第50話 奴隷の奴隷

「あああ……平民が成り上がることは絶対許さない……貴族こそが正義だ……平民と奴隷は使い潰されるために存在する道具にすぎない……」


 皮膚が真っ黒になったハリーはまるでゾンビのようによろめきながら言葉を発する。


 何がどうなったのかは知らないが、彼はアンデッドと化したのだ。このまま放っておくわけにはいかない。


 アラン同様危ない。


 なので俺は早速散弾銃を召喚して、また彼の頭に一発食らわせた。


 すると、ハリーの頭は跡形もなく消え去ったが、相変わらずゾンビのような歩き方で歩いている。


 その姿があまりにも不気味だったので、俺は顔を顰めた。


 すると、上から声が聞こえてきた。


「やつはエネルギが尽きるまで無限に再生する」

「再生?」


 俺は上を見上げてボロを纏った少年を見る。


 すると、彼は俺を見て優しく微笑んだ。


「カナト兄」

「ん?なんで俺の名前を?」

「ペルセポネ様から兄の話を聞いた」

「俺の話……」

 

 少年はずっと俺を見てニコニコ笑っていた。


 まるで同志を見つけたかのように、親友を見つけたかのように。


「カナト兄様辛い思いをしてきたよね。でも大丈夫で

。アンデッドと化したハリーは奴隷である僕の奴隷になるんだから」

「奴隷の奴隷……」

「うん。公爵家の長男が奴隷の奴隷になるんだ」


 なかなか斬新な話ではあるが、俺は気になることを聞いてみることにした。


「どうしてハリーがアンデッドになったのか教えてくれないか」

「……カナト兄の頼みなら断ることはできない」


 少年はそう言って短くため息をついてから答えた。


「ハリーはハルケギニア王国を支配しようと思ってアラン兄にアンデッドの力を要求した。王族や貴族さえも逆らえないほどの強い力を手に入れてゆくゆくは自分がこの世界の王になろうとしていた」

「……本当か」

「嘘じゃない。僕は奴隷。貴族と違って嘘はつかない」

「……」

「本来であれば、ペルセポネ様に忠誠を誓わないと、強いアンデッドの力は使えないけど、ハリーは何かしらの理由で暴走してこんな醜い姿になってしまった」

「ハリーはまだ死んでないってことか?」

「うん。まだ死んでない。カナトの兄貴にやられる直前で暴走はすでに始まっていた」

「そうか」

「これは滅多にないこと。だから僕の奴隷にしてたっぷり躾けてペルセポネ様に捧げる」

「……」


 ぱっと見10歳くらいにしか見えない外見だが、彼が発する言葉に俺は鳥肌が立つ。


「平民と奴隷……全部殺してやる……僕の計画を台無しにして……殺す!!!あああああああ!!!」

 

 いつに間にか頭が元に戻って発狂し出すハリーは早速氷柱を召喚してそこにアンデッドの力を流し込む。それからその氷柱を空に浮かんでいる少年の方へ投擲した。


「愚かな貴族。大人しく僕の奴隷になればいいさ」


 少年は軽く避けて、真っ暗な鎖を召喚してそれをハリーに投げかけると、つる植物が木や建物に這い寄るみたいにハリーの体を拘束する。


「あああああ!!くそ奴隷が!!僕を奴隷にだと!?身の程弁えろ!!僕は公爵家の長男ハリー・デ・パーシーだああ!!お前の兄弟も両親も全部殺してやる!お前の大切な存在を全員皆殺しにしてやる!!」


 鎖に繋がったハリーがみじろきしながら抵抗すると、少年が答える。


「これはなかなか強い。ペルセポネ様から授かった死の鎖に繋がった状態であんなに暴れるなんて……」

「殺す!!殺す!!汚い奴隷が!!高貴な僕にこんなことを!!」


 理性を失ったハリーはキチガイのように鎖を千切ろうとしる。だが、少年は真っ黒な鞭を召喚して思いっきりハリーを打ち始める。


「あああっ!!!!!親にも殴られたことないのに、こんなアリ以下の奴隷ごときに!!」

「大人しくついてきて」

「命令するな!!ああああ!!!」

 

 抵抗するハリーに少年は遠慮なしに鞭を打ち続ける:


「カナト兄様、会おうね」

「……」


 少年はそう言って、鎖を持って飛んで行く。


「離せ!離せ!!!!!貴族の話が聞けないのか!!!離せ!!!!」


 俺は呆然と立ち尽くしてその光景を見つめていた。


 周りの貴族たちは口をぽかんと開けてハリーが少年に連れていかれる光景をただただ見ている。


 試合場がシーンと静まり返り、数秒が経つ。


「きゃああ!!!!!!」

「なんだよ!!あれは!!」

「ハリー様が、アンデッドになった!?」

「あああ!!見えない!!俺は何も見なかった!!平民はみんな死んでしまえ!!」

「怖い……一体この王国で何が起こっているの?」

「早くこの王国を去ろう……」

 

 みたいな反応を見せる観戦者たち。


 今日は普通に実技試験があるだけだが、ハリーとベルンが妹とエレナ様にひどいことをしようとし、ハリーと決闘をし、ハリーがアンデッドと化し、ジェネシスの一味と思われる少年に連れていかれてしまった。


 そしてその凄まじい光景をハルケギニア王国の貴族と他の国の偉い人たちは見てしまっている。


 どうなってしまうのだろう。


 俺はため息をついて、激しく息を切らしているジェフ様とミア様ミア様とルナ様のところへ向かう。

 

「……」


 3人の隣にはセレネ様が呆然と佇んでいて、絶望に打ちひしがれた様子でいた。


 自分の婚約者がアランと内通していて、なおかつこの王国を転覆させようとしている反逆者であることを知ってしまった。


 彼女はすでに色褪せた瞳を潤ませて、とても悲しい表情を浮かべて穴の開くほど俺をじっといる。





追記



果たしてハリーは大人しくやられるのでしょうか







 


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