第51話 お呼ばれ

数日後


 あのハリーの一件があってから学校は一週間ほど休みとなった。アンデッドと化したハリーの噂はたちまちに王国中に広がり、今やパーシー家は王宮から遣わされた調査官への対応で猫の手でも借りたいほど忙しくなったらしい。


 俺はというと、フィーベル家のケルツ様の執務室でお茶を飲みながら二人きりでケルツ様と話し合っている。


「ありがとうございます。おかげさまで静かに過ごすことができました」

「カナト君が気にすることはない。俺は君の後ろ盾になると約束した。その約束を実行したまでだ」

「心強いです」

「こちらこそ君がいてくれて心強いものだ」


 と、ケルツ様は満足げにお茶を美味しそうに飲んだ。


 ケルツ様はずっと俺とリナを匿ってくれた。

 

 俺はハリーを圧倒した。


 ゆえにそれに嫉妬して貴族たちが俺に八つ当たりをしてくる可能性があったが、俺とリナはケルツ様の屋敷で安全に数日間暮らした。


 おそらくケルツ様の後ろ盾がなければ、相当面倒なことになったんだろう。

 

 俺は安堵のため息をついて、ハンナ様が入れてくれたお茶を飲んだ。


 すると、誰かがドアを控えめに叩く。


「誰だ?」

「ハンナでございます。王宮から手紙が届きました」

「ほお、入れ」

「はい」


 ケルツ様の返事を聞いたハンナ様はゆっくりドアを開けて、持ってきた手紙を丁寧にケルツ様手渡す。


 ハンナ様ってメイドの仕事もして、秘書もやったりと、本当に忙しいな。なのに一瞬の隙も見せない。本当にしっかりしている女性だ。

  

 俺が作った料理を食べて涙を流していた時とは大違いだ。


 と考えながらハンナ様を見ていると目が合った。


「ふふ」


 ハンナ様はにっこりと微笑んでくれる。


 なので俺も目で笑いながら相槌を打つと、王宮からの手紙を読み終えたケルツ様が俺に熱い視線を送ってきた。


 な、なんだろう……


「カナト君」

「はい……なんでしょうか」

「一人で王宮に行ってこい」

「はい?」


 予想の斜め上すぎる彼の言葉に俺は上擦った声で聞き返してしまった。


「この……あははははは!!」


 ケルツ様はわけのわからないことを言っては何やら面白いことでも思いついたのか、いきなりゲラゲラ笑い始める。


 俺がはてなと小首を傾げてもケルツ様は笑うだけで応えてくれない。なので、俺は紫色の髪が印象的なハンナさんに視線で問うた。


「……」


 ハンナさんはまるで猫ちゃんが睨みを効かせるように、俺はじっと見つめては、急に視線を外し、ため息を吐く。


「エレナ様もなかなか大変そうですね」


 必死に頭を働かせてもこの二人が何を考えているのか、察することが全然できなかった。


X X X


王宮前


「エレナとリナ、なんかすごい怖い顔してたな」


 俺はげんなりした表情で王宮前にやってきた。


 二人に事情を話したら、いきなり頬を膨らませて俺に詰め寄っては帰ったら絶対お風呂一緒とか言ってくるから、ちょっと当惑してしまった。


「誰だ?」


 門番の人が俺を見て話かけてくる。

   

 眉間に皺を寄せており、俺を不審者扱いをしてきた。

 

 でも、仕方ないことだ。最近は暗殺未遂事件もあったし、ハリーの件もある。王宮の警備が厳しくなるのはある意味当たり前だ。


 なので、俺はケルツ様から授かったフィーベル家の紋章が刻まれたバッチを彼らに見せる。


 それを見た門番たちは驚きながら俺を見て訊ねる。


「君、名前は?」

「カナトです」

「……門を開けてやる。なるべく目立たないようにしてくれ」

「はい……」


 目立たないようにか。


 まあ、俺を思っての言葉だろう。

 

 残念ながらここはお偉い貴族たちも多々いる。つまり俺を好ましく思わない貴族もいっぱいいるわけで、わざと目立つようなことをして顰蹙を買うことはない。

 

