第53話 媚薬の内幕


エレナandリナside


ケルツの執務室


 現在ケルツの執務室には5人いる。


 ケルツ、ハンナ、エレナ、リナ、そしてマッドサイエンティストのような謎の薬剤師まで。

 

「エレナ、リナ、調子はどうかね?」


 ハリーとベルンから媚薬を飲まされたことで心配になったケルツ様は毎晩二人の様子を確認するようになった。


 しかし、エレナは非常に怒っている顔であった。


「ど、どうした?」

「父上……」

「こんなに怒るエレナは初めて見るな……しかもリナまで」


 これまで平静を保っていたケルツが急に冷や汗をかき始める。

 

 エレナは自分の感情を包み隠すことなく顔に出すが、リナは必死に抑えているように見える。だけど、視線一つで虫なんか軽く殺せるほどのヤンデレオーラを全面に出していた。


 エレナは薬剤師の方を見て喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。


 その代わりに


「後で話をしましょう。リナと一緒に」

「お、おお……そそそ、そうしよう」


 ケルツは震える声で答えつつ、マッドサイエンティストのような薬剤師の方を一瞥したのち、再び口を開く。


「その様子だと二人とも問題はなさそうなだ。なにせ、この大陸で最も腕の効く薬剤師に頼んだからな」


 マッドサイエンティストのような薬剤師はケルツに褒められたことが嬉しいのか、急に鼻息を荒げてガッツポーズを取りながら言う。


「当然、この天才薬剤師であるこのアベルが作った解毒剤ですからnuあ〜魔族が生息している地でしか取れない媚薬だとしても、この薬剤師である僕に手にかかればお茶の子さいさいってわけduえす〜」


 あまりにもイキリすぎているがためにケルツ様がツッコミを入れてくる。


「そんなに簡単ならもっと安くしてくれても良かろう」


「そおおおおおれはだめdeす〜僕がどれだけの試行錯誤を経て副作用のない解毒剤を作ったか……最も効果が強いと言われている魔の媚薬をも無効化させる解毒剤ですyo〜このアベルじゃないと一生作れna〜い」


「あはは。わかってるって。そう興奮するな」


「当然エレナお嬢様もきゃわいいお嬢ちゃんもなんともなかったんですyoね〜あったとしてもちょっとした熱と立ちくらみですyo〜あはは!別に褒めなくてもいいでいいでしゅよ〜だって、僕は超天才だから〜」


 アベルという薬剤師は急にふんぞり返りながらエレナとリナに問うてくる。


 すると、早速リナが口を開いた。


「はい。お陰様であの二人から薬を飲まされても何も感じませんでした。バレないように演技するのがちょっと大変でしたけど……」

「……リナはすごかった。もし、リナの迫真の演技がなかったらバレたかもしれない。私はそんなの苦手だから……」


 リナとエレナがこの前の出来事を思い出して若干恥ずかしそうにしていると、メイドであるハンナが二人を疑り深く見つめてくる。


 その視線に早速気づいてエレナがはてなと小首を傾げて問うてきた。


「ハンナ、どうした?」

「なんだか妹の話と違うような……」

「妹?ミアか?」

「はい。ミアの話だと、エレナ様とリナさんは、カナト様見たとき急に顔を赤らめて息を切らしていたとのことですが」




「「っ!!!!!」」




 エレナとリナは急に下半身を痙攣させてソワソワしている。


 その様子を見てハンナは密かに口角を吊り上げる。


「お二方とも、どうかされましたか?」


「わわわ……私は別にお兄様に対して何も感じて……ませんから」

「そそ、そうだ!私はカナトを見て何も……何も……うう……」


 二人がとても戸惑っていると、素早く彼女らの気持ちを察したアベルという薬剤師が二人に近づいた。


!?!?!?」


 頭を抱えてるアベルは急に何やら呟きだす。


「嘘……これは嘘だ……」

 

 絶望に打ちひしがれるアベルにリナがフォローを入れる。


「い、いいえ。本当にあの二人に対しては何も感じませんでしたから!先生がお作りになった解毒剤を予め飲んだおかげで私たちは事なきを得ました!」

「そ、そうだ。誇りに思ってもいいぞ。アベル殿の解毒剤は抜群だった!」

「でも、カナトという男に対しては効いてなかったですよね」


「そそそそ、それは……」

「……」


 さっきまでイキリまくった様子が嘘のように、彼は涙ぐんでいる。


「一度も失敗したことのない僕が……僕が……」


 そんな彼を慰めようとケルツがアベルという薬剤師の肩を優しく摩ってくる。


「そう落ち込むな。君はこの大陸で最も優秀な薬剤師だ……うん……ん?」


 ケルツ様は何か閃いたのか、目を丸くしてそれとなく問う。


「ところでアベル、ひとつ聞いていいかな?」

「は、はい……」

「そのカナトという男についてだが」

「カナトって男は、あの犯罪者二人の仲間とかじゃないですか?」

「とんでもない。カナトはとてもいい男だ。この俺を唸らせるほどの優れた生意気なやつだぞ。おそらくエレナとリナもカナトを素敵な人だと思うだろう」

「あ、なるほど」

「何か思いついたか」

 

 ケルツが訊ねると、アベルという薬剤師は水を得た魚のようにまたイキリ出す。


「実は〜このである僕が作った解毒剤には例外がありますyo〜」

「言ってくれたまえ」


「ちょ、ちょっと……父上……これ以上言わせない方がいいかと」

「そそそそうですよ……」


 急に冷や汗をダラダラとかくエレナとリナ。


 アベルはそんな二人を軽くスルーして口を開く。


「自分の全てを見せられるほど信頼のおける男性なら解毒剤は効きませんし、その男性の子を妊娠したいと思うほどの強い気持ちがあっても効きませんne〜まあ、効かないという表現より、媚薬の効果がてえええんさああいである僕の作った解毒剤にさえも勝ってしまうんですyo〜」




「「……」」


 エレナとリナは真っ赤になった顔を隠すことも忘れて、全身をブルブル震わせる。


 ケルツはというと、いつしかハンナの側に来ており、お互い顔を見合わせる。


 二人はほくそ笑んだ。


 その瞬間


「ケルツ様、カナトです。話したいことがありますが、大丈夫ですか?」


 ドアの向こうからカナトがノックしてから断りを入れてきた。


「入ってもいいぞ」

「はい」


 と、カナトが執務室の中に入ると、アベルという薬剤師が目を光らせて


「おお……君がカナトかい?お前さんすごいな。この子ら、お前さんの子供が欲しいか……ぶっ!」


 アベルという薬剤師はレベル5のエレナのドロップキックを食らって飛ばされてしまった。


「な、なにを……え?ぶっ!」


 加えてリナが自分の兄にドロップキックを喰らわせる。


 あっという間に執務室は修羅場と化した。


 この光景を見たケルツとハンナは苦笑いを浮かべては


「これは前途多難だな」

「でも、これは全部カナトさんのせいですから」

「これは序の口かもしれんな」

「全くおっしゃる通りです」






追記



ごめんこ


ハリーの出るシーン書こうとしたけど、ちょっと暗いシーンだからこのシーンとは合わない。


次回はマジで出るん






 








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