第47話 宣言
俺とジェフ様とミア様が必死に走ると、後ろからルナ様とセレネ様が俺たちを逃すまいとついてくる。
他の貴族と生徒たちは衝撃を受けたように口をポカンと開けて立ち尽くしたまま走っている俺たちを呆然と見ているだけであった。
だが、いつしか出てきた最下位クラスの連中のほとんどは俺を見て、歩調を早めて俺たちについてくる。
やがて特別棟が見えてきて、俺はさらに限界までスピードを出して駆ける。
地下階段を降りると、真っ暗だったから俺は密かに呟く。
「SMG……ライト追加」
すると、18650電池で作動する高性能のライトがくっついたSMGが召喚された。
LEDの光を頼りに俺はいよいよリナとエレナ様のいる倉庫の前にやってきた。
「……くそ、開かない」
分厚いドアにはロックがかかっている。
二重ロック。
金具によるものと魔法によるもの。
外部との接続の一切を遮断していやがる。
いくらドアを叩いても、押しても埒があかなかったので、俺は振り向いて大声でついてきた人たちに告げる。
「みんな!ドアから離れてください!」
「「……」」
すると、みんなは大人しく俺の言葉に従ってくれた。
『リナちゃん〜もう十分熱くなったよね?このベルン様が楽にしてあげるからな!』
『ちょっと待ってください……』
『ああ、くっそ!いつまでこの俺を待たせるんだよ!早く俺に抱かれろ!』
『きゃ!』
『エレナ、たっぷり僕の色に染めてあげるから』
『……』
時間がない。
「C4」
そう唱えると、ドアを破壊するためのC4爆弾が召喚された。
俺は早速それをドアにくっつけて結界を破るために魔力をたっぷり流し込んでは
それを爆発させる。
すると、ものすごい音が出ながらドアは跡形もなく消え去る。
そこには魔法石が明るい光を発しており、4人の姿が照らされていた。
「「っ!!!」」
ベルンとハリーは気が動転したかのように驚愕し、肩を竦める。
「リナ!いまだ!」
「はい!エレナ様!」
リナとエレナ様は隙をみて脱兎のごとく俺の方目がけて逃げる。
「お兄様!!!!!!!!!」
「リナ!」
リナは俺のいる方へ飛び込んできて頬ずりしてきた。
いつものリナの匂いだ。
俺を安心させる温もりだ。
サラサラした黒い髪も、柔らかい体も、巨大なマシュマロも。
全てリナをリナたらしめる存在で、俺は一瞬涙を流しそうになったが、必死に堪えてリナの頭を優しくなでなでする。
すると、
「っ!!!」
リナが俺の顔を見るや否や体をひくつかせて俺から離れた。
顔はすでに真っ赤になっており、俺が小首をかしげながら無意識のうちにエレナ様を見ると、彼女はスカートをぎゅっと握り締めて俺をチラチラみてくる。
なぜ俺に対してあんな反応を見せるのかはさておき、俺は前に出てベルンとハリーに対して口を開く。
「ハリー様、俺は言ったはずです。リナに何かをしたらあなただけでなく、あなたが持っている全てを破壊するって」
「ふーん?僕は別に悪いことはしてないけど?」
「……じゃ、一体ここでリナとエレナ様に何をしたって言うんですか?」
「僕はただ、その二人の体の調子が悪そうだったから介抱をしてあげただけだけど?」
「んだと」
彼の図々しい態度によって、俺はさらなる殺意に本能が刺激され始めた。
リナとエレナ様は急に調子が悪くなって、激しく息を吸って吐いているため、何も言えずにジェフ様とミア様によって守られている。
恐らく薬の作用だろう。
俺が銃口をハリーの頭に向けていると、エレナ様を抱えていたジェフ様がハリーのやつに挑発するような態度で返す。
「ハリー様、あなたはとても卑怯な人間です。あまりにも悍ましすぎて、パーシー家の紋章に唾を吐きたくなりますね。やっぱり血は争えない。成り上がっていく僕の父上に嫉妬して暴虐の限りを尽くしたその汚らしい根性はあなたにもちゃんと烙印されているようですね」
ジェフ様の言葉を聞いたハリーはイケメン顔を歪ませて大声で叫ぶ。
「公爵家の長男である僕に向けてなんていう口の聞き方なんだ?貴様の家を潰してやる。回復不可能になるまで叩き潰してやるから」
怒り狂ったハリーは早速ジェフ様に向かって攻撃の大勢をとる。
だが、誰かが待ったをかけた。
「やめさない」
いつもはほんわかとしていて時々艶かしさを滲ませる彼女の声音はいつにも増して鋭い。
「セレネ王女殿下……」
ピンク色の髪をした制服姿の美少女・セレネ様のお出ましである。
「ハリー様の婚約者であられるセレネ王女殿下だ!」
「す、すごい……これ、どうなるの?」
「やばい……」
最下位クラスの面々が恐れ慄くが、セレネ様は彼ら彼女らを気にする風もなく、堂々と俺の隣へとやってきた。
「ハリーさん」
「セレネ王女殿下、どうしてここに?」
「もし、私の配偶者が下劣で最低で陰湿な人なら、あなたはどう思いますか」
問われたハリーはジェフ様への怒りを抑えて唇を噛み締めてから答える。
「それはあってはなりません。ハルケギニア王国の名に泥を塗りつけるような者は排除すべきです。セレネ様の婚約者である僕が許しませんから」
卑屈な笑みを深べていうが、セレネ様は微動だにしない。
「あら、そう?」
「はい。だって僕はセレネ王女殿下をとても愛してますから」
側から見れば愛を囁いているように見えるが、俺からしてみたら蛇がこすっからい考えを隠して相手を沼地に取り込もうと必死になっているように見えた。
セレネ様は諦念めいたように深々とため息をついた。
そして口を開く。
「魔族が生息しているところでしか取れない媚薬を勝手に女の子に飲ませるような最低最悪な男はやっぱり私の夫になる資格はありませんよね?」
「っ!!!セレネ王女殿下!!ち、違います!これには訳が……」
言い訳するハリーに向かってセレネ様は彼を指差して宣言するように大声叫んだ。
「今ここで、あなたとの婚約を……破棄します!!!!!!」
追記
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