 なので、俺は静かに彼女の部屋目掛けて早足で行く。


 途中で使用人とか親衛隊らしき人たちに何回か話しかけられたが、その度に俺がフィーベル家のバッチを見せたら、通してくれた。


 もうすぐ彼女の部屋が出てくるはずだ。


 アランの件で一回王宮にきたことはあるが、こうやって一人で行動すると、俺でも緊張してくるものだ。


「おい、聞いた?パーシー家のヘンリ公爵様って必死にアンデットの件の責任をケルツ公爵様になすりつけようとしてるんだってよ?」

「あ、それ聞いた。でも、厳しんじゃない?だってみんなが見てたんだよ。あれってハリー様に非があるでしょ?」

「でも、親ってのは自分の子を中立的な立場から見ることができないからな」

「まあ、自分の息子がああなったわけだし……」


 使用人らしい人たちが呟く声が漏れ聞こえた。


 俺は顔を顰めて前へと進む。


 やがて彼女の部屋に着いた俺は守っている親衛隊らしき人にバッチを見せる。


 すると、彼はふむと顔を頷いて彼女の部屋のドアをノックする。


 これ万能すぎるだろ……


「カナトという男がやってきました」


 親衛隊らしき人が控えめに言うが、中からは返事がない。


 心配になった親衛隊らしき人が再びノックをしようとした瞬間、


 ドアが開いた。


 そこには肩まで届くピンク色の髪を靡かせ、綺麗なドレスに身を包んだセレネ様が立っていた。


「カナトさん……来てくれましたよね」

「はい」

「どうぞ中へ入ってください」


 言われて俺はちょっと戸惑いつつに入った。


 戸惑うしかなかった。


 いつもセレネ様はどこか大人びていて、妖艶で、落ち着いていて時々ほんわかしているが、


 今の彼女はというは少しやつれて、目には小さくクマができている。


 どうやら休みの間にセレネ様の様子に何かしらの変化があったようだ。


 正直に言って、ハリーとの戦闘が終わった時もセレネ様はとても悲しい顔をしていたので、ちょっと心配していたが……


 もちろん、彼女は相当な美人だ。


 なので、ちょっとやつれているくらいでセレネ様の美は決してなくならない。むしろあんなか弱い姿を守ってやりたいという男心に火をつけるほど儚くも美しい。


 俺は彼女の後ろ姿を見て手紙の内容を思い出す。


『カナトさんと二人きりで話がしたいです』


X X X


ジュエネシスの本拠地


玉座


「離せ!!!くそ奴隷があ!!!!離せ!!!」

「うるさい」

「殺す!!!なんの罪もない僕にこんな真似をするなんて!!あああ!!!」


 鎖によって拘束されたアンデッドハリー。


「ペルセポネ様、サトウキビ畑の持ち主の息子を連れてきた」

「偉い。ハリー・デ・パーシー。平民や奴隷を徹底的に迫害してきたパーシー家の長男」

「迫害?人間じゃないくそ奴隷平民らには迫害という概念がないんだよ」


 ペルセポネの言葉を否定するハリー。


「奴隷も平民も貴族もみんな同じ人間。死んだら肉はチリと化す」


 ペルセポネは優しく語りかけるも




「ぷっ!!!あははははは!!!!!奴隷と平民と貴族が同じ人間!?あはははは!!!!!!!!!!!クズと一緒?ふざけるな!!虫ケラが!!!」


 そう叫んでは、ハリーは唾をペルセポネにかける。


 ハリーの唾は、ペルセポネの服についてしまった。


 その光景を見た少年は鞭を使って、思いっきりハリーを殴り続ける。


「あっ!おっ!あっ!!」


 続く鞭の音とハリーの呻き声。


 ひとしきり殴られたハリーが苦しそうに息を切らしている。


 そこへペルセポネが話を始めた。


「1200号」

「うん。ペルセポネ様」


「この人をに閉じ込めて」

「……そうすると、精神が完全に破壊されて奴隷になれなくなるよ」

「それでもして」

「うん。わかった」





 

追記



アンデットハリーの活躍に期待を!






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