第63話 カナトに相応しい朝
数日後
俺たちファイブスターは学園に行く事なくしばし休むこととなった。
まだケルツ様と貴族院の議会堂へ行くには数日残っているところだ。
ジェフ様とミア様はご自分の家で療養するらしく、現在フィーベル家には俺、リナ、エレナ様、セレネ様が泊まっている。
今は朝。
「ん……」
開け放たれた窓からは心地の良い微風が花と草野の香りを運んで、俺の部屋を満たす。
加えて日差しは、照明代わりにここを明るく照らしており、朝であることを知らしめた。
ケルツ様はパーシー家の件でものすごく忙しいようだ。
それもそのはず。
ハルケギニア王国を支える公爵家が潰れたのだ。
そりゃ猫の手でも借りたいほど忙しいだろう。
だけど、ケルツ様は黙々と書類の仕事をしたり、一人で王宮へ赴いたりと、俺たちが注目を浴びないように色々配慮してくれた。
おかげさまで俺たちは静かにフィーベル家で休むことができている。
別に外へ行く気はない。
セントラル魔法学園から二週間の休みをもらったから、これは許される安息だ。
俺は目を瞑ったまま空気を吸った。
「いい空気だ……ん?」
なぜかとてもいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
何かが混ざった感じの香りのような感じだ。
嗅ぐだけでも頭が冴えてきて、血行が良くなる気がする。
血行……
俺は気持ちよく目を開けて周りを見渡す。
すると、そこには
「「……」」
リナとエレナ様が俺の両腕を自分らの爆のつく胸でロックしては深く眠っている。
「っ!!」
俺は開いた口が塞がらなかった。
だって、腕に全然感覚がなかったんだもん。
ってことは、ずっと前から俺の腕に抱きついていたということか。
二人の胸は俺の腕の形を覚えるかのように包み込んでいる。
どっちも寝巻きを着ているが胸がはだけておりその気になれば象牙色の二つのマシュマロを見ることができる。
「無防備すぎるだろこれは……」
俺が閉口しながら自分の腕を動かそうとしたら、二人は「ん!」と変な音を出しながらさらに力を入れてきた。
「抜け出せない……なっ!」
まるで俺が動くことなんか許さないぞと言わんばかりに、二人は俺に頭を擦り付けて、足を俺の股間に当てては、身震いする。
リナの濡羽色の髪とエレナ様の柔らかい金髪が俺の頬にふれ、名状し難いフェロモンの匂いが俺の体を包み込むように漂ってくる。
すると、
「ふふふ」
こんな俺の様子が笑う声が聞こえる。
「セレネ様……」
セレネ様はベッドの下(俺の足の方)からぴょこんと顔を出して目を細めて俺を見ていた。
「うふふ」
色っぽく笑うセレネ様は立ち上がりベッドに立っては俺を見下ろした。
「な、なんですか!?その服装は!?」
彼女は黒い刺繍が入ったピンク色のランジェリー姿をしていた。
つまり、下着だけしか着用してない。
「ちょっと暑くなったので、脱いじゃいました〜」
そう言って、彼女は俺の枕の横を指差した。
釣られた俺が視線を枕の横へ向けると、そこにはセレネ様の寝巻きが置いてあった。
「……まさか、ずっとここで寝てたんですか?」
「どうなんでしょうね〜」
「……」
俺が視線を外していると、彼女が俺の体の上に乗るような形で四つん這いしてくる。
「セレネ様!?これは一体……」
「カナトさん」
「は、はい」
「やっぱりあなたはとても強いんですね」
「……」
「まさしくカナトさんにふさわしい朝ですよ。これは」
「いや、俺は平民で……」
「あなたがそれをいうんですか?ずるいですね」
「そもそも、セレネ様って体は大丈夫ですか?あの件以来、ずっと寝ていらしゃったんでは!?」
俺が慌てて問うも、セレネ様はお構いなしに俺の頬をご自分の指で這わせる。
彼女のピンク色の髪が俺の鼻や唇をくすぐり、さっきとは違う強烈なフェロモンが俺の鼻腔を刺激した。
「大丈夫ですよ。赤ちゃんを孕めるほど私は元気です」
「っ!!!!」
「あら?ふふ、やはりカナトさんも男ですね」
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
相手は王女だ。
これはきっと罠だ。
きっと俺を試しているに違いない。
早くここから抜け出さなくては……
だが、両側からルナとエレナ様によって拘束されているがため、俺は身動きが取れずにいる。
さらに上にはセレネ様が……
これぞまさしく四面楚歌。
そう思っていた瞬間、
ドアの向こうから誰かがノックしてきた。
「カナトさん、ルナ様がお見舞いに参りました。大丈夫ですか?」
「は、はい!?!?!」
「カナトさんが「はい」と言ったので中へどうぞ」
いやいやいやいや
ハンナさんよ、俺は入っていいなんて言ったことないぞ。
やばい……
この光景を見られたら……
見られ……
見られた。
「ああ……」
「こ、ここここれは……」
「あ、あの……ルナ様、これはですね……」
果物がたくさん入ったカゴを落としたルナ様は目を丸くして、ポカンと口を開けた。
「破廉恥です!!!!!」
彼女は真っ赤になった顔を隠すこともなく大声で叫びながら俺たちの方へやってきた。
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