第59話 アンデッドハリーの喚き
「しゅ、しゅみません……」
「国王陛下に直接報告します。容赦はしません」
ルナ様はコメカミに手を抑えて、片手で風でできた剣を土下座しているリオのやつに当てている。
ルナ様は凄かった。
リオが無理やりレストランの主に言いがかりをつけて金を踏んだくるという犯行が明らかになるタイミングを狙い、彼の取り巻きと彼を風の魔法を使って制圧した。
もちろん俺の手助けは不要であった。
やがて王宮直属の騎士たちがやってきて彼らを逮捕していた。
なぜか彼女はすごく怒っているようであった。
レストランを出た俺たちは、街中を歩いている。
「……」
「あの、ルナ様?大丈夫ですか?なんか怒ってますけど」
「……」
彼女はなんだかふてくされていて満足してない様子だった。
「せっかくのデートだったのに……」
ルナ様は小声でそう呟き、ため息をつく。
今日はルナ様の色んな姿を見ることができた。
最初に彼女を見た時は、すごく大人しくて仕事のできる女性といった印象だった。
日本で言うと、バリバリ働くOLかな?
でも、今のルナ様はどちらかというと、一人の女の子って感じだ。
「ルナ様」
「ん?」
「格好良かったですよ」
「……こんなの、いつもやっていることです」
「そういうところが魅力的です。きっと亡きお兄さんもルナ様のことを誇らしく思っているはずです!」
「っ!」
「まだ時間はたくさんありますし、他のところも見て周りましょうか」
「……うん」
最初こそ、不満げだったのだが、今の彼女は心の安らぎを得たかのように、自分の胸に手を添えて俺の横顔をチラチラと見る。
イレギュラなことは起きても、この町は平穏な賑やかさを保っている。
きっとハリーやベルンのような連中がいなくなるか、権力を失ったら、この国はもっとマシになるのではなかろうか。
そんなことを考えていると、急に誰かが大声で叫んできた。
「パーシー家がアンデッドたちに襲われているぞ!!!!」
「「ん!?」」
誰かが発したそのセリフにみんなが目を丸くした。
俺とルナ様は顔を見合わせた。
俺たちはハリーの家に向かうことにした。
X X X
パーシー家
「な、なにこれ……」
「アンデットがこんなに……」
パーシー家の邸宅はカオスと化していた。
数えきれないほどのアンデットたちが家を壊したり、火をつけたり、使用人たちを襲ったりしている。
現在、王宮騎士団や兵はまだきてないから、この邸宅の入り口の前にいるのは俺たち二人だけだ。
しばし佇んでいると、誰かが俺たち目掛けて走ってきた。
アンデッドかと思ったが、小さな体の女の子だ。
灰色の髪をした彼女は涙ぐみながら、素足でやってくる。
「はあ……はあ……はあ……」
彼女は激しく息切れしていて、俺たちの前で止まっては、涙を流した。
高級ドレスを身に纏っていて、見た目もハリーに似ていることから、おそらく妹ではなかろうか。
やつの妹なんか正直どうでもいい。
パーシー家自体が俺は嫌いだ。
だが、
彼女の顔をみると、やっぱり事情くらいは聞いた方が良かろうと思ってしまう。
「君、両親は?」
俺は問うと彼女は震える声で言う。
「アンデッドに殺された……」
「……」
「私とアンデッドになったお兄様が見ている前で、お父様とお母様が死んじゃった。殺された。小さな少年に……」
そういって、少女が俺の方へ飛び込んで、背中を回しては泣き崩れる。
「うわあああ!!!」
号泣するこの子は俺の服の裾をぎゅっと握り込んで泣き喚く。
俺はこの子の頭をなでなでして慰めてあげた。
確かにこの子はハリーの妹だ。知らないふりもできるのだが、やっぱり放っておくことなどできない。
「ルナ様」
「はい」
「俺、様子見てきます。この子をお願いします」
「一人だと危ないですよ!もちろん、カナトさんはとても強いんですが、アンデットが絡んでいます。あなたは絶対死んじゃいや!!」
「ルナ様……」
彼女はとても悲しい表情で俺を見つめてきた。
エメラルド色の潤んだ瞳には俺の歪んだ像が揺れ動いている。
その瞬間、
「そうだな。カナトが死ぬのはあり得ない」
「あははは〜カナトがいくところには僕もいくよ」
「私もお供します!」
「お兄様、私がヒールいっぱいかけてあげますからね!」
ファイブスターのメンバ全員が集合した。
「みんな……どうして」
俺が驚いて聞くも、4人は笑うだけでなにもいってくれない。
でも、今はそんなことはどうでもいい。とりあえず中を調べるのが大事だ。せっかく四人がきてくれたんだ。本当にありがたい人たちであり、俺の心の寄る方だ。
「はあ……はあ……みんな!!待って!!」
俺が感動の眼差しを4人に向けていたら、おなじみのセレネ様の声も聞こえてきた。
ピンク色の髪を揺らして息切れをするセレネ様。
「セレネ様!ここは危ないです!早く帰ってください!」
「はあ……はあ……それはできません」
「なんでですか?」
「私はファイブスターに入りたいんですよ。だからちゃんと行動で示さないと」
「……」
「私もお供します。私、体力はないんですが、魔法には自信あるから!」
と、セレネ様が握り拳を作り、ドヤ顔を作る。
すると
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
邸宅の方から悲鳴が聞こえた。
早く判断しないと。
「ルナ様、この子をお願いします」
「……わかりました。王宮へ赴いて騎士団の方を呼んできます」
「助かります」
ルナ様は俺の要求に従ってくれた。
残されたのは6人。
「入りましょうか」
俺の問いに全員が頷いた。
俺たちは邸宅の近くにある広場へとやってきた。
そこには、
「グオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
アンデッドハリーが涙を流しながら、叫んでいた。
そんな彼をこの前の決闘で見た少年が笑いながら見ている。
「あははは!!!!俺の両親も貴族に殺されたんだけど、どう?同じ気持ちを味わった気分は」
「グアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「やっぱり、相手にも同じ痛みを味わってもらった方が一番手っ取り早い。これまで貴族たちによってあまりにも多くの奴隷が血を流した。だから、貴族も血を流さないとフェアじゃない」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
アンデッドハリーは、少年の話を聞こうとせず
すでに死んだ自分の両親の姿を見て、悲しく泣き喚くだけだった。
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