第45話 事件の始まり
最下位クラスの実技テスト現場
さらに数日が経ち、実技テスト(試験)当日となった。
実技テストは野外で行われており、召喚魔法によって生まれたモンスターと戦うことで測定される。
もしここでモンスターを倒すことができれば、試合場に行き、もっと強いモンスターと戦うことになる。そこでも勝ったらSという評価をもらうことになるのだ。
セントラル魔法学園は理論と実技によって生徒の価値が決まることとなっている。
俺の場合は技能はS、理論はF判定をもらっているので、最下位クラスで授業を受けている始末だ。
ここで俺がもしS判定をもらったとしても理論でいい点数を取らなければ結局上のクラスに進むことはできないが手を抜くわけには行くまい。
「シャアアア!!」
召喚されたチーターっぽいモンスターが俺に襲い掛かる。
「SMG……」
と唱えた俺の手に短機関銃が召喚された。
弾丸には魔力を込めているので、銃自体が青い光を帯びている。
「シャアアアア!!」
俺は狙いを定めて早速引き金を引く。
数発が銃口から放たれ、そのままモンスターに直撃した。
すると、モンスターは悲鳴を上げて消えて行く。
「見事……」
先生が驚いたような顔で合格判定を下した。
ちなみに出席番号は俺が一番最後なので、これにて一次実技テストは終わりだ。
ここは最下位なので、モンスターを倒したものは俺しか存在しない。
つまり、俺は今A判定をもらったのだ。
このまま午後に行われる次の実技テストに向けて心の準備をしないといけない。試合場は他の貴族や関係者もいっぱいくるので、正直ちょっと緊張する。
俺が短くため息をついていると、ジェフ様とミア様が俺の方に走ってきた。
「さすが我が友だ。お疲れ様〜」
「は、はい!ありがとうございます」
「カナトさん、やっぱり強いですね」
俺はジェフ様とミア様とハイタッチした。すると、周りの貴族たちが俺たちを一瞬見て目を逸らす。
不思議なことに、一部の人を除けば、俺たちに敵意を剥き出しにするような人はいない。
上位クラウの人は相変わらず俺を蔑視するが、最下位クラスに属する人たちは、入学時こそ多少の敵意を向けてきたものの、ハリーやベルンが見せるような態度は取っていない。
俺は彼ら彼女らを一瞥してから、ジェフ様とミア様と一緒に談話を交わした。
X X X
午後の実技テストの勢いは実に凄かった。
クラスあたり数名しか選ばれてなかった優秀な生徒が見せるパフォーマンスは観戦席に座っている貴族たちを感動させるに足るものだった。
リナとエレナ様とルナ様が特にすごかった。
この三人は実力だけではなく、見た目も美しい。
エレナ様とルナ様は国外でも有名だから他国の貴族たちは彼女らの戦闘を見てもっとフィーベル公爵家とレノックス公爵家と親しい関係にならないといけないという感想を言った。
そしてリナの戦闘を見た他国の貴族たちは拳を突き上げて絶賛した。
どうして平民なのにこんなに強いのか。
爵位を与えるべきではないかと言った感想が漏れ聞こえた。
その度にハルケギニア王国の貴族が「なんで平民なんかに爵位を与えなければならんのか」と言って、一時期穏やかじゃない雰囲気が流れていた。
「二年最下位クラス、カナト。試合場へくるように」
いよいよ俺の番だ。
名前を呼ばれたので、俺は最下位クラスの観戦席から立ち上がり、試合場へと行く。
俺は貴族ではないため、苗字を持ってない。
なので、観戦席にいる貴族たちが俺を見ながら何やら呟きだす。
「あの人だよね?」
「ああ。平民なのにすごく強いって」
「レッドドラゴンも倒したって噂だよ」
「レッドドラゴンならレベル5じゃないと倒せないだろ?」
「レベル5の実力があるのに、平民ってこと?本当に皮肉な話だな」
と、他国からの貴族と思しき人たちの声が聞こえる一方
「あいつは生意気だよ!」
「平民の分際で、貴族を侮辱する不届き者が!」
「あいつは礼儀がなってないんだ!」
まあ、あいつらは絶対ハルケギニアの連中だな。
もうなれすぎてなんとも思わない俺が怖い。
俺の登場によりハルケギニアの貴族たちは席から立ち上がり、鼻息を荒げて出口目掛けて足速に歩いていく。
俺が戦うところなんか見たくないだろう。
それに引き換え、他国からきた貴族たちは興味津々である。
俺は試合場の真ん中へ行く。
モンスターと言ってもさっきのリナやエレナ様が倒したような強力なモンスターと戦うことはない。
最下位クラスに合うモンスターが用意されているはずだ。
審判が俺に声をかけた。
「準備はいいか」
「はい」
俺は深く息を吸って吐いてから周りを見渡した。
すると、上位クラスの生徒のいるはずの席はほとんど空いており、ハルケギニア王国の貴族らもほぼ全員が出ていってもういない。
最下位クラスには、ジェフ様とミア様とセレネ様が手を振りながら俺を応援していて、三人以外にも多くの人たちが座って俺を見つめている。
俺は安堵のため息をついて、視線を別のところに移した。
二年最上位クラスにはルナ様一人だけ。
「リナ……エレナ様……」
二人がいない。
さっきまでは座っていたのに。
どうしたものかと考えを巡らしていると
ジェフ様からもらったスマホが俺に音声シグナルを送ってきた。
『あははは!!リナちゃん!もっと安全なところに行こうね〜このベルン様がたっぷり可愛がってあげるから』
『ベルン、下品だよ』
『うへへへ!ハリー様もめっちゃ楽しみにしてるんじゃありませんか』
『ふふ、そうね。僕を噛んだ子猫ちゃんが、やっと僕の思いのままになるんだから』
『あ、その首の傷ってエレナ様につけられたんですね。だったら、やり返さないと惚れ薬をたっぷり飲ませたから、抵抗はできません』
心臓が爆発寸前だ。
殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
ギースの時のように手加減はしない。
やつらを見つけて
殺してやる。
俺は震えてくる体をなんとか落ち着かせてそのまま走り出した。
「おいちょっと!」
審判の声が聞こえた気がするが、今の俺にとってはどうでもいいことで、俺は早速競技場を出た。
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