ様とリナとエレナ様の声が見事にハモった。
そしてリナとエレナ様が頬を膨らませて俺のいる位置へ行き、俺を立たせる。
それから、二人が巨大な自分らの胸に俺の頭を埋めて、セレネ様を警戒するように睨んできた。
「ん!!」
俺は息ができず唸り声をあげるが、二人は容赦がなかった。
そこへ、セレネ様が二人を嗜めるように言う。
「無駄ですよ。カナトさんは二人だけのものではありません。これからもっと多くの女性がヨダレを垂らしながら欲するに違いありませんから、私たちだけで固めておいた方が得策かと」
「「……」」
二人の乳が俺の耳を塞いているため、セレネ様の声は聞こえてないけど、二人は俺を掴んでいた手を離した。
窒息死するかと思った。
俺は深呼吸をしながら周りを見た。すると、俺のすぐそばにセレネ様がセクシーな微笑みを湛えて、リナとエレナ様は悔しそうに頬を膨らませていた。
そして、俺たち4人をちょっと離れたところから見ていたルナ様は
やるせない表情をしたまま足を動かし、
ゆっくりとした足取りで、俺のすぐ隣にやってきた。
「ルナ様?」
「……」
俺が彼女の名前を呼んでも何も答えずにただただ俺を上目遣いしてくるだけだった。
セレネ様は俺たちを見て大変満足したらしく、嬉しそうに言葉を発する。
「これでやっと結成しましたね。ふふ」
「結成?どういう意味ですか?」
俺が首を捻って訊ねるも、セレネ様は口を片手で抑え、妖艶な表情で笑んでは意味ありげに囁く。
「鈍感な男には教えてあげません〜」
X X X
ジェフの部屋
「ミアちゃん」
「はい。ジェフ様」
「僕はカナトという男に出会って本当に幸せだと思っているよ」
「私も同じです。カナトさんは、ジェフ様とアルベルト様の願いを叶えてくださる方ですから」
「ああ。僕の父が持っているものを全て奪い、母にひどいことをして死なせたパーシー家が滅びた」
「滅びました。イゼベルという小さな女の子を除けば」
「うん。でも、物足りない。パーシー家に加担した貴族らは全員潰して、新たな秩序を築くべきだよ」
「おっしゃる通りです。早く貴族になったリナさん達の姿が見てみたいですね」
朝早くからお茶を飲みながら談義をするジェフとミア。
ジェフは寂しい表情で明後日の方に視線をやりつつ小さな声で呟く。
「少なくとも、カナトと能力のある平民奴隷を認めない貴族より国家転覆を図るジェネシスの方がよっぽど正義の味方のように思えてならないんだよ」
「……確かに、ジェフ様には辛い過去がありますからそう思うのも無理からぬことです」
「ふふ、ミアちゃんがいなければ、僕は正気を保つことすらできなかったんだろうね」
ジェフはそう言って、ミアの頭を撫でてあげた。
いつもはジェフを殴るミアだが、今回に限っては、満たされた表情で猫ちゃんみたいにジェフの手を受け入れる。
「んにゃ……それにしても、カナトさんって鈍感ですよね」
「あははは。あれはね、ちょっと苦労するかも」
X X X
フィーベル家
結局俺は4人に数日後、貴族院の議会堂へ赴き、悪役貴族と対面すると伝えた。
そしたら、セレネ様とルナ様とエレナ様がついていくと言ってくれた。ケルツ様に言ったら二つ返事だった。
ケルツ様と話したり、病み上がりのエレナ様とリナと鍛錬したりしていたらあっという間に時間が経ち、夜となった。
「はあ……なんかルナ様とセレネ様に訓練しているところをずっと見られたから張り切ってしまったな」
汗まみれの俺が風呂場の入り口の前でため息をつく。
ルナ様は今日ここに泊まるらしいから、なんか余計緊張するんだよな。
だから今日は一人でゆっくり温泉に浸かり日頃の疲れを流そうではないか。
そう思って俺は風呂に入った。
湯気が立ち込めて夢幻的な雰囲気を醸し出す中、
「あら、カナトさん遅い〜早く体洗って入ってくださいね〜」
王女様の声が聞こえた。
俺がびっくりして温泉の方へ目を見遣れば、
そこには
セレネ様、リナ、エレナ様、ルナ様がタオルを巻いてお湯に浸かったまま俺を待っていた。
「……」
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