第48話 暴れる前
「婚約を……破棄だと……一体何をおっしゃるんですか。セレネ王女殿下」
まだ自分が置かれた状況に頭が追いついてないハリー。ベルンはというと、恐怖に怯えたネズミのように俺たちとハリーの顔を交互に見ながら全身を震わせる。
「あなたたちの獣のような会話は、案内放送を通じてハルケギニアの方だけでなく、他国の貴族たちも全員聞きました」
「な、なんだと……どうやって」
ハリーが一瞬迷うが、やがて怒り狂った顔でリナとエレナ様を殺す勢いで睨んできた。
ジェフ様の肩を借りて安らいでいるリナは前よりは多少体の調子が良くなったらしく、ハリーに向けてベロを出した。
「平民の分際でこのアマがあ!!」
ハリーがリナに向けて走り出すが、俺は引き金を引いて数発弾丸を放つ。
「っ!」
すると、彼は俺の動きに気づいてハリーは俺の弾丸を防いだ。
氷の壁に突き刺さった魔力を帯びる俺の弾丸。
やつは氷を操る魔法使いか。
エレナ様のように鍛えられてない体だから、身体能力を使う系ではないと思っていたが、氷を使うとは。
「ハリーさん。一体何をやっているんですか?セントラル魔法学園校則だけでなく、ハルケギニアの法律に照らしてみても、あなたは重犯罪者です。大人しく逮捕されてはいかがですか?」
ルナ様が剣を抜いてハリーに向けて言う。だが、彼は図々しくも、鼻で笑いながら。
「僕は公爵家の長男だからね。重犯罪を犯しても免責事項によって俺の身柄を拘束することはできない。賢いルナがそれを知らないはずがないと思うけど」
「セレネ王女殿下がいる前で、そんなことが言えるなんて、恥ずかしくないんですか?」
「どうかな?むしろ損をするのは僕の方だからね。平民のせいでこっちは大恥をかいているよ。本来ならすぐ殺してもいいところだけど」
彼は良心という要素が欠けているように思える。
そういえば、俺が塾講師やっていた頃も、似たようなやつがいたっけか。
俺は彼を睨んで、毒を吐いてやった。
「あなたは俺を殺せない。リナの指一本も触れない。あまり調子に乗らないでもらえますか?ハリー様」
「っ!!!!!平民風情が!!!!分をわきまえろ!!!!殺す……殺してやる!!!!決闘だ!!」
そう言って、決闘を申し出たハリー。
彼は興奮気味で息を荒げており、気持ち悪い笑みを浮かべていた。
やっと化けの皮が剥がれたと言うわけか。
俺がハリーに軽蔑の視線を向けていると、隣にいたセレネ様が俺に話かけてきた。
「カナトさん、別にハリーさんと戦う必要はありません。お父様に直接言っておきます。あの人からはハルケギニア王国に悪い影響を及ぼす反逆者のような匂いがします。おそらく私を愛していると言ったのも全部嘘でしょう……」
セレネ様が少し涙ぐみながら俺から視線を外した。
すると、ハリーはまるで麻薬中毒者のような面持ちで話す。
「何をおっしゃるんですか?僕は今もセレネ様を愛していますよ」
「……私のどこか好きですか?」
「とても美しく凛々しく、まさに女王のような方です」
「……」
彼の言葉を聞いたセレネ様は落胆したように悲しい表情のまま顔を俯かせる。
俺は日本でも恋愛経験はほとんどない。
こんな俺でもやつの思惑を簡単に察知することができた。
こいつはセレネ様を女として好きじゃなく、あくまで彼女が女王になる可能性があるから好きなだけだ。
本当に世の中は不公平だ。
こんなサイコパスのような連中がとんとん拍子で出世したり、恵まれた家の出だったりする。
こいつはずっとこんなやり方で生きてきたんだろう。
手段と方法を選ばずに犯罪を犯してでも欲しいものを手に入れたがる。
自分の罪が白日の下に晒されても反省するどころかむしろ知らないふりをして逆ギレする。
血が騒ぐ。
転生前の俺は実に無力だったが、
今は違う。
「はい。その決闘受けて立ちます」
