第46話 スマホの威力
殺意を剥き出しにした俺は周辺を見渡す。
相変わらずハリーとベルンの気持ち悪い声がスマホ伝いに聞こえており、俺は理性を失いかけている。
確かにこのスマホは音声以外にも目に映る光景も送信できるはずだ。なので、俺は魔力を使って二人に声を送信した。
『映像モードに切り替えて今どこにいるのか教えてくれ!』
だがいくら経っても二人が映像を送ってくることはない。
その代わりに
『私たちは大丈夫だ。カナトは生徒会室に行ってこの音声を校内放送で前生徒たちに流してくれ』
エレナ様の言葉に俺は口を半開きにする。
『何を言っているんですか!?早く場所を教えてください!』
俺がスマホに魔力をたっぷり流し込んで叫んでも彼女らは教えてくれない。
『お兄様……早く』
「……」
俺が握り拳を作っていると、おなじみの三人が俺の前に現れた。
「カナト!」
「カナトさん!」
「カナトさん……」
ジェフ様とミア様は俺同様怒りを募らせた表情、ルナ様はこの状況が理解できないといった面持ちである。
「ジェフ様!早く二人の居場所を特定しないと!」
俺が切羽詰まった感じでいうと、ジェフ様が俺の肩を押さえて語気を強めた。
「カナト、まずは生徒会室に行くのが先だ」
「いや、一時も早く二人を探さないといけません!」
「気持ちはわかる。でも、あの二人を信用するんだ。きっと何かしらの考えがあるはずだ」
「できません……早く奴らを見つけて!!!っ!!」
ジェフ様は俺のほっぺたを叩いた。
「……」
予想外すぎるジェフ様の行動に俺が呆気にとられると、ミア様が口を開く。
「カナトさん、二人を信じましょう」
「……」
二人の眼光が非常に鋭かったので、俺は我に返ることができた。
「カナトさん……技能テストを受けずにいきなり飛び出して生徒会室に……一体どういうことですか?」
ルナ様が抗議するように問うてくるが、細かいことを説明する暇がないから、俺はジェフ様を見る。
「カナト、行こう」
「はい」
俺とジェフ様とミア様が走り出すと、ルナ様が当惑した様子で俺たちの後ろを追ってくる。
「ちょ、ちょっと!カナトさん!なんですか?!カナトさんの活躍楽しみにしていたのに!!待って!私をおいて行かないで!」
後ろからセレネ様が大声で何かしらを言っているような気がするけど、今はそんなことを気にする余裕はない。
生徒会室に到着した俺は、マイクのような形をした魔道具のある所へとやってきた。おそらくこの魔道具を操作して音声を流し込めばいいはずだ。
俺は早速スマホを取り出すが、邪魔が入る。
「カナトさん。一体何をしようとしているんですか?許可なく生徒会室に無断侵入し、勝手に案内放送用の魔道具を使おうとするなんて……これは明白な校則違反です!停学処分だけじゃすみません!」
ルナ様が俺を静止する。
以前ベルンとの戦いを止めた時のように鋭い剣は俺の首を狙っている。
しかし、ルナ様は凛とした様子ではなく、俺と同じく同様している様子だった。
「なんでこんなことするんですか?あなたらしくありません!」
「……」
「カナトさんはいつも冷静で強くて……いいお兄様なのに」
ルナ様は手を震えさせる。その弾みに俺の首に剣先がふれ、ちょっと血が出てしまった。
だが、俺は臆することなく
「いいお兄様かどうかはわかりません。でも、俺の大切な人を傷つける人は絶対許しません。そして……」
俺は一旦止めて、息を整えてから彼女を睨む。
「その大切な人を救うことを邪魔する人も絶対許さない」
「っ!!!!!!!」
彼女は急に電気でも走っているように体を震わせて、そのまま床に座り込む。
ルナ様の反応は意味不明だがミア様がタイミングよく言葉をかけてくれた。
「カナトさん!今です!」
