第62話 激励

 俺が小声で唱えるとハリーの上から白い煙と共に光る物質が降り注いだ。


「ん?なんだ?あれは?」


 ハリーが上を見て言ったら、そん物体はハリーに落ちる。


 すると、ハリーの服と皮膚が溶けてゆく。


 しかし、彼は鼻で俺を嘲笑いながら見下すように言葉を吐く。


「あはは!こんなので僕を殺せるとでも?強力なアンデッドの力を手に入れた僕の回復能力をなめてもらっては困るね……っ!」


 どうやら奴は気づいたらしい。


「な、なんだこれは!?時間が経てば経つほど僕の肌を……ああああ……」


 60度でも発火し、一度火が付いたら最大4000〜5000度の熱を発する物体。


 白リンである。


 一度皮膚に付着したら、白リンがなくなるまで最後まで燃え続けてしまう。


「熱い!!!あああ、水……水!!!!!」


 白リンまみれになったハリーが苦しみにもがきながら水を必死に探している。


 物理攻撃ではなく、化学攻撃を食らったから奴は相当戸惑っている様子である。


「苦しいいいいいい!!!!ああ……噴水……噴水!!!!」


 ハリーは隣にある派手な噴水に飛び込んだ。


「愚かな平民があ!!水さえあれば貴様の攻撃なんか効かないんだ!!もうすぐ殺してあげるから!!!あはは!」


 奴は噴水の下の水が溜まっているところに自分の体を浸からせる。

 

 確かに異世界の人にとっては妥当な判断だ。


 火やマグマの熱をなくすには水が最も効果的だから。


 だが、


 現代の化学兵器ならどうだろう。


 白リンと言う概念自体が存在しないこの世界では、ハリーの取った行動は


 



 最悪の結果をもたらす。




「ああああああああああああ!!!!!!熱い!!!!!!!」


 白リンは水と反応して、より熱を出す物質である。


 それに、白リンが放つ白い煙には五酸化二リンと言う成分が含まれており、人を死に至らしめる働きをする。


 幸い、向かい風が吹いているから俺たちに届くことはない。


 問題なのはハリーの行動。


 やつがこっちにやってこないように俺は噴水に向けた監視の視線を緩めない。


「ああああついいいいいい!!!!クッッソオオオオ!!!」


 彼はのたうち回りながら噴水で暴れまくる。

 

 しばらくしてハリーは急に空に飛び上がり、そのままものすごいスピードで去ってしまった。


 追うこともできるが、まず4人(ジェフ様、ミア様、エレナ様、セレネ様)のことが心配だ。

 

 なので俺が視線を倒れている4人の方へ向けると、リナがすでにヒールをかけていた。

 

「お兄様!」

「リナ」

 

 リナは俺を見て微笑んでくれた。

 

 それだけじゃない。


 リナから治療を受けている4人全部、俺を見て笑っている。


 やっぱり俺のとった選択は正しい。


 仲間の笑顔が見れて、俺は微かに口の端を上げた。


 今まで前世で使用が禁止されている兵器はなるべくここで使わないようにしていたが、もう考えが変わった。


 俺の仲間に手を出したら、ぶっ殺す。


 少し興奮気味に息を吐きながら、ハリーを思い出し怒りを募らせていると、ジェフ様が口を開いた。


「カナト、君はもっと認められるべきだ」

「……」


 俺が無言のままこの国を巣食う貴族のことを思い出して暗い表情をしているが、残りの4人が頷いてくれる。


 そこへ


「こっちです!早く!」


 ルナ様の声が遠くから聞こえてきた。


 なので視線を声がしたところに向けたらルナ様が騎士団を連れてやってきた。


 ルナ様は俺を見るなり、全力でかけてきた。


「カナトさん、大丈夫ですか?」

「……大丈夫です。しかし、ハリーは逃げました」 

「なるほど……とりあえずここを出ましょう!ここはまだアンデッドたちで溢れています」

「そうでしたね」


 ハリーと戦ったから、周りの雑魚アンデッドは目に入らなかったものの、今周辺を見渡せば、やせ細ったアンデッドたちがパーシー家の屋敷を壊している。

 

「とりあえず負傷を負っているセレネ様たちを外に連れ出してください。俺は残りのアンデッドを処分します」


 俺が答えると、ルナ様は真っ白なドレスの裾をぎゅっと握って返答をする。


「私も一緒にカナトさんについて行きます!」

「いや、服装とか大丈夫ですか?」

「そんなの関係ありません。私はカナトさんと一緒に戦います!」


「「……」」


 彼女の顔を見ると折れてくれそうにない。


 ちょっと気まずくなったので視線を外すと、いつしか5人が俺にジト目を向けていた。


 特にエレナ様とルナの表情に迫力があり、セレネ様は色っぽく俺とルナ様を交互に見つめる。

 

 結局、俺とルナ様と騎士団の人たちで、残りのアンデッドたちを始末することにした。


 ハリーと一戦交えた直後なので、一筋縄ではいかないだろうと思っていたが、残党は思い他、強くなかった。


 アンデッドは攻撃を受ければ回復するが、どうやら限界が存在するらしく、体の再生ができなくなるほど銃をぶっ放したり剣で切ったら生命活動が停止し、そのまま死んだ。


 パーシー家にいるアンデッドを全部処理した後、俺はフィーベル家の豪邸へ赴いた。


 後片付けは全部ルナ様がやってくれるらしい。


 ルナ様には色々助かりっぱなしだな。 


 いつかお礼をしなくちゃ。


 そんなことを考えていると、フィーベル家に到着した。


 主任門番が俺を歓迎したのち、早速下っ端の門番に耳打ちした。すると、下っ端門番は屋敷の奥に走ってゆく。


 しばし待っていたら、ケルツ様が走って俺の方にやってきた。


「カナト君!無事か!?」

「はい。俺は無事です」

「よかったな」


 どうやら俺のことが心配になったらしい。


 にしてもいつも冷静で余裕のあるケルツ様が走ってくるなんて、本当に意外だった。


 しかし、悪い気はしない。


 彼は息を整えながら、悲しい表情で俺の肩に手を置く。


「顔色がよくない。君の疲れが取れるように最上級のマッサージを用意しよう」

「……大丈夫です」

「まずは安静にしろ。それから何が起きたのか俺に聞かせてほしい」

「ケルツ様」

「ん?」

「もう懲り懲りでず。既得権益を守ろうとする貴族を今すぐぶっ飛ばしたいです。あいつらは俺の敵です。そして、俺の仲間の敵だ!」

「……そうか」

「はい」

 

 ケルツ様は腕組みして考える。

 

 しばらくしたら何か思いついたのか、目を見開いた彼は俺の瞳を見る。


「カナト君。一週間後に貴族院で会議がある。そこには君が先言ったような悪い貴族がうじゃうじゃいるんだ」

「……」

「君も参加しろ」

「お、俺がですか?」

「ふむ。でも、武力はダメだ。約束できるか」

「……はい」

「君は表舞台に立つべきだ。そこで君の存在を奴らに見せつけるがいい。現実を教えてやれ」

「……」

「大丈夫。俺がいる」

「……わかりました」

「とりあえず、ゆっくり休むといい」


 俺はケルツ様に激励されながら、屋敷の中へ入った。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る