第54話 躾
ライデンにあるジェネシスの本拠地
審判の部屋
「クッソ!離せ!この僕を縛って許されるとでも思うか!?」
真っ暗な部屋に真っ暗な皮膚を持つアンデッドハリーの肢体にはとても丈夫な鎖が繋がっている。
その無様な姿を1200号が玉座みたいな椅子に座って、見つめていた。
「あははは!!!!お前の父が営むサトウキビ畑で酷使されていた俺に無様な姿を晒して……やっぱり生きてみるものだね」
「サトウキビ畑?」
「うん。あそこで俺の姉ちゃんは監督役の貴族たちにひどいことをされて死んでしまったけど……お前は知らないんだろうね」
1200号は握り拳を作り、怒りを隠すことなくハリーに向ける。
1200号の話を聞いたハリーは暴れることをせず突然うつろな目をしてほぼ無表情でいう。
「そんなの知らないに決まってるだろ?価値のない動物一匹が死んだんだ。僕とは無関係ね」
「……」
1200号は震え上がった。
「お前はペルセポネ様の公平なる裁きを受けることになるだろう……」
体をブルブル震えさえる1200号は真っ暗な水晶をハリーに投げかける。
すると、真っ暗な水晶は紫色の光を発し、ハリーを包んだ。
やがて水晶はパーシー商会が管理しているサトウキビ畑を映し出す。
まるで幻灯機によって映し出される巨大な写真のような像は動き出しながら音を出す。
『豚よりも利用価値のないクッソ奴隷が!もっと早く働け!!』
『ああ!!許してください!!』
『許しを乞う暇があれば、もっと体を動かせ!!』
『あっ!痛い!』
鞭で奴隷たちを打ちまくる貴族。
やられる奴隷たちを見ながら他の奴隷たちが恐怖を感じながら作業スピードを上げていく。
『うっへへへ!!最初からそうすればいいだろ!このくそ家畜どもがああ!!!』
貴族はそう大声で叫びつつ、周辺を見渡した。
すると、一人か弱い綺麗な少女が目に入る。
貴族はその少女を見て口角を吊り上げた。
『おい、1199号!』
『は、はい』
『ちょっとこっちこい』
『……』
『なに突っ立ってる!?俺が来いって言っただろ!!』
『は、はい……』
か弱い少女は貴族のところへと辿々しい歩き方でやってくる。
貴族は彼女の肩を触りながら嫌らしい視線を送っては、
『お前、今日は働かなくていい。俺の部屋へ行こう』
『……』
『俺の部屋に来い』
『……』
『クソあまが!!耳壊れてんのか!?』
貴族は叫んで少女のひっペタを叩いて無理やり連れて行く。
その光景を見る像の中の1200号は泣いていた。
それを見てハリーが面白そうに言う。
「なんだ。お前の姉か。だからなんだって言うんだ。むしろ貴族に選ばれたわけだから喜ぶべきだろ?ぷっ!!あははは!!」
アンデッドハリーは破顔一笑。
「あははははははは!!!!!あいつ、奴隷への扱い方がうまいね!はははは!!」
「……」
「あはははははは!!!!」
「……」
「はははははは!!!」
「……」
笑い続けるハリー。
その瞬間
動く像が形を変え始める。
『今日はハリーが大好きな最上級水牛を使ったステーキだわ』
『今日はハリーの誕生日だからね。だからお父さん頑張って水牛を手に入れたんだ』
『お兄さん、お誕生日おめでとう』
幼い頃のハリーの誕生日を祝ってくれる家族たち。
『お父様、お母様、イゼベル……ありがとう』
ハリーは涙ぐみながら3人の顔をみる。
3人はとても幸せそうな顔だった。
『あはは、冷めないうちに食べてね』
『そうよ。早く水牛ステーキを楽しみましょう』
『お兄さん、早く食べて』
『う、うん!』
ハリーは微笑みながらフォークで水牛のステーキを刺してそれを自分の口の中に入れた。
もぐもぐ
もぐもぐもぐ
アンデッドハリーはその光景を見て喜ぶ。
「あ、懐かしいな。今もみんな優しいけど」
アンデッドハリーは微笑む。
ずっとこの幸せな時が続いて欲しい。
『あれ?なんか味がしない?』
そう幼いハリーが呟いた。
すると、
「あ、ああああ……あああああああ!!!!!なんだこれ!?」
アンデッドハリーが悲鳴を上げる。
ハリーの両親と妹が血まみれになって倒れている。
息はしておらず、すでに死んでいるようであった。
幼いハリーは無表情で肉を食べ続ける。
すると、ステーキが置いてあるテーブルに傷だらけの奴隷の死体が落ちた。
数秒経つと、いつしか蘇り綺麗になったハリーの家族3人が食事をしようとしている。
『あら?ハリー、先に食べちゃっているのね?』
『うん!とても美味しい!!』
『本当にハリーは水牛が大好きだな!』
『お兄さん、いくら誕生日だからといって行儀悪い』
奴隷の死体があるにも関わらず、4人は実に幸せそうに食事をする。