「はい」
俺は早速マイクのような見た目の魔道具に魔力を入れて、スマホをスピーカーモードに切り替える。そしてさらにスマホにも魔力をかけて、リナとエレナ様にも連絡する。
『できた!学校中のみんなが聞けるようにしたんだ。だから早く居場所を教えてくれ!』
だけど、二人は何も言ってこない。
「……」
気が狂いそうになるが、そこへハリーとベルンの声が聞こえてきた。
「リナちゃん〜ここなら誰にも見つからないよ〜ほら、俺が君の兄の代わりにいっぱい可愛がってあげるからよ〜うへへへ!その立派なおっぱい、揉ませてもらうぞ〜」
殺す……絶対許さない……
俺が血走った目で、破壊衝動に駆られると、突然リナが言葉を発する。
「……ベルン様、これは一体なんなんですか……頭がぼーっとして、私たちに何かを飲ませましたか?」
すると、ベルンは興奮した表情で、返事をした。
「おっほほほ!単なるスパイシーだよ。リナちゃんが気にすることはない」
「私……気になります……」
「……んだよ……粘りやがって」
すると、今度はエレナ様の声も聞こえてくる。
「ハリー……やっぱり私も気になるんだ」
「ふふ、それは重要じゃないから。今大事なのは、エレナが僕に惚れていることだよ」
「……頭が痛い」
「エレナ……これから僕がたっぷり遊んであげる……」
「いや、私に飲ませた薬の正体を知るまでは……」
「んだよ……確かに効いてはいるようだけど実験の時とちょっと違う。まあ、いずれにせよ結構は同じだが」
ただ聞くことしかできない俺が無能すぎて自分自信を思いっきり殴ってやりたい気分だ。
そう悔しがっていると、リナが蠱惑的な声音で話し出す。
「ベルン様」
「ん?なんだ?大人しく俺に抱かれる気分になった?」
「ベルン様が、私たちに何をしたのか教えてくれれば、とっっっっってもいいことがあるかも……言いたくなければ、私、熱くなりません」
「り、リナちゃん……リナちゃん!!ああ……あああああ……こんなに可愛い女の子はこれまで見たことがない!!だから言ってやるさ。ハリー様からもらった媚薬を二人に飲ませたんだ!魔族が生息する地でしか入手できない最も強力
な媚薬を……二人に飲ませたんだよ!あはは……はははは!!」
全部打ち明けるベルン。
彼の言葉が鮮明にこのスマホからマイクに似た魔道具に流れて、学校中に響き渡る。
「ベルン。ちょっと黙って。バレるかもしれないでしょ?」
「ハリー様!安心してください。ここは音も入らなければ光すらも通らない安全な場所ですから!今は実技テストで盛りあがっていてバレる確率はゼロですよ!ゼロ!!全てが俺たちの計画通り……さあ、楽しみましょうか!」
ベルンが大声でハリーを説得する中
『カナト、みんな、私たちは特別棟の地下倉庫にいる。早くきて』
エレナ様の音声を聞いた俺は魔法でスマホを固定させたまま走り出す。
もちろん、ジェフ様とミア様も俺についてきた。
腰が引けてずっと座りっぱなしだったルナ様もいつしか俺と並んで走っている。
「カナトさん……どこへ行くのですか?」
「リナとエレナ様のいる所です」
「あなたに協力します」
「助かります」
「……別にあなたの肩を持つわけではありません。レノックス公爵家の長女として当然の務めですから」
俺含む三人が特別棟へ向かっていると、後ろからまた聞き覚えのある声が聞こえる気がしてきた。
「はあ……はあ……カナトさん!ちょっと!私も一緒に……あは……はあ……」
一瞬後ろを振り向いた。
ピンク色の髪をした美少女がいる気がしたが
そんなのは今の俺にとってどうでもいいことであった。
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