第49話 ハリーの変化
「アイススピア!!」
ハリーは天に轟くほど大声で叫んでは大きな氷柱を召喚し、それを俺に向けて全力で投げてきた。
「コンクリート!」
俺はハリーの攻撃を防ぐべく、分厚いコンクリートを召喚する。
硬いコンクリートと氷柱のぶつかる不思議な音が競技場を駆け巡る。
文字だけだと俺の召喚したコンクリートの方が丈夫そうに思えるが、ハリーが巨大な氷柱に魔力を注ぎ込んだため、氷柱が簡単に破壊されることはない。
「くそ……」
このままだとコンクリートが破壊されてしまいそうだったので、俺は早速武器を召喚することにした。
「ミニガン……」
すると7.62mmの弾を使う6本の銃身を持つ機関銃が現れる。
俺は早速それを持ち、コンクリートの壁から静かに離れてハリーを睨む。
「平民……いつの間に!」
彼に猶予を与えることなく俺は弾丸にたっぷり魔力を込めて引き金を引く。
「っ!アイスシールド!」
ハリーは迫り来る命の危機を素早く察知して氷の盾を召喚する。
1分あたり4000発程のスピードで数えきれない程の弾丸がハリーの盾を攻め続ける。
普段は死なない程度に弾丸を加工したり、火薬の量を減らしたりするが、今回においては手加減は無用だ。
弾丸は転生前の世界で使われているものをそのまま使っているし、火薬の量だって一緒だ。
しかも魔力を込めているため、放たれる弾丸は青い光を帯びている。
「っ!なんて破壊力。平民風情が……」
一発一発の弾丸が鳥の羽をむしるように氷を削っていく。
この戦いを長引かせるつもりはない。
圧倒的力を示して平伏させるだけ。
屈服するハリーが生きた状態か死んだ状態かは俺にとって重要なことではない。
なくなっていく分厚いハリーのアイスシールド。
またもや命の危機を察したハリーは急に逃げ出す。
俺は逃すかと言わんばかりに、逃げていくハリーに向けて多くの弾丸をぶっ放した。
「クッソ!なんだこれは!一度も見たことのない武器……」
ハリーは辛うじて他のアイスシールドを多く召喚し、うまいこと俺の攻撃を交わしながら逃げていく。そして切羽詰まったように叫んだ。
「ヘビーアイス!」
そしたら、俺の上のからいっぺんの長さが10mほどの正方形の氷の塊が現れ、猛烈なスピードで落ちてきた。
伊達にレベル5やってないな。
エレナ様とはまた違う戦闘スタイルを有している。
俺はミニガンを消して呟く。
「ドローン」
ジャンプをしたら下からドローンが現れ、そのドローンに身を任せて空を飛ぶ。
「なんだあれは!?」
「あれって魔道具なの?」
「空を飛ぶことのできる魔道具はあるとしてもすごく高価だぞ!」
「いや、あの平民が召喚したんだろ!?あれは魔道具じゃないんだよ!」
俺のドローンを見て戸惑いを覚える観戦者たち。
もちろんハリーも似たような反応である。
「……」
俺はそんなハリーを見下ろしながら言う。
「どうやら俺はあなたを過小評価していたみたいですね」
「なに!?」
「てっきり、さっきの攻撃で倒れると思ったんですが、むしろ攻撃までしてきて、さすがレベル5ですね」
「平民なんかが僕を評価するな!」
「そうですか……じゃ、終わりにします」
「君は僕には絶対勝てない」
「自信満々ですね」
「あはは……僕は君より強いから」
「降参する気はないんですか?」
「平民、言葉がすぎるよ。命乞いをする方が君の方だ」
「そうですか。もう遠慮はいらないですね」
そう言ってドロンの上でハリーを見ている俺は密かに呟く。
「多連装ロケット砲……」
すると、空には20台の多連装ロケット砲が下を向いた状態のまま現れた。
試合場はローマのコロセウム程の大きさで結構広い方だが、20台の多連装ロケット砲がもたらす威厳はこの世界には存在しない新たな恐怖を生み出す。
「あれって一体……」
「さっきの武器もハリー様を戸惑わせるほど強力だったから、これもきっと……」
