第60話 覚醒するハリー

 アンデットになったハリーは真っ黒な涙を流しながら暴れている。


 だけど、鎖に繋がっていたため、少年がそれに魔力を込めて引っ張りながら彼の動きを止めた。


「奴隷は奴隷らしくご主人のいうことを聞かないとだろ?」

「ごああああああ!」

「なに悲しんでんだ。キモい。お前の父が営むサトウキビ畑でも似たようなことは数えきれないほど起きている」

「がああああああ!!」

「なのに、どこにも存在しないから」

「あああああああああああああ!!」

「このクズが!!俺の話が聞けないのかよ!!」


 少年は急に目を大きく開けて激しく怒鳴り出し、鞭を取り出して打ち始める。


 ハリーの真っ黒な皮膚を抉り取るように、鞭は鋭い音を出す。


「うっ!あっ!あえっ!」


「あはははは!!!!楽しい!!!!この快楽、楽しさ、幸せ、ぜひ他の奴隷や平民にも味わわせてやりたいな!!!!あははは!!あ、カナト兄、きたんだね、俺が鞭を貸してあげるから、一緒に?」

「……」

 

 俺は答えることもできずに、唾を飲み込んだまま少年を見つめた。


「優しんだね。でもさ、カナト兄、優しいだけじゃ世界は救えいない。世界を変えるためには、が必要だよ。奴らよりもっと下劣で卑怯で最悪で陰湿で卑怯な人間にならないといけない」

「……」

「道徳とか常識とか人情とか、こいつらには無意味だよ。目には目。やられたら100倍やり返す。泣き寝入りするのはもういや。俺たちの我慢が奴らの糧となって、より奴らが幅を利かせることに繋がるよ。でもそんなのもう許さない。貴族と王族の大切なものを全部奪ってやる」


 彼の言葉は後味の悪さを残した。


 お前の行動は間違っている。いいから自分の罪を悔い改めなさい。こんなの許されないことだ。


 そんな常識道徳の代弁者が言いそうなことは言えなかった。


 悪が悲劇を産む。


 転生した前の世界でも、こういうことがきっかけで、革命が起きたり、内戦や戦争が勃発して国が滅びの道へ進むことはよくあることだ。


 しかし、これは直接経験するとは……


 俺が悔しそうに唇を噛み締めていると、少年が優しい表情を作り、鞭を握っている手を止め、語りかける。


「俺はカナト兄の味方だよ。もし、カナト兄の仲間たちが、俺たちのユートピアを築くことに協力してくれたら、ペルセポネ様が褒美を与えるだろうね」

 

 俺を懐柔させようとしやがる。


「俺は……」


 

「グアアアアアアアアア!!」


 俺が苦し紛れに言葉を吐こうとしたら、急にアンデットハリーが雄叫びを上げる。


 さっきまでの悲しみに満ちた声じゃなくて、どちらかというと、勇敢なドラゴンに似ている気がする。


「みんな!上を見ろ!」


 エレナ様に言われ、見上げれば雲がだんだんハリーを中心に黒くなり、降りてくる。


「うあああああああああ!!!」


 すると、その雲はハリーを包み込んだ。


「「っ!」」

 

 俺たちは目をカッと見開き、ハリーの変化を見つめる。


「お兄様……怖い……」

「カナトさん……」


 リナとセレネ様が俺の方に体を寄せる。ミア様に至っては、ジェフ様の後ろに隠れて、彼はミア様を庇う。


 空中に浮かんでいる少年はというと当惑した様子である。


「な、なに!?」

 

 やがて真っ暗な雲が消えてハリーの姿が現れた。


「元に戻った!?」

 

 といった俺は、口をポカンと開けた。


 それもそのはず。


 ハリーは黒い肌ではなく、アンデットにされる前の人間の姿をしているから。


 しかし、


 彼の周辺に紫色の電気が走っている。


 まるで、本性を表した時のペルセポネを連想させるほどの威厳だ。


 彼は当惑している少年を見て、口を開く。


「今まで僕を奴隷扱いして、僕の家族をも殺して……」

「……」

「さっき君は自分だけは例外だなんてルールはどこにも存在しないとかいったね?」

「それがどうした」


。君たちは貴族の支配を受けるために生まれた動物。よって親を殺されようがそれは貴族の過ちではない。全部悪いのは君たちだよ」

「なにふざけたことを……っ!!」


 ハリーは空を飛び、自分の手で少年のお腹を貫通させる。


 少年もアンデットなので、血は出ないが、黒い液体みたいなものが滴れ落ちる。


「ははは!俺はアンデット……こんな物理攻撃だけだと簡単には倒れ……あっ!」

「どうかね」


 ハリーの手が急に黒くなり、少年を吸い込み始める。


「これは……一体……」

「貴族に歯向かった罰だよ」

「ああ!離せ!!」


 少年の黒い成分がだんだんハリーの手によって吸収される。


「あああ……あああ……」

「ふふ、アンデットの力は本当に便利だね」


 やがてほとんどの黒い成分を吸われた少年は、ありったけの力を振り絞りハリーへ叫ぶ。


「俺がここで死んだとしても、呪ってやる……俺の家族とお姉ちゃんを殺したお前の家と貴族らを、呪い殺す!!!!」

「奴隷の叫びなど、取るに足らない」



「あああああああ!!!!!」



 少年は断末魔の声をあげて、干物のようにあえなく地面に落ちた。


 俺たち全員が衝撃を受けている中、


 ハリーが俺を睨んでくる。


 そして顔を歪ませては


「貴様は一生貴族になんかなれない!!!魔法を使える平民奴隷は全部殺す!!」


 そういって、俺の方へ飛んでくる。

 

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