「「っ!!」」
俺の返事を聞いて周りにどよめきが走る。
「カナトさん、良いですか?」
セレネ様が俺の裾を控えめに引っ張りながら問うてきた。
「はい。大丈夫です。もうこれ以上あいつらを野放しにするわけにはいきません。俺の大切な人たちにひどいことをすれば、全てを失うということをみんなに知らしめる良いチャンスです」
「……私はカナトさんの意思を尊重します」
悲壮感漂う俺の表情を見てセレネ様が一瞬頬をピンク色に染めて返答してくれた。
俺はリナとエレナ様が心配になり後ろを振り向く。
「大切な存在……」
「そそそ、その大切な人という範疇に私は入るのだろうか……」
ミア様の胸に顔を埋めたリナとジェフ様によって支えられているエレナ様が何やら呟くが、あまり聞こえなかったので俺は再び前を向いた。
ハリーは
本当に
本当に醜悪な顔で俺を睨んでいる。
X X X
試合場
伯爵家の長男であるベルンは免責事項が適用されないがため、そのまま生徒会によって身柄を拘束されることになった。
ルナ様曰く、被害者がリナだけならうやむやにされる可能性が高いが、エレナ様も巻き込まれているわけだから、最悪爵位が剥奪される可能性もあるという。
とにかく俺は再び試合場にやってきた。
観戦するための席には人たちがぎっしり詰まっており、下の真ん中に立っている俺たちに視線を送ってくる。
「一体何がどうなってるんだ?」
「まさか、ハリー様があんなことを……」
「あり得ない。きっと捏造よ!」
「はあ……あのイケメンで優しいハリー様が……きっと嘘に違いないわ」
「そう!きっとされる寸前の女の子らも内心期待したんじゃないの?」
「平民と公爵家の長男が戦うなんて……」
「生意気な平民風情が!!ハリー様にボッコボコにされる場面がみてみたいぜ!」
みたいな声が聞こえる中、
「へ、平民!!頑張れ!」
「おい、平民平民言うなよ!名前、カナトだから」
「カナト!応援してるよ!」
「今まで無視して悪かった!俺なんかより、お前の方が優れている!」
「レッドドラゴンを倒した段階で薄々気づいたんだ!俺はお前の足元にも及ばないってことをよ!」
最下位クラスの連中は俺を応援してきた。
「ちっとも嬉しくない。貴族め」
と、呟くも、
罵声を浴びせられるよりはマシだと言うことに気付かされた。
奴らは俺についてきて、ハリーとベルンの蛮行を目の当たりにした奴らだ。
まあ、あいつらは都合悪くなったらまたすぐ手のひら返すから真に受けることは止めることにする。
「誉れ高きハルケギニアの貴族が平民にエールを送るなんて。世も末だ」
ハリーが最下位クラスの連中に軽蔑の視線を向ける。そんな彼に俺は言葉を発した。
「いいえ、あなたのような人が幅を利かせるあたり、ずっと前から末でした」
「よく喋るね。でも、試合が終わった後もそんな生意気な事が言えるかな??」
「それはこっちのセリフです」
「ゴミ以下の平民が……君は必ず僕が殺してあげるよ」
「他人を殺す時は、自分も殺される覚悟ができてないといけません。ハリー様はできてますか?俺に殺される覚悟が」
「そんの……」
彼が一旦切ると、
「では始め!!」
審判が試合開始を告げる。
それと同時に
「出来てるわけねえだろおおおおおお!!!!!!!」
早速、俺に飛んできた。
リナとエレナ様は駆けつけてきたハンナ様によってフィーベル家に運ばれており、ジェフ様は観戦者が怪我をしないように魔力で保護膜を張り巡らせた。ミア様はパッシブスキルを使い、保護膜を強化しているところ。
そして、隣ではルナ様が二人に魔力供給をリアルタイムで行っている。
よし。
これなら
思う存分暴れることができそうだ。
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