和気藹々とした雰囲気がしばし流れていると、また幼いハリーが言う。
『あれ?味がしない?』
すると、また
「ああああ!!!!!!!!!!!!」
血まみれのまま倒れた家族3人。
そして今度は奴隷の肢体2体が落ちてきた。
しばしたつと、また家族は蘇り、幼いハリーは言う。
『美味しいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!』
「クッソ!!!!なんで僕にこんなことを見せるんだよ!!!!」
そう叫んだアンデッドハリーは目を瞑る。
「なに?見えるんだと!?」
目を瞑っても鮮明に映るパーシー家の食事場面。
そして増えていく奴隷の肢体。
殺される家族たち。
蘇る家族たち。
美味しそうに水牛のステーキを食べるハリー。
「ああああ!!!!僕の家族を殺すな!!!!」
ハリーがそう叫ぶと今度は大量の奴隷の死体が落ちてきた。
数えきれないほどの死体。
今回のハリーの家族はすぐには死なずに笑顔のまま食事を楽しんでいる。だけど、死体があまりにも多いから視界が遮られ、幼いハリーは家族をみることができない。
「そうか……奴隷の死体が多ければ多いほど僕の家族は安全なんだ。だったらもっと奴隷を殺してテーブルに持ってこい!!」
アンデッドハリーの言葉に呼応するようにテーブルには奴隷の死体がまた多量に落ちてきて山となった。
『あはあはあは!!やっぱり美味しい!!あはははははは!!!!!』
『そうだよね?お父さん頑張ったから。うへへへへへへへ!!!!!』
『おほほほほほほほほほほ!!!!お母さんはハリーを愛しているのよ!!』
『3人ともなにその気持ち悪い笑い方は?ふっ』
彼ら彼女らが笑っていると、
変化が起きた。
死体たちが急に動き出し、合体して、一つの巨大な塊となる。
まるで巨大なモンスターを彷彿とさせるその塊は、口を大きく開けた。
そして、4人を全部パクッと飲み込んでしまった。
「お父様!!!お母様!!!イゼベル!!!」
とハリーが叫ぶと
「「あああああ!!!!!」」
四人の悲鳴が聞こえてくる。
「クッソ!!僕が助けに行くから!!」
そう言って意気込むも、鎖が邪魔で前に進めない。
「この!この!あああ!!なんで解けないんだよ!!」
暴れるアンデッドハリー、鎖はだんだん彼の手足を強く締め付けて行く。
「おい、クッソ奴隷が!!早く解け!!」
「……」
「僕の話が聞こえないのか!?奴隷の分際で!!早く解け!!」
「「あああああ!!!」」
「おい奴隷!!」
アンデッドハリーは1200号を睨みつけては、
「僕はなあああああああんにも悪いことしてないのに、なんでこんなことするんだよ!!!」
そう抗議するハリーに死体の塊がやってきた。
そして大きく口を開けては、
アンデッドハリーをも飲み込んでしまった。
「ペルセポネ様の公平な裁きを受けろ」
1200号は怒りを抑えつつ座ったまま、この物々しい光景を静観する。
悲鳴が鳴り響く審判の部屋。
数時間が経った。
死体の塊は咀嚼活動を止めて、アンデッドハリーを吐き出した。
得体の知れない液体まみれになったアンデッドハリーは1200号を見ながら口を開く。
「がああああ……があああああああ……」
「やっと躾が終わったみたいだな」
1200号は立ち上がり丈夫そうな首輪をアンデッドハリーにつける。
「さ、初めての共同作業だよ」
「がああああ……」
「お前の家を潰しに行こうね」
「があああああ……」
アンデッドハリーは1200号の言葉に従うように首を縦に振る。
「さ、ここから出よう」
と言って1200号が後ろを振り向いて歩き出す。
すると、アンデッドハリーは1200号の後ろを見て手を上げる。
それから人差し指に魔力をたっぷり込めては密度の高い紫色の氷柱を召喚させた。
殺意に満ちた面持ち。
だが、1200号が一瞬振り向く。
アンデッドハリーは大いに遅れて
早速氷柱を消して歩き始める。
「まだ躾が足りないかな?まあ、これからいっぱいするけど」
ハリーは誰にも聞こえないような小声でボソッと漏らした。
「ドレイ……ゴロスウ……」
追記
カクコンが始まりました!!
「特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった」と「キモデブの竿役に転生した俺は、寝取ることはせず、体を鍛える。すると、なぜかヒロインたちが寄ってくるんだけど……」もよろしくお願いします!!
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