「へへへ平民が召喚した武器だから別に怖くなんかないんだぞ」
「そそそ、そうよ!所詮、平民なんだから〜」
外野がうるさいが、俺は一瞬の迷いもなく、大声で叫ぶ。
「発射!!!!」
攻撃開始を知らせる俺の声と共に、多連装ロケット砲からロケットが地面目掛けて突進する。
一台にあたり12発撃てるわけで、20台だと240発。
その全てがハリーを狙っている。
ハリーは
「……仕方ないか」
そう言って、上に向けて分厚い氷を生じさせる。
アイスシールドか。
だが、このロケットはお前の氷を簡単に破壊するだろう。
そう思っていると、
「なに!?」
俺は不思議な光景を目撃した。
ハリーのアイスシールドの周辺がドス黒い光を浴びている。
あのドス黒い光には見覚えがある。
「アンデッド!?」
いや、そんなはずがない。
俺の勘違いか。
願わくばそうあって欲しいところだ……
でも……
そんな思惑が交錯するなか、240のロケットが全部ハリーのところで爆発した。
その威力たるや、防御膜を張っているジェフ様とミア様が相当なダメージを負うほどで、魔力供給をしているルナ様に至っては激しく息を切らしている。
「う、嘘だろ……あれが平民?」
「あああ……」
「お……」
「これは、反則だろ……」
「あああ!!!!見えない!!何も見えない!!平民は所詮平民だ!!我々が支配しないといけない未開人なんだああ!!」
みんながショックを受けている中、空に舞う砂埃が徐々になくなり、真ん中には大量に血を流しているハリーの姿が見える。
「あああ……な、なんで……なんで僕がクッソ平民なんかに……レベル6の力を手に入れた僕が……こんな……」
俺は驚いた。
全てが想定外だった。
俺はハリーを完全に消すつもりで強力な多連装ロケット砲を彼に浴びせた。
だが、彼は生きている。
おそらくさっきのドス黒い光と関係があるように思えてならない。
なので、俺は倒れたまま呻き声を上げているハリーのところへ行った。
俺はピストルを召喚し、それを横になっている彼の頭を狙いながら問う。
「アンデッドの力を使ったな。ハリー!」
「「アンデット!?」」
ただでさえ俺がハリーを倒したことで動揺している貴族はアンデットという単語を聞いたことでより混乱状態になる。
俺は引き金を引くために、指を微かに動かした。
すると、
「絶対認めない……認めない……ハルケギニア王国が滅びても、この世が滅びても、僕が死ぬことがあっても……」
血反吐を吐くハリーは苦しく息を整えてからまた口を開いた。
「ぜっっっっっっっっったい認めなあああああああああああああああい!!!!」
ターン!
俺は彼に引道を渡した。
これで終わりだ。
いや、始まりかも知れない。
この王国にはハリーのようなやつがうじゃうじゃ湧いている。
だからきっとイバラの道で険しい道のりになると思うが、俺を応援してくれるいい仲間が存在する。
「認めない……」
「なに!?生きてる!?」
ハリーの頭に穴が開いているにも関わらず、口を動かしている。
そして、彼の皮膚がだんだん黒くなり始める。傷口からはドス黒い光が漏れていた。
この黒い光の正体は間違いなくペルセポネが見せたあの光だ。
もちろんペルセポネと比べると、劣化コピーに過ぎないが、これは間違いない。
キチガイのアランとジェネシスの創設者であるペルセポネが漂わせる雰囲気に似ている。
やがてハリーの体が真っ黒になり、起き上がった。
俺が当惑していたら
上から幼い少年みたいな声が聞こえる。
「ハリー・デ・パーシー。パーシー商会が管理するサトウキビ畑……僕が殺した貴族とハリー・デ・パーシーは同じ。平民や奴隷を虐待して、僕らを踏み躙って甘い汁を吸いまくる動物」
空にボロを纏った少年らしき人が浮かんだまま、ハリーに向かって何やらしゃべっていた。
追記
31話参照
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