第44話 スマホと胸騒ぎ
数日後
セントラル魔法学園
ファイブスターの本拠地にて
「なんですか?それ?」
「あはは〜これはね、通信魔道具なんだ」
「「通信魔道具?」」
ジェフ様が自慢げにいかにもスマホっぽい四角いパネルを見せびらかしながら言う。
「離れたところから相手に話ができる優れものだよ〜」
ジェフ様は俺のおにぎりをテーブルに置いてからその通信魔道具を持って踊り始める。
だが、それを許すミア様ではあるまい。
ミア様の小さな手からチョップが炸裂する。
「ぶえ!」
「ジェフ様、食事中に踊るのは行儀が悪いです」
と言って、自分の席に戻るミア様は俺のおにぎりを持って一口食む。
すると、リナが「あっ」と、何か思い出したように話し始める。
「通信魔道具……通話魔道具と似てますね」
リナは自分の制服のポケットから通話魔道具を取り出してエレナ様に見せる。すると、優雅な姿勢で昼ごはんを食べているエレナ様が答えた。
「そうだな。お邪魔虫が多いから、いつでも私と話ができるように渡したけど、そういえば最近はあまり使ってないな」
「ふふ……ほぼ毎日のようにエレナ様の屋敷にお邪魔してますから!」
「ほぼ毎日ではなくて、毎日きてもいいぞ。リナと……カナトなら大歓迎だ」
リナとエレナ様がほのぼの気分に浸かって話していると、ミア様から一撃食らったジェフ様がいつしか立ち上がり「ふっふっふ」と鼻で笑いながら言う。
「その通話魔道具と一緒くたにしたら困ります。この通信魔道具を使えば、通話だけでなく、人の声を録音できて、さらに使用者が見ている光景をそのまま保存して再生することもできれば、これを持っているもの同士だと喋らなくても意思疎通ができちゃいます〜」
「え?なにそれ、スマホかよ」
「「スマホ?」」
俺の感想にみんなかわいく小首を捻って聞き返す。
当然この世界にスマホなんかあるわけがなく、俺は適当にはぐらかすことにした。
「あ、あれです!スマートな魔法道具。略してスマホ!」
「「ああ……」」
派手に滑った人を見ているように慈愛の表情で俺を見つめる女子3人。
「実にいい響きだ!スマホ!」
だが、ジェフ様は大変気に入ったらしく、俺に通信魔道具を渡してきた。
「このスマホを君にあげよう!」
「え?俺に?」
「君だけじゃないんだ〜ここにいる全員にあげる」
「い、いや、これって結構高いでしょ?」
「うん。高いよ」
「ちなみにいくらしますか?」
「ふふ……知らない方がいい」
「おお……」
ジェフ様は人差し指を自分の唇に当てて小悪魔っぽく振る舞った。
結局俺たちは、ジェフ様からスマホを受け取った。
使い方はコツがいるから放課後教えると言っているので、とりあえず飯だ。
と、俺は持ってきたおにぎりを探そうとするも、すでにミア様が大変満足そうに俺の最後のおにぎりを食べている。
「……」
彼女はそんな俺を様子を見てハッと目を光らせてご自分の美味しい最上級弁当を渡してきた。
そのうち、ミア様におにぎりの作り方を教えてあげよう。
この間、俺がギースを倒したことで、フィーベル家の屋敷で日本のソウルフードをご馳走したときにミア様が凄まじい衝撃を受けて、俺の作る料理に興味を持つようになった。
とまあ、こんな感じで俺たちファイブスターはほんわかした雰囲気の中で食事を続けている。
煌びやかな西洋式建物が並ぶセントラル魔法学園の目立たないところにある古びた特別棟。倉庫代わりに使っている特別棟の一角にある俺たちの居場所。
いくら綺麗にしても、軋む床と漂う埃はどうしようもないが、外から差し込んでくる太陽の優しい光はこの室内だけでなく俺たち5人を照らしている。
大事なことはいい施設や建物ではなく、人であることが如実にわかる瞬間だ。
俺が頬を緩ませていたら、エレナ様が「ん?」と俺を見て訊ねる。
「どうかしたのか?」
「いいえ。ただ、ジェネシスの件があっても、ここは平和だなって」
俺が言うと、エレナ様と妹のリナが顔を綻ばせる。
「お兄様!平和を手に入れるためにはやはり戦わないといけません!」
「そうだな。この平和はカナトが頑張ってくれたことによってもたらされたものだ」
「い、いや……俺は別に何もしてないんですが」
俺がちょっと恥ずかしくなって後ろ髪をガシガシしながら言うと、ジェフ様が急に俺に近づいて肩を組んできた。
「ジェフ様?」
「ここは平和だけど、この平和を絶対許さない連中が多いんだよ」
「……」
反論ができなかった。
「だから、そんな奴らに打ち勝って、僕たちをなめる貴族らに一矢報いる時だよ」
僕たちか。
確かにジェフ様の家も巨万の富を築いたと聞く。そして伯爵家の長男なのにクラスは低く、上流貴族社会から無視され軽蔑されているという。
俺はエレナ様にもジェフ様にもミア様にもレア様にもセレネ様にもよくしていただいている。
だが俺とジェフ様は他の貴族から疎まれている。
つまり、これは平民とか貴族とかの問題ではなく、能力ある人を決して認めたがらない人たちとの闘争のような気がする。
相変わらず多くの学生と先生たちが俺を煙たがっているのだ。
ギースを倒したにも関わらず誰もが俺を認めものはなく、むしろ無かったかのように振る舞う彼ら彼女らに違和感すら感じる。
自分達の権利が奪われる気がして俺を無視したり敵視しているのではなかろうか
それほど貴族たちは既得権益を享受していて、それを奪われたくないから、一致団結することができるのではなかろうか。
と、そんなことを思っていると、ミア様が何か思いついたように、食事を終えたリナの口当たりを拭きつつ口を開く。
「そういえば、もうすぐ実技テストが行われますね」
「あ!そうですね!みなさんはどんな感じですか?」
リナが問うとエレナ様が余裕のある表情で言う。
「私はいつも通りだ。みんなは?」
エレナ様が鋭い眼光を俺たちに向けると、ジェフ様とミア様が気まずそうに目を逸らした。
ジェフ様は防御魔法が得意でミア様はパッシブスキルが得意だ。
どれもこのセントラル魔法学園において評価対象外とされている。
「す、すまなかった」
気まずくなったエレナ様が申し訳なさそうに言うと、リナが不安そうに視線をあちこちにやりつつ言う。
「実技テストは、いまいち慣れませんね。国内だけでなく、国外からも偉い方がたくさん来ますから。あ、そういえばお兄様は実技テストは入学以来初めてですよね?」
「あ、ああ。そうだな」
「お兄様ならきっと一番いい点数をもらえるはずです!」
「ん……実技テストってどんな感じ?」
「入学試験とほぼ一緒です。でも、実力を測るのは、学園所属の騎士さんではなくて、魔法によって召喚されたモンスターが測ってくれます!」
「ほお……」
「結構人くるから、学園中がバタバタするって感じですね」
なるほど。
セントラル魔法学園はこの世界では極めて優秀な学園だ。ゆえに国内だけじゃなく国外においても上流貴族たちがやってくる。
単に実力を測るだけではなかろう。
政治の話、ビジネスの話、婚約の話……などなど
別に俺を嫌がる貴族が何をしようが俺の知ったことではないが、心なしか
何かが起きそうな気がしてならなかった。
胸騒ぎがする。
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