第61話 今までとは違う武器

「装甲!!」

 

 俺は戦車の前面装甲を召喚した。


 ハリーはそんなのお構いなしと言わんばかりに黒い氷柱を召喚し、装甲に投擲する。


カーン!!


 凄まじい音と共に装甲に突き刺さる氷柱。

 

 前に決闘した時と比べものにならないほどの貫通力に俺は開いた口が塞がらなかった。


 完全に貫いてないものの、威力が前より数十倍増えている印象を受ける。


 だが、ハリーは俺をやれなかったことにひどく不満を抱いているようで、もっと大きめの黒い氷柱を召喚した。


 すると、


「ハリーさん!もういい加減にしてください!」


 セレネ様はいつしか光の弓を構えてハリーに向かって狙いを定める。


「セレネ王女殿下……どうして僕を狙うんですか?」

「……ジェネシスの人を利用してお姉様の暗殺に加担しただけでなく、平民や奴隷に対して何てひどいことを……」

「王女殿下こそ、カナトというろくでなしと連んで……王家の名に泥を塗りつけるようなものですよ」

「カナトさんは、あなたが思うようなろくでなしじゃありません!!」

「なにを馬鹿げたことを」


 ハリーが眉間に皺を寄せていうも、セレネ様は微動だにせず、


「あなたのような人間が1億人いたとしても、カナトさんの足元にも及びません」

「な、なんだと!?僕が……あの平民に劣るとおっしゃっているのですか?」

「はい。強さといい、人間としての器といい、なに一つとってもカナトさんはあなたより優れています。特に……」

「……」


もですね」


「ああああああああ!!!!!認めない!!」


 ハリーはキチガイのように叫んでは、セレネ様に大きな氷柱を全力で投げかける。


 俺は再び戦車の装甲を召喚し、それを防いだ。


「平民があああ!僕の強さを思いしれ!!はああああ!!!!」

「なっ!」


 ハリーの放った氷柱が装甲を貫いた。


「馬鹿な!!」


 しまった。


 このままだとセレネ様が危ない。


 だが、


 間に合わない。


 俺が絶望という感情を感じていたら、


 魔力によってできた防御膜が姿を現し、セレネ様を包み込む。


 装甲によって運動エネルギーが減少した黒い氷柱が防御膜に触れる。


「っ!!ミアちゃん!もっと僕に強化魔法を……」

「ジェフ様!もう限界です!あの氷柱、ものすごい勢いで防御膜の魔力を吸い込んでいます!」

「ん……もう限界……」


 二人は氷柱を弾き返すことには成功したが、魔力の使いすぎによって倒れてしまった。


「ジェフ様!ミア様!」


 俺が二人の名前を叫ぶと、


 エレナ様が怒りを露わにして、剣を抜き、早速ハリーへと突進する。


「貴様はハルケギニア王国の恥だ!その罪、死をもって償え!」

「エレナ、君は美しい。でも、僕のものにならなければ、なんの意味もない!」

「ふざけたことを言うな!」


 エレナ様の剣戟には目を見張るものがあった。


 俺と練習した時は途中で変な声を出して隙を見せることが多いが、今回のエレナ様の剣捌きは完璧と言ってもいい。

 

 そこへ、無数の矢がハリーを狙う。


 そう。


 セレネ様が放った光の矢である。


 2:1の対決。


 俺たちの方が有利な状況であるかのように見える。


 ハリーは攻撃らしい攻撃ができずに、ただただ避けている。


 エレナ様の剣をギリギリ避けているが、セレネ様が放った光の矢はハリーの皮膚に傷をつけた。


 三人の戦闘と倒れているジェフ様とミア様を見ていると、なぜか心が熱くなる。


 だけど、俺の体はなかなか動いてくれない。


「ハリー!!観念しろ!」

「ハリーさん、無駄な悪あがきはやめてください!」


 続くエレナ様とセレネ様の攻撃。


 そんな二人の攻撃に対してずっと防御に徹していたハリーは


 口角を吊り上げては



「もうおしまい」

「っ!!あああっ!」


 ハリーはエレナ様を蹴り上げた。

 

 飛ばされたエレナ様は悲鳴をあげて、そのままセレネ様とぶつかる。


「きゃああ!」


「エレナ様!セレネ様!」 


 倒れた二人を見て、俺は深刻な表情をした。


「お兄様!」

「リナ……」

「どうしてなにもしないんですか!?」

「それは……」

 

 問うてくるリナ。


 俺は答えられなかった。


 ずっと少年がハリーに発した言葉が耳に残っていたから。


 俺が掲げる正義より、あの少年とジェネシスが掲げる正義の方が正しいのではないかと。


 どうして俺はハリーのような貴族が蔓延るこのハルケギニア王国で頑張ろうとしてしたんだろう。


 いっそのこと、前みたいにこっそりつよつよモンスターを狩り続ける方がマシな気がしてならない。


 それとも俺もペルセポネに……


「お兄様!!!」


 しかし、そんなあらぬ考えを吹き飛ばしてくれたのは、リナの潤んだ瞳だった。


 とても切なくやるせない表情の彼女を見ていると、心が張り裂けそうに痛い。


 俺は周りを見回した。


 ジェフ様とミア様はいまだに回復してないらしく、横になった状態で息切れしており、エレナ様とセレネ様はうめき声をあげていた。


「……」


 そうだ。

 

 俺には仲間がいる。


 ジェフ様いつもイキイキしていて、俺と踊りたがる男だが、面倒見が良くて俺をよく見てくれる。


 だが、伯爵家の長男であるにもかかわらず、上流貴族社会に認められず心の闇を抱えて生きている。


 ミア様は少し不思議なところがあるが、リナの面倒を見てくれるありがたい存在だ。


 彼女もジェフ様と同じ心の闇を抱えているように見える。

 

 エレナ様は、戦争や魔物退治にも積極的に参加して戦姫とも言われている。しかし、あまりにも優秀なため警戒され社会の不条理を感じている(最近はよくなりつつあるが)。


 セレネ様は一見なんでも持っているように見える(美貌、権力、男)。


 でも、暗殺される危機にさらされたり、婚約者が度し難いクズだったりと、辛い経験をたくさんしている。


 つまり、


 みんな心の病みがあると言うことだ。


 にもかかわらず、俺の掲げている正義を実現させるために協力してくれる。


 そのことを考えると、


 心が燃えたぎるほど熱い。


 人の言葉に振り回されてはならない。


 ケルツ様と出会う前までは俺は何も分からずに生きていた。 


 だが、今は多くの事を知っている。


 俺は俺の正義を貫き通す。


 ゆえに、俺は俺の仲間を大切にする。


 だから


 


 俺の仲間を傷つける奴は


 許さない。



「ハリー……お前だけは絶対許さない」

「ふん〜平民風情になにができる?」

「……」


 これまでの俺は物理攻撃に重きを置いて現代兵器を召喚してきたはずだが、


 もう遠慮する必要はないだろう。


 砲弾やミサイルをいくらぶっ放してもこいつはアンデットの力によってすぐ回復することは決まっている。


 だとしたら、



 俺は誰にも聞こえない小声で唱える。



「……弾」 





追記



核爆弾ではありません





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る